人は、予想もしないような社会の激変に翻弄されるもの。たとえばすぐに思い浮かぶのは、世界中で猛威をふるう新型コロナウイルスがもたらしたものの大きさです。
しかしそれでも、人間には過去から伝承されてきた知恵と経験がある。そう主張するのは、『山あり谷ありの32人に学ぶ成功の法則 人生! 逆転図鑑』(早見 俊 著、秀和システム)の著者。
知恵と経験、希望により、人類は数々の困難を克服してきたということです。本書も、そのような観点に基づいて書かれたもの。
この著作で取り上げた32人の人物の多くは、社会の荒波に呑み込まれ、財産、家族、友人、恋人、名誉、地位を失ったり、倒産、離婚、裏切り、敗北を経験しました。
苦難を乗り越え、成功をつかむのは立志伝中の人物の常道ですが、サクセスストーリーという美名で呼ぶだけでは足りない要素が、32名の人生にはあります。
努力、勤勉、才能、野望、そして強運、成功者が備えている資質です。32人にもそれらの資質は備わっていました。
しかし、彼らを突き動かしたもの、それは、成功という果実だけではありません。私が32人の人生を辿り、感じたのは彼らの使命感です。(「まえがき」より)
そんな考え方を軸に、さまざまな分野で人生を逆転させてきた32人の生きざまを切り取っているわけです。
特徴的なのは、32人を「執念爆発型」「才気煥発型」「国難逆転型」「強メンタル型」「大器晩成型」という5つの型に分類しているところ。
きょうは、挫折や理不尽にも折れなかった人物に焦点を当てた第4章「強メンタル型」のなかから、ウォルト・ディズニーの人生に焦点を当ててみたいと思います。
「4つのC」で夢の国をつくった男
「夢を叶える秘訣を知っていれば、どんなハードルも超えられる」 ウォルト・ディズニーが残した言葉です。
彼は秘訣についても具体的に語っています。秘訣は「4つのC」だというのです。
いわく、Curiosity(好奇心)、Courage(勇気)、Constancy(継続)、そしてConfidence(自信)です。ディズニーは「4つのC」を実践し、大きな困難を乗り越え夢を実現したのでした。
1901年にイリノイ州シカゴの貧しい居住区で生まれたウォルト・ディズニー(以下:ディズニー)は、4歳のときミズーリ州に引っ越します。
父イライアスの弟が農園を持っていたためで、同州のマーセリーンに農場を買って移り住んだのです。約16ヘクタールの農地で、一家は果物、小麦、とうもろこしを栽培し、家畜を育てたといいます。
ディズニーは牛や豚、鶏と接するのが大好きで、積極的に農場の仕事を手伝ったそう。そして、そんな環境のなか、リスやウサギ、小鳥をスケッチブックに描くようになります。
つまり豊かな自然が強い影響を与えたわけですが、それだけではなく、巡業に来た大衆演劇と映画も彼を刺激することになったのでした。
とくに強い印象を受けたのは、演劇「ピーターパン」。後年になって彼がアニメ映画化する際、主演のモード・アダムスに脚本を送ってアドバイスを求めたほどだったそうで、マーセリーンでの暮らしは人生を決定づけるほどのものだったわけです。
ところが農場経営は次第に悪化し、経営をめぐってイライアスと長男、次男が対立。その結果、ふたりは農場を去り、父は肺炎に倒れてしまいます。そのため三男のロイが農場を支えなければならなくなったものの、彼は当時16歳。経営などできるはずもなく、ほどなく農場は競売にかけられることになったのでした。
当然ながら8歳だったディズニーも大きなショックを受けますが、動物たちとの楽しい日々とつらい別れという両極端の体験が、クリエイター、ウォルト・ディズニーを形成することにもなったのも事実なのです。(211ページより)
アニメの道を志すも、最初の倒産
その後、一家はカンザスシティに戻り、苦難の時期を過ごします。そして美術学校に入学するためにお金を貯めていたディズニーは、やがて昼は地元の高校に通い、夜は美術学校で学ぶようになりました。
当時から漫画に使えるギャグをノートに書き留めており、1940年にアニメ映画を制作すること、その数は150万個にもなっていたというのですから驚きです。
1914年に勃発した第1次世界大戦の際、赤十字の衛生兵として戦地で負傷兵の手当てと輸送に従事したのち、終戦後は、地元の銀行に勤めていた兄ロイを頼ってカンザスシティへ。
のちにパートナーとなるアブ・アイワークスと出会い、紆余曲折を経たのちにデザイン会社「ウォルト・アイワークス・カンパニー」を立ち上げます。
ディズニーはそこで短編アニメーションの制作を始め、できあがった映画を劇場主に売り込み、好評を得るとフィルム・アド社の社長に定期的にアニメ映画の制作を持ちかけたのだそうです。しかし、よい返事はもらえませんでした。
それでもディズニーは、アニメ映画の制作に手応えを感じました。すぐには商売にはならなくても、勇気(Courage)を持って制作を続けようと決意します。
決意すると、自信(Confidence)もわいてきました。(214ページより)
そこで資金を集めてアニメ制作会社を設立し、おとぎ話をアニメ化。好評を得ることができたものの、配給会社が倒産して代金が未回収となってしまったため、倒産の憂き目にあってしまいます。(213ページより)
大ピンチ時に誕生したキャラクター
その後ディズニーは実写映画を制作しようとしますが、無名の彼を雇ってくれるスタジオなどありません。そんななか兄ロイは、アニメ制作に戻るべきだと諭します。
このとき映画監督になりたい一心だったディズニーは、継続(Constancy)を怠っていたわけです。しかしロイのことばに耳を傾け、ふたたびスケッチブックを開きます。
このときのディズニーは、発足したばかりの会社を倒産させてしまい、自分を見失っていたのです。継続(Constancy)の大切さを思い出し、アニメ制作を続けるべきだと思い直します。書き溜めていたギャグを活かした短編アニメ映画の制作に挑んだのです。(216ページより)
その結果、ニューヨークの映画配給会社M・J・ウィンクラーという女性社長が作品を1本1500ドルで6本買ってくれることに。
ディズニーとロイは会社を立ち上げますが、会社経営が順調になったころ、配給会社の経営を引き継いだウィンクらーの夫ミンツが買い取り額の引き下げを要求。ディズニーが拒否すると、彼が育ててきたアニメーターたちを引き抜いてしまいます。
しかし、彼は希望を捨てませんでした。 今こそ「4つのC」を発揮するときです。 ディズニーは、新しいキャラクターを創造しようと、スケッチブックに向かいます。 そこででき上がったのが「ミッキーマウス」でした。(217ページより)
こうしてミッキーマウスは世界中の子どもたちに受け入れられ、以後のディズニーは快進撃を続けるわけです。
つまり彼は、失敗を重ね、何度も苦境に陥りながらも「4つのC」で人生を逆転させて見せたのです。(215ページより)
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このように本書では、有名な人から知られざる人まで、多くの人々の“逆転ドラマ”が紹介されています。
しかも章や順番に関係なく、気になった人物から読むことができるところが魅力。逆境の乗り越え方もさまざまなので、思いもよらないストーリーを見つけ出すことができるかもしれません。
逆境を乗り越える術を模索している方は、あるいはそうでなくとも、手にとってみてはいかがでしょうか?
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Source: 秀和システム
Photo: 印南敦史