『きっと、うまくいくよ 自分の価値に気がつく30のレッスン』(伊藤 守 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、1997年に刊行された『きっと、うまくいくよ』(大和書房)と、2017年刊行の『あなたの感じていることは大切にしていいんです』(方丈社)を改題、改稿したもの。
長きにわたって読み継がれてきた名著が、20年以上の歳月を経て蘇ったわけです。
著者は、日本人として初めて国際コーチ連盟(ICF)よりマスター認定を受けた実績を持つ、いわば日本のコーチング界における草分け的な存在。
心も体も疲れてしまったという人を対象に、自分の価値に気がついて生きやすくなるためのメソッドを紹介しているのです。
本当の自分、ありのままの自分、いろんな言い方があります。
しかしそれらは「イメージ」であって、そのイメージを自分の体の中に限定してしまうと、イメージはそこで制限されてしまうでしょう。
しかし、自分を取り巻くすべての人との間に自分が存在しているという前提に立てば、「自分、自己」というものの捉え方も変わってくるはずです。
それに相手によって変化している自分というものも垣間見ることができると思います。(「あとがき」より)
きょうは、第3章「ありのままの自分と出会う方法」のなかから、“無理のない自分”であり続けるため、心にとどめておきたい3つのトピックスを抜き出してみることにしましょう。
いい人である必要などない
社会、家族、会社、学校、サークル、友だちとの関係などを維持するために、私たちは「我慢」することを身につけてきました。
「自分の感情や欲求を抑える」「思っていることをすぐ口にしない」「慎重に行動する」というような姿勢が大切だと教えられてきたわけです。
そうした抑制が足りなかった場合、「わがまま」「利己的」などといったレッテルを張られてしまう可能性も考えられるからです。
そんなレッテルを張られると、「仲間として認めない」「仲間外れにされても仕方がない」ということにもなってしまいがち。
つまり私たちは、それを避けるためにも我慢することを条件づけられ、「我慢が足りないと仲間外れにするぞ」という“見えない脅かし”に合っているのだということ。そのため、ひたすら自分を抑え、我慢するわけです。
もちろん、我慢していれば他人からの受けはよくなるかもしれません。
しかし、言いたいことを言えず、笑いたいときに笑えず、泣きたいときに泣けないとしたら、いい人でいられる一方、自分を見失ってしまうことにもなるはず。
だから、著者は次のように主張するのです。
周りの人を安心させること、喜ばせることはとても大事です。
でも、あなたが思ったことや感じたことを表現したら、本当に反発や抵抗があるのかどうか、試してみる価値はあります。
現実には多少の反発や抵抗もあるのでしょうが、反発や抵抗に対応する能力をもって、初めてこの世界で自分を我慢から解放し、自分を表現していけるようになるでしょう。(82ページより)
たしかにそう考えれば、必ずしも「いい人」である必要はないということに気づけるかもしれません。(80ページより)
でも考えてしまう
私たちの最重要目的は、「生き残ること」にあるのだと著者。それは命だけではなく、家族や友だち、学校や職場における自分の社会的な立場を「生き残らせる」ことも意味しているそうです。
そして「考える」ということも、自分を生き残らせるための手段なのだといいます。いわば人の内側では、休みなく「生き残り」のシステムが働いているということです。
たとえば、「なにがよりよい選択であるか?」を考えるために過去の経験を振り返ったり、未来をシミュレーションしたり、自分が間違った行動や言動をしてしまわないよう常に監視しているわけです。
とはいえ、どれだけ慎重に、思慮深く行動したとしても、人はときに間違ってしまうものでもあります。
そのため、ますます警戒を強め、考えるのをやめるわけにはいかなくなるのです。残念ながら私たちは、そういったことに膨大なエネルギーを注ぎ込んでいます。
しかも困ったことに、考えれば考えるほど不安になるものでもあります。なぜなら考えることそれ自体が、「自分はこれでいいのか?」「大丈夫なのか?」などと自分へ疑いを向けることだから。
また不安になればなるほど、考えることに拍車がかかりもするでしょう。
考えることはとても大事なことです。でも過剰に考えてしまうのは問題です。自分を少し安心させる必要があります。
散歩をしたり、できれば、誰かに自分の思っていることを聞いてもらうのは、安心するために効果的です。相手は誰でもいいんです。(102ページより)
できるだけ助言をしない人を選ぶことも大切で、また、声に出して思っていることを話すのが効果的だそうです。(100ページより)
経験というサングラスをはずしてみる
リスクとは、きょうまで自分が信じ込んでいたことや、自分の考え方、やり方を脇に置いてしまうことだといいます。
私たちは、自分なりの見方や、自分の経験を通して世界を見ています。それでいて、自分の見ているものが真実だと信じ込んでいるのです。
もし、経験や考え方というサングラスをはずして世界を見たら、きっと驚いてしまうでしょう。
何を見ても、何を聞いても感動の嵐です。朝から晩まで感動していたのでは、身が持ちませんから、私たちはサングラスをかけて、自分をプロテクトしています。(105ページより)
先入観や偏見は、誰にでもあるもの。しかし人生の醍醐味とは、自分が知らない間に持ってしまった先入観や偏見から自分を解放していくことにあるのだといいます。
自分なりの考え方や解釈には、とても価値があるはず。しかし、だからこそ次は、それをはずす能力を持つべきだというのです。(104ページより)
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私たちは、もっといろいろな世界の見方ができるはずだと著者は主張しています。
他の人の考え方や経験に目を向け、耳を傾ければ、答えはひとつだけではないことに気づくだろうとも。
視点を変えながら、自分と向き合うべきだということ。そんな考え方を身につけようというとき、本書は力になってくれるかもしれません。
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Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン
Photo: 印南敦史