流行語というほどではないにせよ、昨今は「自己肯定感」ということばを耳にする機会が増えたように思います。
それはおそらく、自己肯定感が持てずに悩んでいる人が多いからなのでしょう。『「自己肯定感低めの人」のための本』(山根洋士 著、アスコム)が話題になっていることからも、そう推測できます。
著者は、これまでに8000人以上の悩みを解決してきたという心理カウンセラー。自身に降りかかったさまざまなつらい経験を生かしながら、多くの人にカウンセリングを提供したいと考え、現職に至ったのだそうです。
本書もそのようなバックグラウンドをもとに書かれているわけですが、とはいえ「自己肯定感を高める方法」が書かれているわけではありません。
明らかにされているのは、「自己肯定感が低めでも悩まなくなる方法。しかも自己肯定感低めの人に必要なのは、『心のクセ=心のノイズ』に気づくことだ」というのです。
なんだか胸のあたりがザワザワ、もやもやする感じって、ありませんか?
そんなときはノイズがあなたの思考や行動を邪魔しています。 要するにメンタルノイズは、あなたがついやってしまう心のクセなのです。
(中略)
好きな人に「うっとうしいと思われたらイヤ」だから、声をかけたり、LINEを送ったりできない。 友達に「いいやつだと思われたい」から、頼まれごとを断れない。
実際にはそうとは限らないのに、つい考えてしまう。それがノイズです。
こういうことが積み重なると「はあ、なんて自分はダメダメなんだ」と自己肯定感が低くなってしまいます。
胸のザワザワ、もやもやに、もし思い当たることがあるとしたら、ノイズが発動している証拠です。(27ページより)
ノイズは、自分自身が意識していなくても、日常生活のいろいろなところで発動しているもの。
だからそうしたノイズを見つけ、「なぜかうまくいかない」状態を抜け出すことが重要な意味を持つのです。
第4章「1分でできる! ノイズに邪魔されない心をつくる10の『ノイキャン』エクササイズ」のなかから、3つのポイントを抜き出してみたいと思います。
ここではメンタルノイズの影響を受けないようにする、すなわちノイズをキャンセルできる「ノイキャン体質」になるためのエクササイズを紹介しています。
「STOP(やめること)リスト」
著者によれば、これはTo Doリストの逆。
「もうやめよう」と思うことを、毎日ひとつずつ書いてみる方法だそうです。
TODOリストは、どうしても「やらなきゃいけないこと」が増えていくので、つらくなったりします。
そして、できなかったことが残ると、「私って……」と凹んでしまいます。 だから、やることを減らす方向で考えてみましょう。
「寝る前に勉強する」ではなく「寝る前のスマホをやめる」とか、ですね。(166ページより)
大事なのは、やらされ感がなく、自分で決めて、しかも挫折しないことだとか。
「STOP(やめること)リスト」が、そのいい練習になるというわけです。(166ページより)
絶好調ラベル
ある心理学者の研究では、人は1日に約6万回もなにかを考えていて、そのうちの8割がネガティブなことだといいます。
そしてマサチューセッツ工科大学の研究によると、ネガティブな感情の感染力はポジティブな感情の7倍も強いとされています。(177ページより)
だとすれば、人は放っておけばどんどんネガティブになっていくということになります。身近な例でいえば、気づかないうちに多くの人がやっているのが「体の不調確認」だといいます。
朝起きたら、頭が重い…、肩が痛い…、腰がだるい…、ヒザが痛い…、気分が乗らない…、やる気が出ない…
というように、自分の体の調子の悪いところばかりを確認し、ラベリングするようなことが少なくないというわけです。
しかしそれでは、自分の悪いところばかりを探しているようなもの。それでは毎日が憂鬱になっても当然ですし、するとますます不調になり、自己肯定感も低くなっていくという悪循環に陥る危険性もあるでしょう。
それでは逃げ道がなくなってしまいますから、著者は「その逆をやる」ことを勧めているのです。「いいところを探してラベリングするエクササイズ」こそが重要だということ。
今日は、目がよく見えるなあ、肩が軽いなあ、頭が冴えてるなあ。
ちょっとでも体の好調な部分を確認したら、そのまま流してしまわないでバシッと「絶好調ラベル」を貼りましょう。(178ページより)
とはいえ、不調ラベルを貼るクセはなかなか抜けないものでもあります。
そこで「頭が重いなあ」というように不調を発見したら、「頭は重い。でも、胃の調子はいい」と、どこか好調なところがないかも探してみるべきだといいます。
無理にポジティブに考えるのではなく、不調とセットで好調を探せばいいという発想。これは、自分のなかに起こる「あ、いいかも!」という部分を逃さないようにする練習だそうです。
人は放っておくとネガティブになってしまうものなのだから、こうすることで客観的に自分を見られるようにしておくべきだというのです。(176ページより)
やめてみる10秒瞑想
メンタルノイズの影響を受けやすい人は、「自分が本当に変われるとは思えない」という思考に陥ってしまいがち。
そこで著者がおすすめしているのが、メンタルノイズは消せるもの、変えられるものという感覚を得るエクササイズ。
まず前提として「変えられる」という感覚を持つことで、柔軟に気持ちの切り替えができるノイキャン体質に近づけるというのです。すなわちその方法が、「やめてみる瞑想」。
目を閉じて、頭の中で「やめてみる」を10秒イメージします。
最初は体の機能、例えば心臓の動き、血液の流れ、呼吸……やめたらどうなりますか? 死んじゃいますよね。
だから、心臓も呼吸もやめられないものなんです。
次に、自分の中のノイズに従うことをやめるイメージで、また10秒瞑想してみましょう。
どうですか? ノイズを拒否したら死んじゃいますか? もちろん、死なないですよね。だからノイズは消してもいいし、変えてもいいものなんです。(183ページより)
そう思えるだけで、このエクササイズは成功だそうです。(182ページより)
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ここで10の「ノイキャンエクササイズ」すべてをご紹介することはできませんが、つまりはこのように、ノイズに邪魔されないための具体的なメソッドが紹介されているのです。
すぐにできることばかりなので、実践してみれば、心のもやもやが消えて楽に生きることができるようになるかもしれません。
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Source: アスコム
Photo: 印南敦史