新型コロナウイルス感染症のパンデミックからウクライナ危機まで、ここ2年あまりの間には、実にさまざまな試練が私たちを襲いました。こうした社会の変化によってGDPは落ち込み、収入格差が広がり、新たに1億5000万人もの人々が極度の貧困状態に陥りました。
残念ながら、今後もさらなる試練が待ち構えているようです。世界経済フォーラムが発表した「グローバル・リスク・レポート」でも、回答者の3分の1以上が、短期的に見ると「勝ち組」と「負け組」の断絶がさらに深まっているとの見方を示しています。
また、多くの回答者が、さらなる地球環境の変化、地政学的危機、経済におけるボラティリティ(変動性)の増加により、今後2~3年の間は予想不可能な状況がほぼ絶え間なく続くと予測しています。
こうした時に必要とされるのが、古い慣行を捨て、未来に向けた解決策を打ち出すことの必要性を理解しているリーダーです。
彼らなら、社会や環境に関する喫緊の重要目標の達成をあと押しできるはずですし、変動する状況に対しても機敏に対応し、長期的な成功を収められるでしょう。
今後は、新たな実践を積極的に導入し、未来志向で物事を考えることができる機敏なリーダーが長期的な復活を遂げる可能性があります。
こうしたリーダーは、私たちがもはや、2019年以前の「いつもと同じ」という状況に戻ることはないことを理解しています。
そして、今後やってくる、「ディスラプション(混乱と破壊的革新)の連続」に対応する準備ができているはずです。
では、未来志向のリーダーが、世界をより良い方向に変えていく道筋、そして、彼らが成功を収めるために必要とされる事柄について、以下に考察していきます。
新たな実践を積極的に受け入れる
変化の激しい世のなかでは、新しい形の柔軟性が要求されます。こうした柔軟性を持つことで、リーダーは新たな環境を巧みに切り抜け、斬新な実践やビジネスモデルをつくり出していくことが可能になります。
さらに、計画立案や成功を収める方法についても、新たなアプローチが必要になります。
来たるべき世界における成功とは、過去数カ月、あるいは数年の計画であらかじめ決められていた、特定の静的な結果を得ることではなく、状況に合わせた機敏な行動を反映したものになるはずです。
急速に変化が進む時代においては、3~5カ年の計画といった、従来からある手法の有用性が薄らいでくるでしょう。
未来志向のリーダーは、何年も前に決められた主要業績評価指標(KPI)でチームの成功を判断するとしたら、「もはや意味のない状況」に対する無駄な対応を強いるおそれがあることを理解しています。
Harvard Business Review(HBR)が8月の記事で指摘したように、戦略に関する計画は、「『計画を立ててから実行に移す』という静的なものから、戦略的意思決定と実行からなる、動的かつ連続的なアプローチへの進化を迫られている」のです。
多くの未来志向のリーダーにとっては、成功に関して、まったく新しい指標を策定する必要に迫られる場合も多いでしょう。
たとえば、プラスチックごみの問題に関しては、リユースの進捗状況を測定する、標準化された指標が存在しません。
こうした指標は、プラスチック汚染の進行に歯止めをかけ、重要な資源を守るためにはどうしても必要なものです。
この問題に対応するために、世界経済フォーラムのイニシアティブ「Consumers Beyond Waste(CBW)」では、ビジネス界と各国政府のリーダーが手を組み、標準化された指標の開発に取り組んでいます。
これは、リユースモデルへのシフトを加速するうえで、重要なステップです。
こうした動きは、ビジネスおよび地球全体にとってよりサステナブルなものです。そして、利益だけではなく目的も重視するよう策定された、新たなKPIのあり方を示すものでもあります。
自らの掲げる価値観の実現に注力する
ビジネス上の決断の際に、「自分のこの決断は、気候問題にどんな影響を与えるだろうか。この選択が、私たち/私自身が役立ちたいと考えているコミュニティの経済成長にどう貢献するだろうか」と自問する人はどのくらいいるでしょうか。
私も含めて大半の人は、常にこうしたことを考えているとは限らないでしょう。
しかし、自分たちの行動と、掲げる価値観が一致しているかどうかを確かめる、このようなシンプルな問いかけは、急速に変化を遂げる今後の世界では非常に重要なものになっていくはずです。
サステナビリティや資源保護、インクルージョンといった重要課題は、いずれも長期的な視点で見るべきものです。
しかし、こうした長期的課題への取り組みの成否は、時に、四半期単位の短期的思考とは相容れないことがあります。
変化の激しい状況では、リーダーが長期的な目標について腰を据えて考えることは難しそうに思えますが、こうした変化の時にこそ、価値観の実現に注力することが、リーダーがブレることなく、対立する利益や迫り来る危機を乗り切るうえでの力になるはずです。
こうした思考法が、幅広い企業や組織に取り込まれている例もすでに出はじめています。たとえば、最近になって発表された世界経済フォーラムによる一連の「Stakeholder Capitalism Metrics Case Studies」は、自らの掲げる価値観を、日々の事業運営に組み込みはじめた企業の事例を考察しています。
一部には、「環境・サステナビリティ・ガバナンス(ESG)」に関するトピックが、取締役会の議題として取り上げるべき恒久的な問題意識とされている企業もあるほどです。
こうした例が、重要課題への取り組みを進展させる新しいプロセスの構築手法に道を開いています。
ほかにも、企業の行動が価値観とどれだけ合致しているかをはかるため、従業員にアンケート調査を行なっている企業もあります。これも、より幅広いチームとつながりながら目標を再評価する、生産的なチェック方法の1つでしょう。
リーダーシップの鍵「道徳的勇気」を持つメリット
重要なのは、こうした未来志向の組織には、たとえ反対されても正しい行動をとろうとする道徳的勇気(moral courage)が生まれるという点です。
リーダーシップ・アドバイザリー企業のRussell Reynolds氏は、先日発表したサステナビリティに関するリーダーシップ調査において、こうした道徳的勇気がカギになる要素だと指摘しています。
取締役や企業幹部がこうした勇気を持っていると、社会的評価を上げるといった長期的な目標を、短期的な売上高の指標と同様に重視している、というメッセージを送ることができます。
こうした視点を持つ企業には、よそではできない仕事をしているとの自覚が従業員の間に生まれ、やる気のある人材を長くとどめておけるというメリットが生まれます。
権限を与えられ、起業家精神に満ちたチームは、ボトムアップで変化をもたらす原動力になるでしょう。
こうした価値観を掲げることで、企業や組織の戦略は、業界やテクノロジー、セクター、市場の流動的な変化に、より容易に対応できるようになるはずです。
これらの組織は、企業の収益だけではない、より大きな目標の達成に向けて、急速に前進することが可能になります。それを率いるリーダーは、企業の枠や自身の任期を超えた大きな影響力を持つでしょう。
変化する状況に機敏に対応する組織づくり
未来志向のリーダーは、来たるべきディスラプションに備えます。
単に、起きたことに反応するだけにとどまりません。急速に進むイノベーションに合わせて、テクノロジーの範囲をはるかに超える機敏な対応が求められます。
新たなプロジェクトにゴーサインを出す権限を与えられたチームは、新たなチャンスをより容易に生かし、新たな事業分野の成長をあと押しすることができるはずです。
Volvo GroupのLars Stenqvist氏は、2021年に世界経済フォーラムのポッドキャスト「Meet The Leader」に出演した際、「管制塔的なリーダーシップの時代」は終わったと発言していました。
実際に同氏のチームでは、厳格に仕様を定めた書類が山と積まれることはなくなっています。
なぜなら、ディスラプティブな(破壊的に革新する)技術の進展により、対話や創造性を発揮する余地の確保が求められるようになってきたからです。
その結果、同氏のチームにおけるリーダーは、指示を下すというよりはメンバーに対してより仕事を任せ、サプライヤーと提携しつつソリューションの策定にあたっています。
これにより、開かれた対話が促進され、共有のリソースがより良い形で活用され、「輸送の脱炭素化」という喫緊の課題の解決に向けた進展がみられます。
外部パートナーと協働することで成功につながる
変化の激しい世界では、自社のリソースや能力を、時間をかけて増強することは難しくなります。
それでも、外部パートナーとの共同作業を、日々の業務に組み込んでいる組織は、難なく共有リソースを最大化し、変化の激しい未来の環境においても成功を収めることができるでしょう。
実際、Stenqvist氏は、パートナー企業との共同作業に強みを持つことは、競争上でも優位に働き、企業はこの点を無視することはできなくなるだろうと述べています。
新鮮な思考が、新鮮なソリューションをもたらす事例を、私たちは繰り返し目にしてきました。
たとえば、世界経済フォーラムがトップ・イノベーターたちを組織したコミュニティー「アップリンク(UpLink)」は、非常に創造性の高いソリューションが、通常とは異なるアプローチから生まれていることを頻繁に示しています。
新興市場で活躍する起業家を見れば、創造性豊かなリーダーが、リソースや責任を共有することで、ソリューションを迅速につくりあげる様子がさらによくわかります。
こうした起業家は、あらゆる業界にとってリーダーの見本となる存在です。
さらに先を見据えた大胆な変革を
未来志向の考え方から生まれる真のチャンス。それは、セクター全体を再構築する機会です。
1人のリーダーの取り組みが、模倣可能なモデルを生み出し、真の変革のきっかけとなるでしょう。そして、何倍もの効果を発揮し、良い方向に物事を動かす可能性があります。
未来志向の考え方は、地球をも救うでしょう。また、繁栄の原動力にもなります。
消費者が、自分の購入する商品やサービスの出所に関心を持つ傾向は、今後もますます強まるでしょうし、気候変動問題を意識する取り組みを取り入れた企業は、急速に支持を集めていくはずです。
実際、『Nature』に8月に発表されたある論文によると、アメリカ人に対して「気候変動関連の政策がどのくらい支持されていると思うか」と聞いた際の割合は、実際の支持率の半分程度であることが判明しています。
実際の支持率は、66~80%とかなり高いのです。投資家も、こうした市場の変化に対応していくことになるでしょう。
小規模ながら、こうした傾向をうかがわせる結果もすでに出ています。
世界経済フォーラムとScaleup Nationによる2021年の調査では、スタートアップの場合、経済と社会の両面に関わる目標が挙げられている企業のほうが、純粋に営利目的の企業よりも、スケールアップできる可能性が43%高まるという結果が出ています。
こうしたスケールアップにより、既存セクターを再構築しながら、新たなビジネスが築かれていきます。
競争の激しい事業環境を生き抜きながら、事業の運営方法にも気を配るリーダーは、両面で成功を収め、永続的な影響を残す可能性も高まります。
こうした大きな変革には、率先して変化を引き起こす人材が不可欠です。これから先は、パートナーシップや集団での行動が重要になるという話を聞いたことがある人は多いはずですが、その重要性は現在、これまでにないほど高まっています。
今こそは、さらに多くのリーダーが、リソースの活用や共有を促進し、目指す社会の変化を実現するために、積極的にコラボレーションを行ない、業界内での責任を引き受けなければなりません。
リーダーが自身の行動を見直し、掲げる価値観の実現にさらに注力し、状況に応じて革新的かつ機敏に動くことによって、賃金格差や生活水準といった社会問題においても、一段の進展が見られるはずです。
何より重要なのは、温室効果ガスや廃棄物問題などを含む、環境問題に関する目標に向き合う、より良い体制ができることです。
これは真に、一生に一度の変革のチャンスです。未来志向のリーダーであれば、このチャンスを決して見逃すことはないでしょう。
Source: THE WORLD BANK, WORLD ECONOMIC FORUM (1, 2, 3, 4, 5), Harvard Business Review, Russell Reynolds Associates (1, 2), nature communications
Originally published by Fast Company [原文]
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