『使えるアイデアがあふれ出る すごいブレスト』(石井力重 著、フォレスト出版)の著者は、「創造工学」の研究者。
グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIをはじめとする600件以上の企業や教育機関で、2万人以上のビジネスパーソンや学生にアイデア創出やブレストの研修を実施してきたのだそうです。
タイトルからもわかるとおり、本書のテーマはブレスト(ブレインストーミング)。
こうした本を書いたのは、「ブレストが苦痛だ」「ブレストをしてもよいアイデアが出てこない」という声が多かったからなのだとか。つまり、そこに問題意識を見出したのでしょう。
今後、テクノロジーが進化していくと、人間に残される仕事は「創造」です。そして「アイデア出し」はその基礎となります。
そうした時代を見据えて、企業や大学では「さまざまなブレストの実践講座」が増えており、成果も出ています。
そしてオンラインであっても、やりやすいブレストの方法があるので、今回はそれについて紹介したいと思います。(「はじめに」より)
そんな本書のなかから、きょうは「なぜブレストがアイデア出しに有効なのか」などブレストの基本について解説された第1章「なぜ『アイデア出し』にブレストが効くのか?」に焦点を当ててみたいと思います。
なぜ「アイデア出し」にブレストが効くのか?
ブレストがうまいと、優れたアイデアを得られる確率が格段に高まると著者はいいます。
なぜなら、アイデアの創出には「量が質をもたらす」という傾向があるから。
したがって重要なのは、まずたくさんアイデアを出すこと。優れたアイデアを生み出したいのであれば、よい/悪いはひとまず脇に置き、とにかくアイデアをたくさん出すことが鉄則だということです。
創造性に関するさまざまな実験から、多くの人は“ブレストをすると良いアイデアが出せると期待する”ということがわかっています。実際に“良いアイデア”が出せるかどうかは別にして、“期待する”ことでチームのメンバーたちは長時間、アイデア創出の作業に取り組み、結果としてたくさんのアイデアを生み出せます。(11〜12ページより)
とはいえ、“下手なブレスト”は逆効果。
たとえば冷えた状態でブレストを始めると、最初の数分間は「様子見のロス」(みんなが様子見をして発言を控える状態)が起きるもの。
また「評価懸念」(変なアイデアを出したら、バカにされないかという不安)や「社会的手抜き」(アイデア出しは優秀な人に任せ、自分はやらなくてもいいという心理)なども起こり得るといいます。
もし参加者がそういう心理状態にあったとしたら、アイデアを大量に出すどころか、疲れるばかりでよいアイデアなど出ないわけです。
したがって、ブレストをやるのであれば、「上手にやる」ことが大前提になるのです。(11ページより)
そもそもブレストってなに?
ブレストをひとことで表現するなら、集団発想法のひとつ。
みんなで集まってアイデアを出し合う行為に一定のやり方を定め、「ブレインストーミング」と名づけたのは、アメリカの広告代理店の副社長をしていたアレックス・F・オズボーン(1888〜1966)という人だそう。彼がブレストの原型となるものを実施したのは、1930年代後半のことだったといいます。
オズボーンはブレストを、「小一時間の創造的な話し合い」と述べ、いくつかのルールをつくったといいます。たとえば、「質にこだわらずたくさん出そう」「他人のアイデアを批判しないようにしよう」など。
つまりは参加者全員が創造的イマジネーションを発揮しやすいように、安心・安全な心理状態にいられるためのルールを設けようということ。
ただしルールといっても厳格なものではなく、みんながよい状態でクリエイティブな方面に頭を使えるようにするためのガイドのようなものだそうです。(15ページより)
具体的なブレストの進め方
著者によれば、標準的なブレストの流れは次のとおり。
1. 準備
- テーマオーナー(ブレストのテーマを持ち込む人)がメンバーに参加を依頼し、資材を準備(ふせんやノート、ペン、ホワイトボードなどの筆記用具、場合によっては休憩用の飲み物やお菓子なども)。
- メンバー全員がブレストの進め方に慣れていないようであれば、誰かひとりがファシリテーター(進行役)になり、進行をリード。
2. テーマの紹介
- テーマオーナーが、「○○を△△するには、どうすればいいか?」というようなテーマを、ホワイトボードなどに大きく書いてはっきりと提示。
- テーマについて質問したり、アイデアを考えるにあたって必要な背景などの情報を追加で聞き出したりして、全員がテーマを理解するようにする。
3. 発想して、発言して、書き出す
- ブレストを開始。
- アイデアを思いついた参加者は即座に発言。
- 前の発言者の話の流れを受ける必要はなく、みんなでひたすらアイデアを列挙する。
- 誰かがアイデアを聞いているときに派生のアイデアが浮かんだらそれも発言。
- 書記役は上がってきたアイデアをホワイトボードに記述。書記役がいない場合は、各自がポストイットに書き留める。
- ファシリテーターは、創造的な会話がしやすくなるように、場の雰囲気づくりや発言を促す。
終了間際に発言が活発になった場合は、「あと10分、延長しましょう」などと区切りを設け、延長してもよい。
4. 獲得
- 終了後はテーマオーナーが出てきたアイデアをチェックし、記憶が新鮮なうちにアイデアリストを書き出す。
- ホワイトボードやポストイットの内容もPCなどにデータとしてまとめる。
(ブレストの最中に書かれたものは“速記メモ”なので、必要に応じてことばを補って書いておくことが重要)
- テーマオーナーは発言者への質問があれば終了前に聞いておき、終了にあたっては参加者にお礼を告げて終了。
- みんなで会場を片づける。(16ページより)
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「人間の仕事の大半が、将来的にAI(人工知能)にとって変わられるといわれている時代だからこそ、「創造」「ブレスト」の価値は高まりつつあるのでしょう。
質の高いアイデアを生み出すために、ぜひ参考にしたい一冊です。
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Source: フォレスト出版
Photo: 印南敦史