会社に就職して何年か働いてはみたものの、「いくら働いても仕事に自信が持てない」「いまの仕事が自分に向いているのかわからない」「キャリアの将来が見通せない」というような気持ちから抜け出せず、これからどんなふうに働けばいいのかわからなくなってしまったーー。
『働くコンパスを手に入れる: 〈仕事旅行社〉式・職業体験のススメ』(田中 翼 著、晶文社)の著者は、そんな思いを抱えた人たちのことを<仕事迷子>と呼んでいます。
僕は、そんな<仕事迷子>たちに向けて、社会人のための職業体験という<旅>を提供する「仕事旅行社」を運営しています。(「はじめに」より)
旅の受け入れ先(ホスト)は、花屋、カフェ店員、編集者、革小物職人、ネイリスト、バーテンダー、絵本作家、旅行家、神主など多種多様。
参加者はホストの仕事の一部を手伝いながら、さまざまな話を聞くことができるというのです。
ホストがいままでどんな仕事をし、どんな人生を送ってきたか、なにが得意でなにが苦手か、仕事を通じてどんな社会をつくり上げたいかというような話を聞くことで、ホストの仕事観やキャリア意識を知ってもらうわけです。
2011年に仕事旅行社を立ち上げて以来、20代後半から30代前半の会社員を中心に、のべ3万人以上が参加したのだとか。
そして本書では、仕事旅行とはなにかを読者に知ってもらうために、11人の仕事人たちに話を聞いているわけです。
きょうは第1章「オリエンテーションーー仕事旅行ってなんだ?」のなかから、仕事旅行に関する基礎的な考え方を抜き出してみたいと思います。
仕事旅行では何ができる?
仕事旅行社が提供している「旅行」の内容は、おもに次のような構成になっているそうです。
1. ホストの仕事観やキャリア意識について話を聞く
2. プロの仕事を見学させてもらう
3. 仕事に挑戦する
(23ページより)
参加者が自分の仕事の合間をぬって参加できるよう、多くの体験は週末や平日夜に日帰りできるコースになっているそう。
その場においては、たとえば革小物工房で職人さんの話を聞きながらパスケースを製作したり、結婚相談所のカウンセリング方法を学び、参加者同士で相談を行ったりするわけです。
旅の構成のうちで重要なのは、実際の仕事体験のみならず、ホストとさまざまな話をすること。仕事観やキャリアにより深く触れ、自分自身の働き方を見なおすための学びにつなげてもらうことを狙いとしているのです。(22ページより)
やってみるから気づく「6つの仕事基礎力」
人から話を聞くだけで気づきが得られる「キャリア意識(軸)」とは異なり、「仕事の基礎力(幅)」は頭で考えてどうなるものでもありません。やってみないことには、得意・不得意さえわからないということです。
どれくらいのことならこなせて、どこを超えるとできないのか? 自分らしく働くためには、体験を通じて自分の「幅(キャパ)」を知ったうえで、職種や業務に応じ、できることの範囲を広げていくことも重要。
その点、「経験学習」でもある仕事旅行では、実際の仕事の“現場”で幅広い社会人基礎力をテスト的にトレーニングできるわけです。
もちろん、1日の職業体験では、特定の業務に必要となる高度なスキルを身につけることは不可能。スキルを身につけたいなら、その業務を行う会社に入ったり、長期間弟子入りしたり、専門学校に通ったりすることも必要となるでしょう。
しかしスタートラインとしての“きっかけ”を得ることはできるわけで、それが大きな意味を持つといいます。
仕事旅行社では、体験内容やホストの職種・業種、こだわり、仕事のうえで大切にしていることなどに応じ、次の「6つの基礎力」に触れられるような旅をカテゴライズしているのだそうです。
経済産業省が定義する人生100年時代の「社会人基礎力」を踏まえ、仕事旅行のカリキュラムにフィットする形でアレンジしたそう。( )内に入っているのは、該当する社会人基礎力だといいます。
<仕事旅行で得られる6つのキャパシティ>
(1) 自分から動き、「好き」を形にするチカラ(主体性・実行力)
(2) しなやかに発想し、価値を生み出すチカラ(課題発見力・創造力)
(3) 想いをシェアし、周囲に働きかけるチカラ(発信力・働きかけ力)
(4) 伝統の知恵に学び、枠を超えていくチカラ(規律性・柔軟性)
(5) 人の声に耳を傾け、人間関係を癒すチカラ(傾聴力・状況把握力)
(6) モチベーションを高め、長く続けるチカラ(計画力・ストレスコントロール力)
(33ページより)
より確かな学びの実感を得るためには、これら6つの基礎カテゴリーをバランスよく、あるいは気になるカテゴリーを重点的に、複数(3〜5カ所)の旅先を巡るといいそうです。
いずれの際にもいちばん大切なのは、体験後に「振り返りと実践(実際の仕事あるいは次の旅行先での)」サイクルを回すこと。それにより、一層学びの手応えを感じることができるということです。(32ページより)
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本編で思いを語っている人たちの仕事は、地域プロデューサー、大手メーカー勤務、旅行家、能楽師、コミュニティデザイナーなど多種多様。
注目すべきは、決して成功談ばかりが明らかにされているわけではなく、悩みや試行錯誤を繰り返すプロセスなどにも焦点が当てられているところ。
したがって読者は、それらの体験談を通じ、仕事とはなにかを考え、自分のキャリアを形成するための「コンパス(指針)」を見つけ出すことができるわけです。
仕事についてのモヤモヤとした悩みを抱えている方にとって、本書はきっと参考になるだろうと思います。
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Photo: 印南敦史