商談や会議の場などにおいて、「どれだけ真剣に訴えても、思うように相手を動かすことができない」と悩んだ経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

でも、決して手を抜いているわけではないはずなのに、なぜうまくいかないのでしょうか?

それは、自分の伝えたいことが、自分の“希望通りに”相手に受け入れられていないから。『巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方』(下矢一良 著、Gakken)の著者は、そう指摘しています。

“希望通りに”受け入れられているとは、「伝えた結果、相手が自分の希望する方向に動いてくれること」を指すもの。つまり「伝えること」は、相手を動かすための「手段」に過ぎないというわけです。ならば、伝えることで相手を希望通りに動かすにはどうすればいいのかを知りたいところです。

結論から書きます。それは、あなたの向かいたい方向に相手を「巻き込んで」しまえばよいのです。いわば、あなたの「共犯者」に仕立ててしまうということ。

「共犯者」ですから、あなたのことを単に理解してくれるだけでは終わりません。心強い「応援団」のになれば、一緒に行動してもくれます。(「はじめに」より)

この「巻込み力」を発揮するためには特定の「伝え方の法則」があり、それはソフトバンクの孫正義社長をはじめとする「超一流の起業家」たちが駆使してきたものだといいます。

著者はテレビ東京の経済部記者として取材を重ねるなかで、そのことに気づいたそうですが、ここにはひとつ重要なポイントがあります。それは、彼ら一流の起業家たちの話し方や伝え方が飛び抜けて巧みだったわけではなく、一様に「伝え上手」だったという指摘。

端的にいえば、「自分自身のことを伝える技術」が彼らを際立たせていたということです。

ところで、うまく伝えることができない場合、そこに絡みつく要因のひとつとして「緊張」があります。緊張してしまうからこそ、伝わるものも伝わらなくなってしまうということ。

だからこそ、その対処法をぜひとも知りたいところ。そこできょうは第4章「ピンチのときは『体当たり』で突破する」のなかから、緊張を克服するために有効な考え方、そして著者自身が実践しているというメソッドを抜き出してみたいと思います。

緊張対策は「嫌われる勇気」を持つこと

話す際に緊張してしまう場面といえば、テレビカメラを前に話す機会が最たるものかもしれません。著者自身、話し方で失敗してしまう経営者の姿を、数多く目の当たりにしてきたと振り返っています。

しかしその一方、テレビカメラを前にしても緊張せず、表情豊かに自分のことばで生き生きと伝えたいことを伝えられる経営者がいたのも事実であるようです。

そして注目すべきは、さまざまなタイプの経営者を取材するうちに、緊張してうまく話せなくなる経営者、逆に力強く自分のことばでアピールできる経営者、それぞれに共通点があることに気づいたという点。

緊張して普段通りに話せなくなる経営者の共通点は、「会社員として出世して、社長にまで上り詰めた人たち」なのだそうです。それに対し、緊張とは無縁で話せる人は「自分で起業した人たち」。これは起業して大きな成功をつかんだ経営者だけでなく、起業直後で従業員が誰もいないような会社の経営者にもあてはまるのだといいます。

著者によれば、こうした違いが生まれるのは、テレビカメラを前にした気持ちの持ち方が根本的に異なるから。

「緊張して普段通りに話せなくなる経営者」は、テレビカメラを前にして無意識のうちに「守りの発想」になっているということ。しかし「自分で起業した経営者」の場合はテレビカメラを前にしても緊張せず、それどころかカメラに食らいついてくるというのです。

なぜ、「自分で起業した経営者」はテレビカメラを前にしても、緊張しないのでしょうか。

それは「悪く思われることへの恐れ」より、「自分たちの商品の良さを伝えたい気持ち」のほうが、はるかに強いから。

テレビカメラに対し、まさに「攻めの発想」で向かっているのです。(201ページより)

つまり過度に緊張してしまうときは、他人の視線を恐れるあまり「守りの発想」になってしまうということなのかもしれません。

したがって、自分が「守りの発想」となっていることを自覚したうえで、気持ちを「攻めの発想」へと切り替えることが必要であるわけです。(198ページより)

どこでもできる! 過度の緊張を一瞬で和らげる方法

とはいっても、気持ちを「攻めの発想」に切り替えることは決して簡単なことではないでしょう。そこで参考にしたいのが、著者が昔から用いているという方法です。

それは「ドアスイッチ法」。文字通り、部屋の入り口にある「ドア」を、気持ちを切り替えるための「スイッチ」に仕立てる方法なのだといいます。

ちなみに著者がこの方法を発見したのは、就職活動をしていたときだったそうです。

当時は面接を受けても連戦連敗で、緊張のあまり浮き足立ってしまい、思っていることを整理して話せなくなっていたのだとか。

その日も面接を受けるために、ある会社を訪れました。私の名前が呼ばれ、入室を促されます。ドアノブを握りながら、ふと思ったのです。

「この扉の先は、演劇の舞台だ。扉を開けて部屋に入った瞬間から、自分自身を演じる役者として振る舞おう」

そう思った瞬間、肩の力が抜けました。その面接では、自然に自分自身を伝えることができたのです。

それ以来、私は緊張しそうな場面に遭遇するたびに、ドアノブを触れた瞬間、同じように自分自身に言い聞かせるようにしています。まさにドアノブが気持ちを切り替えるスイッチとして働くのです。(202ページより)

なお、扉がなくてドアノブに触れることができなかったとしても問題はないようです。そんなときは、自分でスイッチを決めてしまえばいいだけだからです。

たとえば著者の場合、ドアがないときには、歩いて行く先の床上に一本の線を想定するのだそうです。そうしたうえで、「この線を越えたら、そこから先は舞台だ」と自分にいい聞かせるわけです。

つまり重要なのは、本番直前に“気持ちを切り替えるなんらかのスイッチ”を設定すること。そうすれば、冷静さを取り戻して堂々と振る舞うことができるということです。(201ページより)

人を動かすために必要なのは、「論理的な説明の仕方」でもなければ、「滑舌のよい話し方」でもないと著者は断言しています。

本当に求められるべきは、まず「自分自身」のことを伝える技術なのだと。そのための術を明かした本書を参考にしてみれば、著者のいう「巻込み力」を身につけることができるかもしれません。

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Source: Gakken