残り約2カ月となった2020年が、誰にとっても行き先不透明なtransition(移行期)であることは間違いありません。その移行期がこの先どのぐらい続くのかもわからず、不安です。

そんな移行期について、新しい視点を示した記事がThe Atlanticにありました。

著者は、ハーバード・ビジネス・スクール講師のアーサー・C・ブルックさん。The Atlanticに連載中のコラム「How to Build a Life」の1つです。

人生につきものの「ライフクエーク」とは

人生の遷移を表すフィギュアとキューブ
Image: eamesBot/Shutterstock.com

その記事のタイトルは「The Clocklike Regularity of Major Life Changes(定期的に訪れる人生の大変化)」です。いや、コロナのような変化は定期的どころか、不定期でも訪れてはほしくないのですが…。

ブルックさんは、記事の中で、作家ブルース・ファイラーさんの新書について触れています。

ファイラーさんは、自分のガン診断や破産の危機などをきっかけに、アメリカ50州を巡り大勢の人たちにインタビュー。

その結果は1冊の本『Life Is In The Transitions: Mastering Change At Any Age』にまとめられ、ファイラーさんが「life-quake(ライフクエーク)」と名付けた大変化は、人生にはつきものなのだと結論づけられました。

ライフクエークというのは、lifeとquake(振動)を合わせた造語で、ファイラーさんはNPRのインタビューでこう説明しています。

(コロナ禍の)今がまさしくライフクエークの状況です。影響の計器が大きく振れて余波が何年も続くような大変化です。

(中略)私のデータによると、なんらかの変化は12〜18カ月ごとに起こります

(中略)一生涯では大きな変化が3〜5回ほどあります。それがライフクエークです。データから、それをやりすごすのに平均で4〜5年かかることがわかりました。

大変化が3〜5回あって、そのたびに前の状況から新しい状況への移行期が4〜5年あるので、合計で25年ほど、つまり大人になってからの人生の半分は変化や移行の期間だと言えます。

(「NPR」より翻訳引用)

なるほど、大勢の人の経験を集めて分析したファイラーさんの言葉には説得力があります。

人生の流れは直線や上昇線ではなく、上下のある変化と移行期の連続だと捉えたほうがよさそう。

穏やかな波の続く人生に時々変化の嵐があるのではなく、変化と移行期というさまざまな嵐や悪天候の間に比較的落ち着いた凪が散りばめられている、それが人生なのかもしれません。

コロナのように、全世界に未曾有の影響を与えるようなライフクエークは頻繁に起きて欲しくはありません。

でも、社会的か個人的かに関わらず、ライフクエークがまた起こる可能性は高いということは覚えておいてよさそうです。

人生を振り返ってみると

筆者の友人に起きたライフクエーク

ファイラーさんの言葉で頭によぎったのは、今年の春に93歳で亡くなった友人のことでした。

私は彼女に対していつも畏敬の念を抱いていました。

それは、私が教科書でしか知らないアメリカの大恐慌、第二次世界大戦やベトナム戦争などの社会的変化を生き抜き、個人的にも40代で看護師の資格を取ったことや離婚などの体験がありながらも、たくましく自立して生きる芯の強い女性だったからです。

でも、その長い人生の終わりにもいくつかのライフクエークが待ち構えていました。

80代半ばで下されたガン診断と治療。また、12歳から車の運転を始め(年齢を偽ったのではなく、自宅の農家を手伝うのに必要だったため免許が許可されたのだとか)、70年もの間、自分で行きたい時に行きたいところへ運転していたその自由を諦めなければならない日が来ました。

当時の彼女の落ち込みようを思い出すと、それは彼女にとってはライフクエークだったことが理解できます。

子ども時代も変化と移行期だらけ

また、自分の過去も振りかえってみると、たしかに小さな変化は1~2年ごとにありました。

子ども時代には、入学や転校はもちろん、クラス替えや席替えでさえも当時の自分にとっては大事件で、慣れるまでにある程度の時間が必要だった移行期でした。

大学卒業後も、就職、留学、結婚、アメリカへの引っ越し、自分や家族の病気や怪我など。社会的には台風やハリケーン、地震などがあり、それぞれの変化にともなって移行期がありました。

自分で選んだ変化ならまだしも、強いられた変化とその移行期には将来への不安に押しつぶされそうになった経験は誰にでもあると思います。そして、今がまさしくそんな時です。

変化に対する不安への正しい対処法は?

人生の変化は思っていたよりも頻繁に起こり、新しい状況に慣れたりそれを受け入れるまでの移行期がある。

それが当たり前なのだと認める時、不安や懸念を感じるのは、変化そのものにではなく、変化に対して自分が対処できる能力があるのか、対処できなかったらどうしようという不安のほうが大きいことに気づきました。

ブルックさんは、変化や移行期に抵抗するのではなく、それが人生の一部なのだと受け入れ、対応していくのが正しい方法だと述べています。

変化そのものへの不安にエネルギーを向けるのではなく、起こりつつある変化にどう対処するか、その方法を考え実践して、移行期を乗り切ることにエネルギーやリソースを費やすように意識したいと思いました。

移行期が終わった後、何が変わる?

季節の移り変わりにより色が変化した葉
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ブルックさんは、ライフクエークを経験し移行期を乗り越えた後に私たちがどう感じるかについて、こう述べています。

でも、明るいニュースがあります。困難で望まない移行期でさえも、当時と後からでは捉え方が変わります。

実際、ファイラーさんがインタビューした人たちの90%は、移行期が終わり立ち直れたので、移行期をうまく乗り越えられたと感じていることがわかりました。

また、もっと良いことには、リサーチによると、望んでいなかった出来事でさえも、時間が経つにつれてポジティブに捉える傾向が私たちにはあります。

リアルタイムではネガティブな感情にフォーカスする傾向が脳にはありますが、年月が経つにつれ、ネガティブな感情はポジティブな感情に比べて消えていきます。これは「Fading affect bias」と呼ばれる現象です。

これは認知エラーのように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。

だいたいどんな移行期でも、すごく苦しいものでも、何かしらポジティブな面があります。それを感じるのに時間はかかるかもしれませんが。

(「The Atlantic」より翻訳引用)

今はまだコロナ禍の移行期のまっただなか。将来この期間を振り返る時、どれだけ「Fading affects bias」が関わってくるのか、その日がいつ来るのかもわかりません。

でも、この移行期が1日も早く、できるだけ安全に終わり、過去のものとなる日を待ちわびています。

とりあえずは、2020年の残り2カ月を引き続き安全に過ごしていきましょう。

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Source: The Atlantic, NPR