道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、タクシーサイネージメディア/モビリティ車窓メディアの仕掛け人、株式会社ニューステクノロジー代表取締役・三浦 純揮さんにお話を聞きました。

事業を立ち上げる面白さを知った「中国での経験」

──まず、起業に至った経緯をお聞かせいただけますか。

新卒でPR会社のベクトルに入社して1年経ったころ、会議室に呼ばれました。

「また怒られるんだろうな」と思ったら「中国に行かないか」と。当時、僕はものすごく生意気だったんです。だからきっと、上司からしてみれば「だったらやってみろ」という気持ちだったんでしょうね。

それで、ベクトルチャイナ(北京支社)の立ち上げ役にアサインされて、オフィスを探すところから事業の立ち上げまでやりました。それがものすごく楽しかったんです。右も左も言葉もわからず、一般的には大変だと思われるようなこともありました。でも、日々新しいことの連続で、不思議と楽しんで取り組んでいましたね。

3年後に帰国すると「自分の事業を立ち上げたい」という思いが強くなり、「これからどうしようかな」と考えていたときに、ニューステクノロジーという会社を任せていただく事になりました。

──ご実家も事業をされているんですよね?

父親が会社経営をしていたので、家の電話には「社長いますか」と電話がかかってくるような幼少期を過ごしたこともあり、漠然と「自分もそうなるんだろうな」という思いはありました。

子どもなのに、飲食店で「領収書ください」と言うようなこともありました(笑)。

移動空間を“情報空間”に変えるタクシーサイネージメディア

──では事業についてお聞かせください。

大きくはモビリティプラットフォーム事業、いわゆるタクシー広告事業と、メディア事業クリエイティブ事業の3軸です。

モビリティプラットフォーム事業は、車内サイネージの「GROWTH(グロース)」と、車窓サイネージの「Canvas(キャンバス)」があります。

GROWTHは、タクシーの乗車中に車内のサイネージで配信される動画広告。Canvasは、タクシーの空車時に車窓に表示される静止画広告です。

また、GROWTHで見ることができる移動時間の情報番組『HEADLIGHT(ヘッドライト)』の制作も行なっています。

GROWTHで放映中の移動時間の情報番組『HEADLIGHT』
GROWTHで放映中の移動時間の情報番組『HEADLIGHT』

──車窓サイネージ「Canvas」は大人気漫画『ONE PIECE』が車窓に投影されて話題になりましたね。

コミックス99巻発売のプロモーションで、都内の約100台のタクシーの車窓に1巻〜99巻までの名シーンが投影されました。最近だと話題になったのは、ホラー映画シリーズでお馴染みの「貞子タクシー」で、タクシーアプリ「S.RIDE」で呼ぶことができ、SNSでもバズりました。

映画『貞子DX』コラボレーション企画「貞子タクシー」
映画『貞子DX』コラボレーション企画「貞子タクシー」

──なぜタクシーに注目を?

ベクトルはPR会社なので僕の仕事もPR中心でしたが、ちょうど競合企業がタクシー広告をはじめていたんです。そのころから、都内のタクシー利用者の層やプライベートな移動空間自体にビジネスの可能性を感じ「タクシーだったら新しい移動体験をつくれるな」と思っていて。ちょうどオリンピックでの需要を見込んで車高の高いタクシーが増えてきた時期でした。

タクシーという空間は座席の目の前のタブレットが自然に目に入って、圧倒的に移動中の映像体験を作りやすいんです。中国で車内サイネージを見てきた経験もあり、タクシーを使った動画マーケティングに注目しました。

──GROWTHのサービス開始は2019年ですが、コロナ禍は影響しましたか?

一時は出稿も落ち込みましたが、振り返るとむしろ追い風になりましたね。

GROWTHのクライアントはBtoBが約7割です。

コロナ禍によりリモートワークが進んで、経費精算や社内業務系などのDX系広告が伸びました。都内のタクシー利用者は、決裁者を含むビジネスパーソンの利用が多いため、自然とタクシー広告出稿後は企業名やサービスに関する検索・問い合わせの増加、サービス導入率の向上など良い効果が確認できました。BtoBでもマーケティングが必要だよね」という機運になったのはラッキーでした。

あとは、コロナ禍では一時的にインプレッション課金型にメニューを変更するなど、クライアントや広告効果に真摯に向き合い続けたという自負もあります。

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インセンティブのないビジョンって、嫌だ
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