ソフトウェアスタートアップ「Friday」を始めた時、Luke Thomas氏は部下のエンジニアたちの雰囲気を読むのに苦労しました。
Thomas氏が自分のことを神経質な上司だと思っているからだけでなく、エンジニアの士気を見極めるのは非常に重要です。
「Friday」は、現在の進捗と目標に関して、迅速かつ簡単なアンケートを定期的にすることで、上司がリモートで働く従業員を管理するためにつくられたアプリです。
しかし、仕事上の共感がなければ、Web上のアンケートで遠く離れたところにいるチームメンバーや部下たちの、仕事に対する気持ちを推し量るのは難しいです。
それでThomasは、標準ユニコードのカラフルな3304の絵文字に仕事を託しました。
今は、「Friday」の各チームメンバーの毎日の進捗の上部に、「絵文字の質問」が表示されます。「Friday」アプリを使っている、LinkedInからTampa空港まで幅広い組織の数千もの従業員の間で、一番人気の質問でもあります。
一目見て、上司には部下や従業員が張り切っているのか、疲れているのか、参ってしまっているのかがわかります。
米ベンチャーキャピタル「Bessemer Venture Partners」のシードラウンドで、最近210万ドルを資金調達した会社のThomasは次のように言います。
表面的には、恋人同士だけが使うような安っぽい感じがしますが、絵文字を使い始めたら、実際には非常に強力なコミュニケーション形式だということがわかります。
3月の爆発的なパンデミック以降、数百万の人たちがリモートで働いているので、最近さらにこのアイデアが功を奏しています。
「絵文字は、“気楽に行きましょう”という、表には出ない潜在的な意味も伝える視覚的な言語です」と、トロント大学の記号学と言語人類学教授で、『The Semiotics of Emoji』の著者でもあるMarcel Danesiは言います。
カラフルな笑顔や表意文字を使うことが、「非公式の視覚的会話」として、コミュニケーションの並列行動となります。
どんなにストレスのある対立した状況でも、関係者はみんな人間で、善意があるのだと受信者に明確に伝わります。
ですから、Thomas氏のような起業家が、絵文字のコンセプトを取り入れたり、顧客に対する広告から会社のコアバリューまであらゆるものに、絵文字を利用しているのも不思議ではありません。
絵文字の驚くべき効果と実用性
最初の絵文字が日本のアーティストによってつくられたのは1999年です。
顔文字と呼ばれる、普通の文字を使った原始的でピクトグラム的な形のものは、オンラインコミュニケーションの初期に遡ります。
しかし、「(> <)」や「(T T)」のような昔の顔文字は、軽薄で子どもっぽいとみなされて、追いやられました。
しかし、笑顔の顔文字は驚くほど長生きしました。チャットやメッセージがさらに普及し、ユニコードコンソーシアム(コンピュータのテキストの世界標準を設定する組織)がここ10年以上の間に数千もの新しい絵文字をカタログに追加し始めたので、スマホと共に大きな進化を遂げたのです。
シンプルなのに情報量が多い
絵文字の耐久性は、人間の感情を簡潔に表現できる能力によるところが大きいです。
神経科学者は、絵が脳の感情を司る部分へのホットラインのように機能し、「戦うか逃げるか」反応のような原始的な感情を司ると言われている、脳のアーモンド形の扁桃体で、言語を処理するプロセスを飛び越えて、即時的な効果を生んでいることを発見しました。
その上、絵文字の入った文章を読んでいる人の脳の活動を、機能MRI(fMRI)で測定した2016年の研究では、絵文字は普通の文字や数字ではできない方法でコミュニケーションを豊かにすることが明らかになり、脳の言語と非言語両方の領域を活性化することが証明されました。
オフグリッドシェルター(太陽光発電でWiFi対応のコンパクトなモバイルハウス)のスタートアップ「Jupe」のCEOであり、共同創業者であるJeff Wilsonは、日常生活にも絵文字の利点があるとして、「絵文字は、とてもシンプルな画像に、膨大な量の情報と感情を込めて伝える」と話しています。
今や同社は、過去にやったことではなく物理的に可能なことを考える「原則に従う」という意味で、ロケットの絵文字を使うなど、絵文字で7つのコアバリューを表現しています。
絵文字は効果的かつ楽しいものだと、Wilsonは言います。まさに、同社がやろうとしている小さな生活空間の構築と同じようなことです。
絵文字を有効活用する企業の事例
絵文字の効率性を利用している会社もあります。
複数のプラットフォーム上の終わりのないメッセージをふるいにかける時に、絵文字で分類して、情報に優先順位を付けるのです。
社員1000人規模の健康保険会社「Oscar Health」では、同社のSlackフォーラムで部署毎にカスタマイズした絵文字でタグ付けし、全社に向けたアナウンスと、自分の部署宛てのものを社員が素早く分けられるようにしています。
旅行系Webサイト「Hotwire」の社員は、同社のCEOであるBarbara Batesに似せた絵文字に西部劇の衣装を着せ、会社でショーを演らせて、成功を祝っています。
注意:誰もが楽しんでいるわけではない
小さな絵文字が完璧というわけではありません。
経営者たちは、クライアントを誤解させたり、困惑させたりしたエピソードを語ります。
「Marquet Media」のCEO・Kristin Marquet氏は、クライアントへのメールで絵文字を使い過ぎた社員には、厳しい判断を下すと話しています。
この未熟な社員のメールには、文末に涙を流して笑う絵文字が3つ付いており、返信の最後には笑顔の絵文字が付いていました。
このクライアントは、大企業のCEOで高齢(私の父親世代)だったので、この手のコミュニケーションは適切ではないし、社会人として失格です。
私はクライアントにお詫びをし、この社員を担当から外して、上手く対応できるもっと大人の社員に任せました。
メールマーケターたちの結論も様々です。
デジタルマーケティング会社「Caveni」の共同創業者であり、オペレーション部長であるAlexander M. Kehoe氏は、絵文字が含まれているマーケティングメールの開封率が、最初に急上昇したのを見つけました。
しかし、絵文字の効果が薄れ、絵文字のないメールの開封率65%に対し、75〜80%の開封率がピークで、その後は65%の基準値に対して40%に低下しました。
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それでも、せっかちな起業家には、絵文字の時代が来ています。
サブスクリプション系のビジネスアイデアの会社、「FirstLook」の創業者Brian Folmer氏は、「絵文字がダメなんて腹立たしい」と言います。
インターネットによって、文字を書くことが爆発的に増え、ショートカットを求めるようになりました。
句点と感嘆符の中間に当たる記号を思いつかなかった事実が信じられない。
地球の現状を考えると、そこまで大事なことではないと思いますが、ビジネスの歴史家や言語学者は、2020年を絵文字が日々の仕事に欠かせないものとなった年とするかもしれません。
誰もがストレスと病気の渦中で、コミュニケーションを取ろうとするときに、絵文字で笑顔になるのは間違いありません。
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