自分らしくアクティブかつスマートに仕事に臨みたいビジネスパーソンにとって、スーツやかばん、ペンなどとともにこだわりたいのは「シューズ」です。
靴選びで重視するのは、まずデザインや価格ですが、靴好きがこぞってこだわるというのが靴の土台となる「アウトソール」。なかでも指名買いする人が多いのは、ラバーソールの代名詞「ヴィブラム」社製のもの。黄色いロゴに見覚えのある人は多いかもしれません。
年間生産数は4,000万足以上。世界120カ国以上、1,000社を超えるシューメーカーが採用する「ヴィブラム」のアウトソールが、本物志向の人に愛され続ける理由とビジネスパーソンにおすすめのポイントを、ヴィブラム社代表の眞田くみ子さんに聞きました。
100もあるパーツの土台となり、靴を靴たらしめる

壁一面にカラフルなアウトソールが並ぶヴィブラムジャパン。オフィスのエントランスで出迎えてくれたのが、イタリアのヴィブラム本社で長年勤務した経験を持つ代表の眞田さんです。
幼少期より、母親に「履く靴を決めてから、服を選びなさい」と言われて育ったという眞田さんは、25歳のときに渡伊。専門学校でファッションを学ぶなか、手がけた作品がコンペで受賞。その作品こそが「ヴィブラム」のアウトソールを使ったシューズだったそうです。
眞田さんにヴィブラムのアウトソールの魅力を聞くと、すぐに返ってきたのは「アウトソールの魅力で言えば、靴を靴たらしめること」という言葉。
靴は100以上のパーツからできています。そして、そのパーツごとに関わっている人がいる。そのすべてを靴底が集約して初めて1足の靴になるという役割の大きさが魅力だと感じます。(眞田さん、以下同)
山岳事故の悲劇をきっかけに、ラバーソールの開発へ

ヴィブラムのルーツは、1900年にまでさかのぼります。この年に生まれたのが創業者のヴィターレ・ブラマーニ氏。ヴィブラム社の社名およびブランド名は、この創業者の名前に由来しています。
小さなころから木工職人であった父親お手製のスキー板を持って山へ出かけていたというブラマーニ氏は、15歳のときにイタリア山岳会に入会。28歳でミラノの一等地であるスピーガ通り(Via della Spiga)に「ブラマーニ スポーツ」を開き、妻とともにシューズやウェアなどの登山用ギアを販売しながら、山登りを続けていたそうです。
そして1935年、イタリアで山の頂を目指していたとき、突然の荒天に見舞われ自分以外の仲間6人が命を落としてしまう山岳事故に遭遇。当時は重ねた革を鉄で押さえた革底の登山靴が主流でしたが、その悲劇をきっかけに、雪や凍結した岩盤という厳しい環境にも耐えうるラバーソールの制作にのめり込みます。
私がすごいなと思うのは、ヴィターレ・ブラマーニという1人の青年登山家が、産業の巨人になったこと。
自分でつくったラバーソールを店の客や登山仲間に無料で配り、張り替えた靴で登山をしてもらって、フィードバックを受け、改良を重ねる。そんな製品開発への情熱と品質へのこだわりこそが、今でもヴィブラムがラバーソールの代名詞として語られる理由の1つだと思います。

そして、ヴィブラムにとって大きな転機となったのが、1954年。イタリア登山隊がエベレストに次ぐ世界2位の標高を誇る8,611メートルの「K2(ケイツー)」登頂に初成功。アプローチから登頂まで、メンバーが履いていたのは、もちろんヴィブラムのラバーソールでした。
登山隊にこそ名前を連ねませんでしたが、ブラマーニ氏、そして彼がすべての情熱を注いだヴィブラムのラバーソール(以下、ヴィブラムソール)が、その歴史的な成功を支えたことに間違いはありません。
その偉業がきっかけとなり、ヴィブラムソールは全世界に向けて生産されるようになります。
海外への往来が今ほど容易ではなかった時代に、わざわざ海外から靴の1パーツでしかないラバーソールを輸入してでも手に入れたいと人々に思わせたのは、他でもない、品質の良いラバーソールを提供したいと願った創業者の意志と行動力であり、K2登頂がいかに大きな成功だったかということを思い知らされます。
ニーズに合わせ、進化を続けるヴィブラムソール

ヴィブラムソールで代表的なのが、1937年にブランドとして初めて誕生した「カラルマート」。日本ではタンクソールと呼ばれ、アウトドアシューズの定番として認知度の高いデザインです。
「靴底も見た目にこだわるとは、さすがおしゃれなイタリア人…」と感心しますが、実はこのデザインは緻密な計算のうえで成り立った、他では決して真似のできない「設計図」なのだとか。
登山を用途にするソールで、まず重視するのはセルフクリーン機能、つまり水はけです。靴底で水や泥がはけないと安定した接地は見込めません。
また、下山するときのひっかかりをよくするアンダーカットのほか、ブレーキングエリア、強度や屈曲性を持たせるためのエリアなど、このソールには緻密なマップが描かれています。

ヴィブラムソールを使いたいというシューメーカーに、眞田さんが必ず聞くのは靴の用途。何のための靴なのか、どこに履いていく靴なのか、履いていく先はどのような環境なのかを聞き出し、コンパウンドといわれるゴム素材の配合やマップを提案します。
たとえばバイクとマウンテンバイクでも、適したコンパウンドは違います。また、乾いた砂なのか、濡れた土なのか、凍った雪山なのか、その環境によってマップも変わってきます。
私どもはシューメーカーに入念なヒアリングを行なったうえで適したソールをご提案し、ソールの開発後には必ずテクニカルレポートをお渡ししています。それができるのはヴィブラムだけだと自負しています。

ヴィブラムの企業理念を、眞田さんはイタリア文学者・須賀敦子さんの著書『ユルスナールの靴』のフレーズを引用して紹介してくれました。
きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。 そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、 私はこれまで生きてきたような気がする。行きたいところ、行くべきところ ぜんぶにじぶんが行ってないのは、あるいは行くのをあきらめたのは、 すべて、じぶんの足にぴったりな靴をもたなかったせいなのだ、と。
(『ユルスナールの靴』須賀敦子)
この言葉にふれ、ヴィブラムの「人がしたことのない経験を後押しする」という理念に通じると感じました。
何かをしたい、どこかへ行きたいと考えたとき、重要視したいのが靴選び。人の可動域を上げてくれて、怪我なく無事に帰るところまでを見届けてくれる。そんな役割を担い、履く人に寄り添うのが、ヴィブラムソールの魅力だと考えています。
足に合う靴は、その人の可動域を上げてくれる

名だたるシューメーカーに指名されるヴィブラムソール。アウトドアブランドとしてのルーツを持ちますが、現在は多くのブランドでビジネスシューズにも採用されています。
「ドレスシューズなどはエレガントな革底の薄さを楽しみたい」という靴好きの言い分もわかりますが、交通機関や徒歩での移動もあり、雨の多い日本ではラバーのアウトソールを選ぶ人も多いとか。
ヴィブラムのコンパウンドは、加工しても裁断面がとてもきれいに仕上がるので、革底派という方にもおすすめできます。ラバーソールはクッション性も高いので、足の痛みや疲れの軽減にもひと役買うと思いますよ。
足や指先は痛みを感じやすいため、痛みや疲れで集中できず、いつものパフォーマンスが発揮できないという事態は避けたいもの。滑らないかと地面を気にして歩いていては、見た目もスマートではありません。

また、ビジネスパーソンのオフにもヴィブラムソールは大活躍。
眞田さんによれば、バイク用や自転車用、ウォーキング、ゴルフ、釣り、ジョギング、トレイルランニング、トレッキング、クライミングなど、ビジネスパーソンがオフで履くシューズにも、ヴィブラムソールが採用されているのだとか。
私たちヴィブラムは、K2登頂が出発点。命懸けでもいいから標高8,611メートルの景色を見たいという人の思いを実現してからは、どんどん標高を下げ、さまざまなライフスタイルに寄り添ってきました。
アウトソールの品質は、人生の豊かさに直結する。そんな思いで、これからもさまざまなニーズにあったラバーソールをご提供できたらと考えています。
ヴィブラムの黄色いロゴは、確かな靴であることの証

仕事やプライベートでの移動を自由にするだけでなく、履くことの楽しみを教えてくれるヴィブラムソール。
「ヴィブラムソールを採用しているということは、その靴は品質や履き心地だけでなく、持ち主の行動を後押ししたいという気持ちが込められた、確かな製品であると思っていただいていいでしょう」と眞田さん。
百貨店やスポーツ用品店で靴を手にとったとき、ぜひアッパーだけでなくアウトソールにも目をやって、黄色いロゴを探してみてください。
また、三越日本橋本店(本館2階紳士靴売り場)にあるヴィブラム公認のカスタマイズサービス「ソールファクター」では、ヴィブラムソールに張り替えて靴のイメージチェンジや機能面をプラスさせるカスタマイズが可能。
お気に入りの靴をバージョンアップさせるとともに、ヴィブラムソールの履き心地の良さをブランドの歴史とともに確かめてみてはいかがでしょう。

眞田 くみ子(さなだ・くみこ)
ヴィブラム ジャパン代表取締役。1996年にイタリアのヴィブラム社に入社し、イタリアでは、デザインやマーケティングを担当。2012年9月19日にヴィブラムジャパンを立ち上げ。日本法人代表としてヴィブラムソールの良さを広めている。
Source: ヴィブラム/Photo: YUKO CHIBA