作家のニール・パスリチャ氏は、「喪失体験」を数多く重ねてきました。そのことについて、同氏は次のように書いています。
私は一番の親友を自殺で、妻を離婚で失いました…それも、同じ週にです。
さらに、私自身も心の問題を抱えていました。不安、心配、押し寄せる自信喪失の波に、思春期から苦しめられてきました。
こうしたさまざまな苦難に見舞われながらも、パスリチャ氏は、幸せでいられる方法を見つけ出しました。そして、このトピックについて本を著しました。その名も、『The Happiness Equation(幸せの方程式)』という本です。
「みんなが幸せな人生を送れるよう後押しをすること」こそ、パスリチャ氏の「生きがい」(朝目覚めた時のやる気の源)なのです。
そんなパスリチャ氏の最新刊は、読者とのコラボレーションで生まれた『Our Book of Awesome(私たちの「最高!」集)』です。
この本の中で同氏は、1日のささやかな瞬間を最高で幸せなものにする、自らのテクニックを披露しています(その中からいくつかを紹介すると、「オンラインショッピングの注文を自分へのギフトにして、メッセージを追加する」「ビュッフェの料理をミックスして、新しい味わいを考案する」、さらには「テニスプレーヤーの雄叫びを聞く」というものまであります)。
私がこの本を読んでいたのは旅行で移動している最中でしたが、時差ボケをやり過ごすためには最適のお供でした。
パスリチャ氏によれば、創造力を働かせることが幸せのカギです。同氏が非常に多作なのも、それが理由です。
事実、何冊も本を出版し、何千件ものブログ投稿や、ハーバード・ビジネス・レビューへの寄稿を行なっているのに加えて、ポッドキャストの運営や、4つのニュースレターの発行、さらにはプロフェッショナル向けの講演ビジネスを手がけています。
今回はパスリチャ氏にインタビューを行ない、著作をはじめとする同氏の活動のプロセスや、創造力を維持する秘訣についてうかがいました。
疑念と決定の間でバランスを取る
クリエイティブな活動に関わる人にとって、疑念は、作品を磨き上げるという意味で、プラスの方向に働くことがある一方で、作品を完成させようとする際の妨げになる、厄介な存在でもあります。
たとえばレオナルド・ダ・ビンチは、自身の作品が完成したと宣言するのをためらうことが多かったと言います。
そこで私はパスリチャ氏に対して、真っ先に次のような質問を投げかけました――自分の著作が完成したと、どうやって判断しているのですか? あなたにとって「合格レベルに達した作品」とはどのようなものでしょうか?
この問いかけに対する返答は、以下のようなものでした。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事について言えば、少なくとも自分の手元で17回は読み直してから編集部に送っています。
その際には、一度書き上げてから1、2週間は寝かせておいて、新鮮な目で見直すとともに、1、2人の人に原稿を読んでもらい、フィードバックを得ています。
私はこれまで、たくさんのものを読んできたので、読み直すことで自分の基準に合致しているかどうか判断できます。
公になった自分の作品に関して後悔を感じているとしたら、それは、自分の基準に達していないことを心の内ではわかっていたからです。
パスリチャ氏は次のようにも述べています。
私にとって危険なのは、実は(著作物の)質がある程度のレベルに達していない、ということではありません。
危険なのはむしろ、あまりに長い間寝かせたり、あれこれと考えすぎたりしてしまい、何も発表できないことです(中略)。
(米国公共ラジオNPRのパーソナリティーでエッセイストの)デビッド・セダリス氏も、ニューヨーカー誌に原稿を送るまで、17回推敲を重ねたと語っていました。
しかも、同誌の編集部がさらに34回訂正を加えたうえで、記事が発表されたというのです。
私ならとても耐えられません。個人的には、これはやりすぎに感じますが、セダリス氏のような人にとっては、これは必要なプロセスなのでしょう。
問題は、あまりに高すぎる目標を掲げることで、何も成し遂げられない場合があるということです。
これは、アートやクリエイティブな活動に関わっている人には常につきまとう問題です。完璧を求めようとする執念は、最高に優れた作品を産む原動力にもなりますが、その一方で、強すぎる思いに作者が打ち負かされてしまうこともあるのです。
「完璧でなければならない」という思い込みを手放し、「まずは多くの作品を世に送ろう。そこから完璧なものが出てくるはずだ」との心構えを持つことが、創造性を羽ばたかせるカギになるでしょう。
「質は量から生まれる」ことを心に刻む
インタビュー当日、パスリチャ氏は、TikTokに投稿されている、自身の著作物に関係するハッシュタグ(#selfhelpや#neilpasrichaなど)が添えられた動画を探し、投稿した人たちに自分の新著をプレゼントしたいと申し出ていました。
メールの文面も自分で書き、できるだけ人間味があるものになるよう気を配っていました。本当に著者自身が書いたものか、それともボットなのか、受け取った人は文面を読めばわかってしまうからです。
パスリチャ氏がこのような自分の作品のプロモーションを行なうのは、興味を持っている人たちの目に触れる機会をつくるためです。問題は、どんなプロモーション手段が受け取った人の心に響くのか、よくわかっていない点です。
今、私はBBCとのインタビューを終えたばかりです。そしてこのあとすぐに、別のインタビューの予定も入っています。
この3つのインタビューのうち、話題を呼ぶのはおそらく1つだけでしょう。
あなたやBBCのことを悪く言っているわけではありませんよ。マイナーなポッドキャストに出演して、そのエピソードが大々的に拡散される、ということもあるんです。
そこで私は、パスリチャ氏が出演したポッドキャスト「Farnam Street」の最新エピソードを拝聴しましたよ、と伝えました。するとこんな返答がありました。
「私がFarnam Streetのポッドキャストに再び出演したのは、私が初めて出演した時のポッドキャストが、このサイトでも最大級のヒットとなったからです。
それは、私や、(同サイトを運営する)Shane(Parrish氏)にとっては、気付かないうちに起こった現象で、意外なことでした。
つまり、そのポッドキャストの何かが、拡散につながったのです(中略)。
前回本を出版した時には、おそらく100件ほどのポッドキャストに出演したと思いますが、その中で(大人気になったのは)これだけです。
たくさんのポッドキャストに出て、(すべてのエピソードが大人気になっていたら)、もっと本が売れていたと思いませんか?
私が言いたいのは、たまたまこの回が人気を呼んだわけですが、100件のポッドキャストに出演していなかったら、その回も、人々から見つけられていなかっただろう、ということです。
量の問題は、パスリチャ氏が以前の著書『You Are Awesome(あなたは最高)』で書いていたテーマの1つです。こちらに掲載されているこの本の抜粋で、同氏は、自身が職探しをしていた時の体験についてこう綴っています。
100社ほどの会社の名前が浮かびました。そこで私は、電話での売り込み用に、30秒間のスクリプトを作成しました。
私はリーダーシップについて学んでいる学生で、人事部のリーダーにいくつか質問がしたいという内容でした。そして、名前が浮かんだ100社全部に電話をかけました。
枠組みの中で自由を見いだす
パスリチャ氏はまた、「月間ダッシュボード」というメソッドの提唱者でもあります。そのやり方について、同氏は次のように説明します。
12の項目について4つのフォーカスエリアを設け、毎月の進捗状況を緑、黄色、赤でマーキングします。
緑は「よくできている!」という事柄。黄色は「いいところまで来ている」事柄。そして赤は「まだまだ道が遠い」というものです。
筆者は、パスリチャ氏に対してこう質問しました。「季節ごとに新たなプロジェクトが発生するなかで、どうやってこのダッシュボードや、そこに記された目標を管理しているのですか?」と。
たとえば同氏は、新たな本の刊行に向けて、毎月1章を書き上げることを目標としていて、その進み具合をダッシュボードで計測しているそうです。自身の新刊書のプロモーションをしながら、こちらのタスクも実行することなどできるのでしょうか?
同氏は、「(今月は)何も書いていません。新刊書のプロモーションに集中しているからです」と答えました。
今月のダッシュボードは変更することになるでしょう。
新しい記事1本、新しい1章を書くことではなく、TikTokで100人のユーザーにリーチすることが目標になるはずです。まったく違う内容ですが、これはガイドラインですからね。
「私は今、信頼をテーマとした別の本にも取り組んでいて、こちらには数年の時間を費やしてきました。溺れかけています。まるで流砂のようです」とパスリチャ氏は打ち明けます。
今回の新刊書のプロモーションが終われば、月間ダッシュボードのフォーカスは、次の著作に変更することになります。
その時には、私も自分のリズムに戻り、そのリズムに合わせたダッシュボードをつくるでしょう。
また、パスリチャ氏は次のように言っています。
これらのダッシュボードの特徴は、「枠組みの中の自由」と表現できます。
枠組みがあるからこそ、無用な心配から解放されるのです(中略)。これらの枠組みは、より多くのタスクを実行できるよう、時間をつくり出すのに役立っているのです。
執筆活動に充てる時間が増えれば、幸せでいられる時間も増える、ということです。
Source: GLOBAL HAPPINESS(1, 2, 3, 4), TORONTO STAR, NEIL PASRICHA(1, 2, 3, 4, 5, 6), Gretchen Rubin, Harvard Business Review, HOLLOWAY, HERBERT LUI, fs(1, 2)
Originally published by Fast Company [原文]
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