Satya Nadellaさんは、実に印象的な人物です。MicrosoftのCEOとして10年近く在任しており、どのような基準で見ても広く成功を収めています。特に、共感することに全力を注ぎ、荒んだ有害な職場文化を修復したことは注目に値します。
この成功は彼が職場で人間的な思いやりを大切にしたからですが(そういうことを当然とするCEOがもっと増える必要があることはたしかです)、それだけではありません。
彼の場合は、この「ソフト」なスタイルと、多くのビジネスリーダーに欠けているはっきりとした科学的スタンスを両立させているのが特徴です。
在宅勤務の賛否を問う議論にデータを用いる
Nadellaさんは、コンピューター科学者でありエンジニアの経験もあるので、科学的スタンスで考えるのは当然かもしれません。そして、彼は今でもその経験から得たレンズを通して世界を見ています。
最近、Nadellaさんはあるインタビューで、在宅勤務と生産性という、今や恒例となった話題に関して意見を求められました。
在宅勤務に関しては、強硬な意見も多く、時には怒号も飛び交うような激しい議論になっています。誰もが異なる意見を持っているようです。
Googleに「在宅勤務」と打ち込むと、ポジティブな記述とネガティブな記述が半々に出てきます。「良い」、「悪い」、「私を惨めにする」、「私をダメにする」、「これからの仕事の仕方」などなど。そう。Googleだって決められないんです。
しかし、在宅勤務に対する賛否を聞かれたNadellaさんは、あまり意見を語りませんでした。これからの働き方について、正しいと思う方向性を論じることはなく、その代わり、データを引用したのです。
在宅勤務のパラドックス
過去3年にわたり、リーダーとそのチーム、あるいはフォロワーの生産性レベルに対する認識には断絶がありそうだということが多くの研究で明らかになっています。
ほとんどの従業員は、在宅勤務のほうが生産性が高いと答えています。しかし、管理職はそれほど納得していません。
Nadellaさんは、次のように説明しています。
85%以上の管理職が、生産性に関してもっと望むべきことがあると考えています。つまりパラドックスがあるわけで、そのパラドックスを埋めるには、ドグマを増やすのではなく、データを増やすことが一番だと思います。
ドグマを減らし、データを増やす。これは、どんな組織にとってもマントラであるべきです。私はこの言葉を自分のマントラにしようと思っています。クールなタトゥーになるかもしれません。
Nadellaさんは、この話題がニュアンスに富んでいることを評価しています。そして、ほかのリーダーと違って、何が良いとか悪いとか、自分の意見をポンポン発しません。
科学者も言っていることですが、在宅勤務とオフィス勤務のどちらがより生産的かはかなりの不均質性があることをNadellaさんは認識しています。要するに、「場合による」のであって、これは、昔から複雑な質問に対する常とう句です。
そして、実際にその通りです。この議論はイエスかノーで答えられるものではありません(多くのリーダーは一択での回答を望んでいますが)。
イエスかノーで答えが出るかのように装うこと、そして確証バイアスに基づいた意思決定をすることは、社員にとっても、ビジネスにとってもよくありません。そこで、私からの提案です。科学者のように考え、「場合による」と言い、傾向を示すデータを探しましょう。
在宅勤務の生産性は業種や性格などの諸条件による
働く人がどんな人かによって答えは違ってきます。その人の特性や性格が関係してきます。ビッグ・ファイブ性格理論によると、外向性と好感度が高い人は、内向的な人や好感度が低い人と比べると、家を出てオフィスやクライアントの現場に行きたがる傾向があります。
また、業種や業務内容によっても違ってきます。ソフトウェアやITサービスの分野でしょうか? いつでも、どこでも、誰でもできる仕事でしょうか? どの程度1人で仕事をする仕事なのでしょうか?
あるいは、チームでする仕事なのでしょうか? プロジェクトベースでしょうか? 発散型、収束型のどちらの思考が必要な仕事でしょうか?
生産性がどのように測定されるかにもよります。これはこれで、また別の話になりますが、ほとんどの人は物事を適切に測定することができません。生産性のような曖昧なものはなおさらです。
知識経済では、私たちはウィジェット工場でウィジェットをつくっているわけではありません。アイデアを生み出し、知識を創造しているのです。その成果を測定するのは非常に困難です。
また、「感じ方」対「実際の生産性」によっても違います。ここでNadellaさんが言うところの「在宅勤務のパラドックス」が発生します。自宅のほうが生産性が高いと感じるかもしれませんが、(正しく)測定してみると必ずしもそうではありません。
では、どうすればいいのでしょう? どうすれば、チームの人たちに、認識と行動が異なることを理解させ、導いていくことができるのでしょうか。簡単に答えが出ることではありません。
Source: yahoo!finance, Chief Learning Officer
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