99U:会社員生活を投げ捨て独立して自由の身になるのは、オフィスに囚われた会社人間たちの見果てぬ夢です。

しかし、早まってはいけません。独立しても本当にやっていけるのかどうか、厳しく自分に問いかける必要があります

昨年の秋、99Uに参加するまで、私はニューヨークでフリーランスとして活動し、ESPN The Magazineや、Fast Company、New Yorkといった媒体に記事を書いていました。

今では生計を立てられるようになっていますが、フリーランスを始めたばかりの年はまったくひどいものでした。

その月の支払いをやっとの思いで済ませると、ウイスキーで祝杯をあげるのですが、一口飲むか飲まないかのうちに、たちまち強烈な不安に襲われたものです。「今月はまじで死にそうだった。来月をどうやって乗り切ればいい?」

あの頃に戻ってもう一度やり直すとしたら、起業家の視点を導入して、フリーランスになるという決断を大幅に見直すと思います。クリエイティブな目標だけを重視することはないでしょう。

自分のアートを「商品」と考えるのはドライ過ぎる気がしたり、お金のことを考ると勇気が挫かれる気がするかもしれません。

しかし、起業家の視点を入れることで、クリエイティブとビジネスの両面を見ながら意思決定を行えるようになります。

また、両方の視点を組み合わせることで、独立したい本当の理由は何なのか、自分の弱みがどこにあるのかもわかってきます。また、うまくいけば弱点を克服し、独立への一歩を踏み出す準備を整えることができるでしょう。

とはいえ、フリーランスになった最初の年がどんなことになるのか、なかなか経験しないとわからないと思います。

ですので、独立したいと相談してくる人たちには、いつもこんな質問を送るようにしています。フリーランスのキャリアをスムーズに始められるかどうかを測るために、次の5つの質問に正直に回答してみてください。

1. 独立したい本当の理由は何か?

独立を考えているのなら、おそらくそれなりの理由があるのでしょう。仕事が気に入らない、上司が大嫌い、長時間労働に疲れた...。しかし、こうした理由で会社を辞めるのはお勧めできません(フリーランスになればもっと不安定な立場で同じような体験をすることになります)。

そうした理由ではなく、今の会社ではできなくて、フリーランスになればできることは何なのかを、はっきりとさせる必要があります。

フリーランスになるという決断を、起業家の視点から再点検してください。クリエイティブな目標だけを重視してはいけません。

収入を増やすため、というのは納得できる答えの1つです。好きなことをするため、という答えも、ちょっとロマンチック過ぎる気はしますが、まあ良しとしましょう。

ただし、もし答えが後者なら、今の会社でその願望が叶えられないかをよく考えてみてください。

もっと興味のある仕事を回してもらうことはできないか? 社内に自分の強みを発揮できる事業はないか? やりたいことができそうな部署に異動できないか?

フリーランスを奨励するブログや本には、会社を辞めることですべてが解決するかのように書いてあるものもあります。しかし、必ずしもそうすることが最良のアイデアとは限りません。もっと言えば、良いアイデアでさえないかもしれません。

なぜ独立したいと思ったか、その根本にある問題を、今いる場所で本当に解決できないのかをよく考えてみてください。わざわざ不安定なフリーランスになる必要などないかもしれません。

もっとも、どうしても会社員の立場ではできそうになく、キャリアを前進させる唯一の道が独立することなのだと心に決めたのなら、そのときは...。

2. 企業と同じ土俵で戦っても勝てると思う理由は?

フリーランスになれば、社内スタッフや、契約スタッフを抱えた企業と同じ土俵で戦うことになります。

つまり、業界でトップに君臨している人たち、企業からそのために雇われている人たちを打ち負かさなければなりません。はっきり言って、簡単なことではありません。

並み居る強豪たちとの闘いを始める前に、今いる会社に自分がどれほどの貢献ができているか、よく考えてみてください。

あなたは花型プロジェクトを引っ張るスター社員ですか? どんなクライアントも一緒に仕事をしたがる優秀な人物ですか? 誰もが認めるチームの稼ぎ頭ですか? もしそうでないなら、自分がそうなれるまで待つことをお勧めします。

なぜ? チームのサポートがある環境でも、クライアントが大金を払ってくれるようなアイデアを生み出せていないのだとしたら、ひとりぼっちになったあなたにそれができると考えられる理由は何でしょうか?

3. 誰に何を売るべきかをわかっているか?

あのときなぜ自分にこの質問をしなかったのかと悔やんでいます。

私はちょっと変わった登場人物たちが織りなす風刺的なストーリーを書くのが好きだったのですが、そんなストーリーへの需要など存在しないことが後々わかったのです。

今になって思えば、会社を辞め、物書きとしての活動を始める前に、自分の書くものにどんな需要があるのかをよくよく調べておくべきでした。

現実的、具体的にマーケットを見定めてください。たとえばあなたがカメラマンだとして、世の中には写真を必要とする雑誌や企業がいくらでもあるから、きっとどこかが仕事をくれるだろう、なんて甘く考えてはいけないということです。

網を広げすぎてもうまくいきません。得意分野に的を絞るべきです。

お前はそうしたのかって? もちろんNOです。狭い範囲に自分を限定する気はさらさらありませんでした。高く打球を打ち上げれば、きっとどこかのお偉方の目に止まって、才能を認めてもらえると思い込んでいたのです。なにしろ、若干26歳でNew Yorkerに記事を書いていたんですから!

しかし、私の目論見は脆くも崩れ去りました。鳴かず飛ばずの数カ月を過ごした後、よくやく、仕事をもらうには、自分がよく知っていることについて書くしかないことを悟りました。

つまり、ランニングについてです。私は大学でランニングの選手をしており、オリンピック選手にも何人か知り合いがいました。また、ランニング雑誌の読者がどんなストーリーを読みたがっているかもよくわかっていました。

さらに、ランニング雑誌の多くは社内にライターがほとんどおらず、フリーランスに頼っているのも幸いしました。

業界の内部事情に通じていたことと、市場にニーズがあったことが相まって、やっとのことでRunner's WorldとRunning Timesでデビューを果たすことができたのです。

4. そもそも独立してもやっていける人間なのか?

独立してやっていくのに必要な資質をあなたが持っていることを証明してください。フルタイムでやり始めるずっと前から、自分にはできるという確証を得ておくべきです。

何を言ってるんだ? と思うかもしれません。多くの人が、会社を辞めさえすれば、おもいっきり芸術作品を作れるようになると信じこんでいます。

たしかに作品に費やす時間は増えるかもしれません。でも、これは仕事なんです。週末に趣味で作品を作るのと、それを仕事にするのとでは、雲泥の差があります。

私が最初の本を書き始めたのは22歳のときで、会社を辞める4年前のことでした。

会社員時代は、朝の出勤前と夜間に1時間ずつ執筆していました。土曜日には6時間書きました。どんなに疲れていても、休息が欲しくても、書くことを止めませんでした。

仕事を言い訳にしたこともありません。いかなる状況でも書く意欲が衰えたりはしませんでした。たとえば、朝7時からの仕事で疲れきり、空腹を抱えた夜7時でも、書くことを優先しました。

この経験から、自分は「時間ができたら小説を書くつもり」などとは絶対に言わないタイプであるとわかっていました。書く時間は自分で作り出していました。

フリーランスになって、まったく仕事がなかったときも、この姿勢は貫いていました。もっとも、何かを創りださねばという深刻さはまるで違いましたが。とにかく、なんでもいいから売り物になるものを書かねばならないと、深夜まで粘りに粘ったものでした。

フリーランスになったらすべてを自分主導でやらなくてはいけません。独立に踏み出す前に、それだけのモチベーションがあるのか、やりとおせる人間なのかをよく確かめてください。

5. 離陸する準備はできているか?

以上をすべてクリアしたとします。今やあなたは、素晴らしいアイデア、勝負できる商品、ゆるぎない情熱、飽くなき労働意欲を手にしています。

でもまだ早まって離陸しないように。その前に滑走路をきちんと整備しておかなければなりません。フリーランスになるずっと前から、しっかり仕事のコネを作っておきましょう。

今いる会社を最初のクライアントにすればいいとアドバイスする人もいます。賢いアイデアですが、それが可能かどうかは企業文化にもよるでしょう。

あなたの上司や同僚は、別の道を歩みだした元同僚をこころよく思ってくれるでしょうか? それとも裏切り者だとみなされる? もし後者なら、触らぬ神に祟りなしです。別のコネを探しましょう。

一緒に働いたことがある人で、顧客になってくれそうな人、あるいは、顧客になってくれそうな人を知っている人はいませんか?

コネを探すときは、引っ込み思案にならずに、自信をもって攻めてください。私が大手メディアの仕事を初めてもらえたのは、パーティーで出会った女の子に、ESPN The Magazineの編集者を紹介してくれるように頼んだことがきっかけです。

当時、その女の子とESPNの編集者はほとんど面識はありませんでした。よくそんな弱いコネに頼れたなって? まったくそうですね。でも、とにかく私はそのESPN The Magazineの編集者とランチを食べに行き、翌年の年収の40%はESPNに稼がせてもらうことになったのです。

ですから、会社にいる間に、新しいクライアントを見つけて、フリーランスの仕事を少しずつ始めるようにしましょう。そうすれば、独立した初日から仕事(つまり収入!)が確保できていることになります。キャリアの第2章を始める上で、これほど心強いことはありません。

※この記事は、2016.03.18の記事を再掲載したものです。

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