「ゼロイチ」を生み出してきた思考の癖とは

――これまでのご自身のキャリアを俯瞰して、何か共通して果たしてきた役割はありますか?

僕はずっと、ゼロからイチをつくる役割を求められる場が圧倒的に多かったですね。起業してアプリを開発したり、ヤフーやメルカリでも新規事業や子会社を立ち上げたり。

何かのミッションがあって、そこに対してプロダクトをつくると同時に組織やチームをつくっていくというのが、自分がこれまで一貫して取り組んできたことだと思います。

――ゼロイチで新しいビジネスを生み出し続けるには、タフな思考力が必要だと思います。何か意識していることはありますか?

うまくいかなかったときのプランを常に複数考えておく癖がついていると思います。何か意思決定をしてダメだった場合、Aだったらこうすればいい、Bならこれをすればギリギリなんとかなる…と、分岐点の対応策をあらかじめいくつか想定しています。

もしも選択を3回くらい間違ってしまったとしてもなんとかなるような想定と準備をしています。

もう一つは、自責と達観のバランスをとることです。

仕事って、自責思考で自分ですべてなんとかするほうが楽な部分が大きいですよね。自分一人でコントロールできるので。けれど当然、一人ですべてはできないので、誰かに何かを任せないといけない。

人に任せると、もしかすると自分がやるよりも期待値を下回る結果になるかもしれないけれど、そのこと自体を責めても仕事は前に進まないので、一定量思うようにいかない可能性があることを達観することです。

先ほどのプランA・B・Cを 組み合わせ、「ここのAとBは間違えられないから、自分でやる」 「ここはなんとかなるから人に任せ、Cになりそうだったら自分が巻き取る」といった進め方の感覚が身についてからは、ストレスが減って意志決定もしやすくなりましたね。

チームづくりで大切にしている「スピード」と「意識の方向性」

――新規の事業に取り組むたびに様々な組織づくりをしてきた松本さんが、チームビルディングで大切にしていることはなんですか?

大前提として、組織が成長するスピードが適切であることがすごく大事だと思っています。人が急激に増えると加速度的に一人当たりのコミュニケーションが薄くなってしまうんです。

なので、僕個人の考えでは、組織は最初は小さくてモノカルチャーのほうがいいと思っています。メンバーの経歴や特性はバラバラで良いのですが 、組織カルチャー、つまり考え方や 意識の方向性は共通性があったほうがいい

そうでないとコミュニケーションに時間がかかるし、以心伝心ができないと一緒により良いものを生み出していくのは難しい。次に1→10で事業を成長させるときには、もちろん多様性、ダイバーシティが大切になっていきます。

メンバーの共通意識として求めているのは、自分自身で何かを達成したい、物事を前進させたいという気持ちを強く持っていることです。ただそれだけでは個々人がバラバラになってしまうので、メンバー同士がフォローし合えるマインドがあること。

さらに、ダメなことはダメと率直に言い合える心理的安全性の高い組織風土をつくることを心がけています。

そうしたカルチャーをなるべく長く維持できるスピードで大きくしていくことで、強力な組織ができるんじゃないかと考えています。

――今の仕事のモチベーションはどんなことですか?

「お客様に喜んでいただきたい」という思いはもちろんですが、それよりも先に「あ、これ面白そう」とか「これ便利そう」と思ったら、それをまずは自分でつくってみたくなるんです。

おいしそうと思ったらつくってみたくなる料理と同じ。好奇心と、やってみたいという思いが仕事の原動力ですね。

最近は「一緒に仕事をしているメンバーに達成感を感じてもらいたい、幸せになってもらいたい」というマネジメントという立場に対するプライドのような思いも強くなりました。

自分が「これって面白いよ」と旗を振って、そこにたくさんの人が集まってきてくれて巻き込みながら仕事をしているので、せっかく一緒に事業をするのなら、みんなに成功するプロジェクトを体験してほしい。

仮にその人が数年後に辞めたとしても、キャリアのトラックレコードになるような経験をしてもらいたいんです。

そのためには成功しなきゃいけない。そんな思いが、モチベーションの源泉になっていますね。

テクノロジーとビジネスの力でみんなをハッピーにする

──ここからは一問一答形式で質問させていただきます。まずは、何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

朝は子どもを保育園に送った後に9時から、終えるのはだいたい8時ですが、日によってバラバラです。

――愛用デバイス、仕事道具は?

UGGREENのUSB充電ケーブル。type Cなど複数の端子に対応しているので、一本持ち歩けばなんでも充電でき、生産性が上がりました。

――情報収集はどのように行なっていますか?

基本はTwitter、Facebook。新規事業を考えたいときなどはビザスク(その道のプロに1時間相談できるスポットコンサル)も利用します。少し深堀したい情報はカンファレンスに参加したり、関連する人に直接話を聞いたりして、一次情報に触れることを意識しています。

――能力を伸ばすには? ビジネス力を伸ばすには?

物事を抽象化する力を身に着けること。

――余暇の過ごし方は?

ソロキャンプで前日に仕込んだ食材をリュックに詰め、焚火をしながら自分ひとりのためにひたすら料理をつくって、お酒を飲むのが楽しいですね。ファミリーキャンプもしますが「おもてなししなきゃ」という気持ちが先に立って休まりません(笑)。

――心が折れたときはどうする?

寝る。起きてもまだつらかったら、昼からでももう一回寝ます。

――食生活で気をつけていること。好物は?

トータルのたんぱく質量。目標は一日140g以上です。

――運動の習慣はありますか? どのような運動?

ジムで週2~3回、パーソナルトレーナーについて筋トレをしたり走ったり。

――これだけはやらない、と決めていることは?

ないかも。なんでも一回はやってみたいです。

――ビジネスを通じてのゴールは?

ECサイトでいえば、例えばピザをお取り寄せで買うとき、丸1枚買う前に本当は1切れだけ買って味見できたらいいなと思いますよね。でも送料がかかるから丸1枚買うしかない。

そんな制限があって誰もが「仕方ない」と諦めているものを、テクノロジーとビジネスの力で解決して、みんなをハッピーにすること

――ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

『具体と抽象――世界が変わって見える知性のしくみ』

ビジネスのあらゆるシーンで、具体的思考と抽象的思考を往復することの大切さに気付けた一冊です。

――座右の銘は?

「Play it by Trust」

これはオノ・ヨーコさんのアート作品の名前です。白いチェス盤に白い駒が並んでいて、駒を進めるとどれが自分の駒かわからなくなる。それでも「Play it by Trust――信頼して駒を進めよ」というタイトルに前に進む勇気がわきます。

Source: TAILORED CAFE online store, parfait✕parfait, HOLON, GOOD EAT CLUB / Photo: 伊藤圭

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