毎年恒例、米誌TIMEの「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に、ロシアの侵略から抵抗を続けるウクライナのゼレンスキー大統領が、そして「ウクライナの精神」としてウクライナを支援する人々がともに選ばれました。

この選出に完全に納得する一方で、ちょっと複雑な気分にもなりました。
というのは、筆者が住むアメリカの最近のトップニュースは、インフレ、Twitterの混乱ぶり、そして2022年1月6日に起きた議会議事堂襲撃事件関連が多く、ウクライナ侵攻のことが次第に意識から遠ざかっているのに気づかされたからです。
TIMEの特集記事を執筆したのは2019年以降ゼレンスキー大統領を追っているサイモン・シュスター記者。同記事では、ウクライナを率いるリーダー像、そしてリーダーとしての本質が浮き彫りになりました。
厳しい現実を見据えつつ、人名を最優先した「決断力」
TIMEの記事によれば、前線に関する決断の際、ゼレンスキー大統領の第一フォーカスは人命。犠牲者数を考慮して戦略を考えているそうです。
人を最優先する姿勢は前線だけに限ったものではありません。
11月14日、ロシアのヘルソン撤退の3日後、セキュリティ担当の反対を押し切ってヘルソンを訪ねた理由をシュスター記者に尋ねられ、大統領は次のように答えています。
人々のためだ。9カ月の占領下で光も何もなかった。ウクライナに戻れた高揚感は2日間続いたが、それも今はもう終わった。これから絶望に陥り、とても辛いものになると思う。
ヘルソンを訪ねて、ウクライナの奪還、そしてウクライナが彼らをサポートしていることを示すのが、私の義務だ。
私の訪問であと数日の間は持ち堪えられるかもしれないが、どうなるかはわからない。私はそのような幻想で自分を甘やかしはしない。
(『TIME』より引用翻訳)
自分の任務をこなしつつ、現実をしっかりと見据えた行動は、人々に偽りの気休めを与える一方で、小さな勝利をひとつひとつ獲得しながら厳しい現実に立ち向かう勇気と気力を与えています。
自身の立場とやるべきことを理解し、実行する「責任感」
TIMEの「今年の人」発表に続いて、12月12日(アメリカ時間)にはNetflixで『My Next Guest with David Letterman and Volodymyr Zelenskyy(デヴィッド・レターマン:今日のゲストはウォロディミル・ゼレンスキー)』が配信されました。
これは、アメリカのコメディアンでトークショーホストのデヴィッド・レターマンが、10月にキーウの地下鉄の駅ホームでゼレンスキー大統領にインタビューしたもの。
ゼレンスキー大統領は、黒いパーカー姿で登場。パーカーの胸に大きくプリントされた「I’M UKRAINIAN(私はウクライナ人だ)」という言葉が、彼の誇りを世界中の視聴者に伝えています。
レターマンに日々のルーティンを聞かれて、「毎日のルーティンは、この戦争のマネジメント、ウクライナ国家のマネジメントで、24時間年中無休だ」と回答。
このインタビュー後、The Washington Postの取材を受けたレターマンは、大統領の責任感に感銘を受けたと語っています。
やるべきことを理解して、毎日責任を持って実行していく。フォーカスを見失うことなく、来る日も来る日も任務を遂行する姿が、国民に勇気やインスピレーションを与えているに違いありません。
番組でレターマンは、ウクライナ鉄道のCEO、オレクサンドル・カムイシンにもインタビューしていました。
大統領から「なんとしてでも鉄道を走らせ続けろ、と言われてそうしているだけだ」と簡潔に答えるCEOにも、自分のするべきことへの責任感、使命感があふれています。