手本にしたい究極のリーダーシップや気質、たとえば、スティーブ・ジョブズやその他の著名な起業家たちのそれを思い描いた時、何を思い浮かべますか? 自信でしょうか? それとも、ビジョン? 戦略?
ジョブズにとっては、まわりの人間の英知を信頼することでした。
彼は、生前の休暇中にフォーチュン誌シニア編集員のベッツィー・モリス氏のインタビューに答え、Appleの成功についてこう語っていました。
いいアイデアが上がってきたら、それを話題にするのが私の役目です。ほかの社員はどう思うか、あちこちで話題になるようにして、100人ほどの社員の間で議論させたりしてね。
いろんな方面の人間を集めて、さまざまな観点から検証してもらうのです。
ここで、「私の」アイデア、とジョブズが言わなかったことに注目してください。Appleの成功は、ともに働いている社員の成功にかかっていると、彼は理解していたのです。
社員のアイデアが、大きなイノベーション、ひいては組織の成長につながることは、スタートアップや起業家の間では常識です。自由な発想をフルに生かせる環境を提供できれば、ですが。
ジョブズが二度目にAppleに舞い戻ったころには、彼のリーダーシップスキルもレベルアップし、情報化社会においての自身の立ち位置もよく自覚していました。
そして、後に、私たちの生活になくてはならないと思わせるほどのApple製品を世に送り出すことになります。
これについて、ジョブズは、次のように述べています。
優秀な人材を雇って、何をすべきか彼らに指示するなんて、本末転倒。そうではなく、何をすべきかは、その優秀な人材に考えてもらうのです。
いいアイデアは、どんどん叩いて議論する
ここに、核心を突くスティーブ・ジョブズの教えがあります。企業の全体的な成功には、社員ひとりひとりの役割が欠かせないと、指導者が肝に銘じるということです。
すなわち、自分のアイデアに社内の誰が異を唱えても構わない、という不安定極まりない立場に指導者みずからが立つ。企業が急成長するには、そんな企業文化が不可欠です。
手はじめに、社員が反対意見を述べられる環境をつくりましょう。
ジョブズ自身、熱意に溢れ、先見の明があり、また確固たる意見の持ち主ではありましたが、常に正しかった訳ではありません。彼は、自身の考えを述べたあとは、自由な議論が行なわれるに任せました。
このような生産的かつ健全な議論なくしては、一緒に働く者が、相手を尊重しつつもポジティブな言葉で自由に意見を述べ、かつフィードバックにはオープンに耳を傾けるような環境は構築できません。
こうして、徹底したトランスパレンシー(情報開示、風通しの良さ)を確保しましょう。そして、それ以降も、チームや企業文化、ミッションとは相容れない不適切な考えや個人プレーを寄せ付けないように、常に気を配る必要があります。
責任の所在を明らかにする
では、実際にはどうすればいいのでしょうか? データと事実に基づいて議論を交わし、その結果をもとに最善の案を採用するよう徹底し、責任の所在を明らかにすることです。
さらに重要なのは、まず相手を尊重し、相手の主張に耳を傾け、理解に努めることです。ビジネスに関する新しいアイデアをさまざまな観点から検討するなかで、解決策を探るのは、そのずっとあと、最後の段階でいいのです。
スタートアップで働くような頭脳明晰でクリエイティブな技術者やエンジニアは、もとより起業家志向で問題解決能力に秀でています。ですから、解決を急ぐより、まず彼らを理解して意見を調整し、それからともに問題解決にあたるべきです。
これが、スティーブ・ジョブズのやり方でもあったはずです。
ジョブズは、モリス氏にこう言ったそうです。
OS Xほど高度なオペレーティングシステムをスマホに搭載するなんて誰も考えてもみなかったので、大問題でした。
実現可能かどうか、社内で大きな議論を呼びましたが、最終的には、「よし、やってみよう。」と私が決断を下すことになりました。
頭脳明晰なエンジニアができると言うのだから、やらせてみよう、と。そして、彼らは見事に成し遂げてくれました。
Originally published by Inc. [原文]
Copyright © 2022 Mansueto Ventures LLC.