ライフハックの文脈で「習慣」というと、「良い習慣を身につける」「好ましいことを習慣化する」という風に、「新たな習慣を獲得する」ことをまず考えると思います。

ですが、自分の人生をよりよくするためには、新たな習慣よりもむしろ、今の悪い習慣を「やめる」ほうが効果的なことが多いのです。

一番悪い習慣が自分の価値を決める

わかりやすい実例を挙げましょう。日々ジムに通い、2時間も鍛錬をしているのに、なかなか体型も健康も改善しない。

その理由は、ワークアウトの後でドーナツを10個も食べていたせいだったのです。

その人は、「ハードなトレーニングをした自分へのご褒美さ!」と言い聞かせながら、この習慣を続けていたそうです。

この例を引き合いに、「あなたの一番悪い習慣があなたの価値を決めている」と説くのは、サイコセラピストのエイミー・モーリンさん。ベストセラー『メンタルが強い人がやめた13の習慣』(講談社)の著者です。

13の習慣についてはこちらの記事に列挙されていますので、一度読んでみてください。

メンタルが強い人に学ぶ、やってはいけないこと13 | ライフハッカー・ジャパン

メンタルが強い人に学ぶ、やってはいけないこと13 | ライフハッカー・ジャパン

今回はその1つ、メンタルが強い人なら習慣化できている、「変化をいとわない」をクローズアップします。

人間は「現状維持を好む」のが普通

人間には、本能的に変化を好まない性質があります。言い換えると「現状維持の習慣」を好むのです。

この習慣がいかに強力かは、『メンタルが強い人がやめた13の習慣』に取り上げられている人々の例からもわかります。

ある人は、34キロもの減量が必要なのに、糖尿病になるまで何も生活改善をしませんでした。またある人は、奨学金返済など多くの出費があるにもかかわらず、やりがいのない薄給の仕事にしがみついていました。

これにはいくつかの心理的要因が絡んでいます。「変化を起こしたら、もっと悪い状況になるのではないか」とか「変化を起こすのは、とても骨の折れることではないか」といったものです。

ですが、変化を起こさなかったら、(人工透析や破産など)最悪の事態になるのが明らかであれば、もう変化を起こすしかないでしょう。

本書でも語られているように、現状維持に甘んじているだけでは、人生は1ミリも前進しません。先延ばしにするほど、改善が困難になるのですから。

「自分へのご褒美」という言い訳で悪習慣を続けてしまう

かくいう筆者も、のっぴきならない状況になるまで、現状維持にとどまりやすい性格でした。色々と試行錯誤してきたことでいくらか克服できたのですが、つまらない悪習慣が、自分の仕事や私生活の足を引っ張っていました。

その1つが「お菓子を食べ過ぎてしまう」ことでした。

筆者は、加工食品をほどよく制限するなど、食生活には比較的気を使っています。ところが、夜になるとお菓子を食べ過ぎてしまう習慣が、ほかの良い習慣のすべてを台無しにしていたのです。

食べてしまう理由は、先に例として挙げたジム通いの人と同じようなものです。「今日も一日仕事を頑張った。だから、自分へのご褒美としてお菓子を食べてもいいだろう。これぐらいなら大丈夫」と自分に言い訳をしてしまっていたのです。

モーリンさんが本書の中で、「自分に当てはまるものはないか」という質問群の1つ目に、「悪い習慣なのに、そんなに悪いことじゃないと正当化する」というのがあります。まさにそれに当てはまりました。

まずはメリットとデメリットをリスト化する

モーリンさんがすすめる、これに打ち克つ第一歩が、「変化のメリットとデメリットを明らかにする」ことです。

ノートに、お菓子をやめることのメリットとデメリットを、リストアップするわけです。以下のようなイメージです。

<メリット>

  • なんとなく満たされた気分になる

<デメリット>

  • 血糖値が上がる
  • 体脂肪が増える
  • 虫歯のリスクが増える
  • 睡眠の質が落ちる
  • (月数千円とはいえ)余計な出費が増える
  • 趣味・エクササイズにあてる時間が減る

モーリンさんは、リストができたら、それを何度も読んで、変化と現状維持の結果をそれぞれ思い浮かべるようアドバイスしています。それでもなお変化について考えていれば、もう実行するしかありません。

もし迷うようなら、1週間だけ変化にチャレンジしてみるといいそうです。

変化には5段階ある

ところで変化には、2通りあります。段階を踏んでゆく変化と、オールオアナッシング、つまり0からいきなり100に進む変化です。

筆者は後者を選びました。つまり、私の家に備蓄しているお菓子を一掃し、一切買わないことにしたのです。

決意は固かったのですが、3日ももちませんでした。 決意して2日目の夜、なぜかどら焼きが食べたくなり、近くのコンビニまで走っていき、どら焼きを1個買いました。

後に自分の中で「どら焼き2週間戦争」と呼んだ、悪夢の日々の始まりです(苦笑)。そう、どら焼きを買うためだけに、夜な夜なコンビニに行ったのです。

しかし、奇妙なことに、2週間経った時点でパタリとどら焼きを食べたいという欲求が消失しました。

そのときの不思議な感覚を覚えています。あの頃は本気で、「一生涯、どら焼きと縁を切れない」と思っていたからです。

とまれ、オールオアナッシングと意気込んでも、いきなりは無理があったというわけです。段階を踏んで変化していくべきでした。

モーリンさんによれば、変化には5段階あるそうです。

「前熟考期」「熟考期」「準備期」があり、そうして行動を起こす「行動期」があります。「行動期」の後には「維持期」があります。これら5つのステップを経て変化に至るのです。

おそらく、「どら焼き2週間戦争」の期間は、実際は考えと決意が煮詰まっていない「熟考期」~「準備期」にあたり、そこから「行動期」に入って、どら焼きをやめられたのだと思います。

いろいろと考えてから「行動期」にいかないと、結果が伴わないと焦る可能性が高いでしょう。

30日間かけて目標を達成する(悪習慣を断ち切る)

モーリンさんが、挫折せずに変化を起こす秘訣として、「30日間の目標設定」をあげています。

30日間かけて、どう変化したいのか? 計画と願望を、現実レベルで設定する必要性があります。

また、「(目標達成を阻害する)障害物を予測」し、変化のプロセスに伴う課題にどう対処するかも計画しておきます。

これをふまえて筆者は、30日間のうち最初の1週間は、お菓子を(完全に絶つのではなく)徐々に減らすという方法をとりました。

次の1週間で、砂糖の含有量の特に多いお菓子と、脂肪分たっぷりの揚げ菓子を完全にやめる。けれど、それ以外のお菓子は少量ならOKという計画を立てました。

このように、30日間のお菓子断ちに至る計画をつくり、実行してみたところ、かなりスムーズにお菓子の習慣をやめられたのです。

その後、何度かリバウンドはありましたが、今では、月1~2回に抑えられています。月に30日お菓子を食べていた頃に比べると、圧倒的な前進です。

同じ要領で、運動をサボるとか、動画サイトを無目的に視聴するといった、好ましくない「現状維持の習慣」を次々とやめていきました。

コツは、最初に「この習慣を現状維持し続けることはいけない」と心の底から実感することです。まずはそこからはじめてみましょう。