サントリーの森新(モリアラタ)さんは、自他共に認める“自販機LOVER”。
長年、大きな進化がなかった自販機に誰もが驚く価値を見出し、次々と新しいサービスを生み出してきました。
そんな森さんの自販機愛の源泉は一体どこにあるのか。さらにアイデアを形にする方法を、自販機の魅力と共に語っていただきました。
入社前から自販機に携わる業務を希望。絶対諦めない、自販機愛の源泉とは

2022年10月現在、サントリーの自販機事業で新サービス開発の中心メンバーである森さん。 “自販機LOVER”のミッションとは?
私のミッションは、大きな括りでいうと“自販機の価値を上げる”ことです。自販機の魅力を高めることで、自社の自販機を設置してもらい、商品を買ってもらう。
そのために新しいサービスを考え、形にしていきます。自販機のことを考えない日はありませんね。
そもそも、森さんが自販機に興味を持ったきっかけは幼少期の原体験にあります。
実家が高知県なんですが、まわりには畑しかないようなところ。本当に田舎で、山を越えていかないとコンビニもなく、買い物も不便な環境でしたが、それでも家の近くには自販機があって、すごくワクワクするスポットでした。
実はほとんどの方が、初めての買い物は自販機なんです。自分自身の原体験としても、“お買い物”を教えてもらった場所。
どこにでもあって、ユニバーサルなデザインで、使い方がわかりやすい。これって、何気にすごいことですよね。その価値を、また別の形で社会に伝えたいと思っていました。
ところが入社後すぐには自販機事業部の配属とならず、挫折も味わいました。
自販機事業の部署に異動希望を何度出してもひろってもらえず、入社して6年くらいは営業や人事の仕事をしていました。特に人事では苦労しました。
労務を扱っていたのですが、会社の根幹を担う業務なので、斬新な制度を提案しても通りづらい。「新しいことを生み出したい! 」「新たな文化を創りたい! 」と思って入った会社だったので、それができない状況は苦しかった時もありました。
でも、やりたいことを諦める選択肢はありませんでした。
アイデアを考えては部署を超えて相談しに行ったり、決裁者にプレゼンの時間をもらって提案をしたりしているうちに、念願叶って自販機事業の部署へ異動となりました。
低迷する自販機市場。「巨大冷蔵庫」から脱却への道は“法人企業の課題解決”

自販機市場は10年以上も売上が右肩下がりで、低迷が続いています。課題はどこにあるのでしょうか。
我々の展開する自販機は、主に飲料を販売しています。商品はどんどん変わっていく一方で、自販機自体には大きな進化がありませんでした。
全国にあり、お客さんのニーズを一番近くでキャッチアップできる“小売店”でありながら、言ってしまえばただの大きな冷蔵庫であり、鉄の塊。そこから脱却しないと、自販機の未来は明るくないと思っていました。
そして森さんは、“法人企業の課題解決”というテーマを掲げ、自販機の進化に挑みます。
自販機の一番の魅力は、“お客さんに近い”小売店ということです。自販機の良さを生かしつつ、設置場所によって異なるサービスを提供できるはずなのに、していないのはもったいないなと思いました。
現状は、オフィスファシリティにおいて、自販機は、検討案件として優先順位はかなり下だと思います。
極論をいえば、企業にとって自販機のメーカーなんてどこでもいい。それでも、企業が抱える悩みやニーズに対して、身近にある自販機を活用して解決できれば、価値が生まれる=サントリーの自販機を選んでいただけるきっかけになるのではと考えました。
そこで生み出したアイデアが、『社長のおごり自販機』『ボスマート』『DAKARA給水所』などです。
それぞれのサービスは、「コミュニケーションの減少」「飲食環境への不満」「熱中症対策」など、企業が抱える課題に対してアプローチしています。
たとえば『社長のおごり自販機』は、社員が2人揃って社員証を自販機にかざすと、会社負担で飲み物がそれぞれ1本ずつ無料でもらえるという仕組みです。
これは単なる福利厚生としてだけではなく、ちょっとした雑談を促進し、コミュニケーションの活性化を図る狙いがあります。コロナ過でリアルなコミュニケーションが減っていることもあり、経営層の方から導入したいという声を多くいただいています。
アイデアを生み出す方法は「一人大喜利」ネガティブな声への向き合い方は

約2年という期間で、構想からローンチまで前述した複数の新サービスを生み出してきた森さん。アイデアの考え方には、決まったやり方があるといいます。
自分が「おもしろいな」と思ったことに対して、「なぜおもしろいと思ったのか」を考えるようにしています。因数分解を展開していく感覚で、それを部分的に“退化”させるというやり方です。
『社長のおごり自販機』を例にとると、既存概念の「自販機」は、通常だと、「一人で」「自分のお金で」「だまって飲む」と展開されます。
次にそれを部分的に「退化」させると、「一人ではだめ」「他人のお金で」「しゃべって飲む」となります。
森さん曰く、この過程が「一人大喜利状態」。「“お題”は自販機。どういう自販機があったらいいかを答えてください、と問われた気持ちで延々考える」のだといいます。
そうやって考えていった時、自販機は、1人なら単なる“飲み物を買う場所”ですが、2人揃えばコミュニケーションスペースになる! と、アイデアの種が生まれました。
もちろん、種は簡単には生まれませんが、毎日最低でも1つはアイデアを出そうと、“一人大喜利”を繰り返しています。
筋の良いアイデアが生まれた後は、早速プロトタイプを作成。社内テストと効果検証の繰り返しでした。もちろん、ローンチまでに苦労した点も多くあります。
自販機ビジネスは、自販機をつくる人がいて、設置する人がいて、商品を補充する人がいて、ビジネスの戦略を考える人がいて、営業する人がいて…。と、とにかく登場人物が多い。
新しい挑戦を「面倒くさい」「必ずしも効果があるとは限らない」などとネガティブに思う人は少なくありませんでした。
そこで、森さんは「各立場のプロフェッショナル達と対等に話せるようにならねば」と考え、なんと社内に自分専用の自販機を用意してもらいました。
1年かけて、自販機の構造や仕組みから、通信システム、そのプロトコルに至るまで、一通り自分でいじれるようになりました。それぐらいしないと本気度が伝わらないと思ったんです。
そのうえで、「単なる飲料の自販機から脱却しましょう」「他社よりも一歩先に行くには、お客様が喜ぶことの最大化を諦めずにやっていきましょう」ということを言い続け、ローンチにたどり着きました。
目指すは“自販機界のさかなクン”「業界全体を盛り上げたい」

これからの自販機事業の戦い方について、森さんはこう話します。
このままでは、どんどん縮小していくことがすでに見えています。そのなかで抗うには、飲料という従来の武器だけでは戦っていけない。
飲料の冷蔵庫としてではなく、お客様の一番近くにある“小売店”として捉え、どう寄り添っていくかがカギになってくると思います。 “無人の小売業”というセグメントで見れば、自販機は『世界一』になれるポテンシャルを秘めている小売の仕組です。
日本で行なっている自販機のオペレーションシステムとノウハウは、簡単に構築できるものではないですし、すでにインフラの一部にまでなっている。そう考えると、未来は明るいとも言えます。
「自社だけではなく、自販機産業の業界全体が盛り上がれば良い」というのが、森さんの持論です。
国内の自販機市場は競争激化と共に切磋琢磨し、オペレーション効率の大きな進化が起きています。その結果、日本の自販機産業は、世界に誇れる産業になったと私は確信しています。
私の好きな言葉で、“世界一から逆算せよ”というものがあります。自販機が好きなので、自社だけというよりも産業全体で元気になってほしい。
そして、世界の誰もが認める、“世界一の無人小売業”として、この産業に働く全員がさらに楽しく、さらに誇りをもって働いていける世界に変えていきたいんです。
熱い想いを持ち続ける森さん。最後に、自身が目指す将来像について、こう語りました。
私は、“自販機界のさかなクン”のような存在でありたいと思っています。さかなクンって、努力家で、魚に詳しいだけでなく、その魅力を広く伝え、魚にも人にも愛にあふれている人。
それにすごく楽しそうで、みんなを笑顔にしますよね。私も自分が好きなものに真っ直ぐで、そしてそれをみんなに好きになってもらえるように、自販機の“可能性”を考え続け、魅力を伝えていきたいです。
Source: SUNTORY (1, 2, 3, 4), talentbook
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