ハリウッドのスタジオには、信じられないほど愚かな慣習があります。
それは、スタジオの責任者が変わると、開発中の映画のプロジェクトをすべて破棄して、新しいことを1からはじめること。
読者の皆さんも自分が所属する業界で同じような現象を目にしたことがあるのではないでしょうか(私もあります)?
ただ、新任の上司がこうしたことをするのもそれなりの理由があります。新しい人材を責任者に据えるのは、ほとんどの場合、これまでのやり方を一新することが目的だからです。
この「一新」が成功すれば「改革」と呼ばれ、失敗すると「改悪」と呼ばれます。
では、あなたが新任の責任者になったらどうしますか? “必ず成功する方法”を伝授しましょう。
「改革」の前に、現状を把握する
作家でありC. S.ルイスの飲み仲間であるG. K.チェスタトンは、自著『The Thing: Why I Am a Catholic』の中の戦略を次のように説明しています。
改革が破壊と異なる点は、たった1つのわかりやすくシンプルな原則があることです。この原則は、パラドックスと呼んでもいいかもしれません。
改革には、特定の規則や法律が存在します。わかりやすく言えば、道路をさえぎるフェンスや門が存在する状態です。
より現代的なタイプの改革者は、そのフェンスや門に大胆に歩み寄り「こんなもの、使い道がわからないから撤去しよう」と言います。
これに対して、より賢明な改革者なら、それより1枚上手の対応をします。「使い道がわからないなら、撤去させるわけにはいきません。使い道を考えてみてください。そして、わかったら戻ってきて私に教えてください。その内容によっては、撤去を許可するかもしれません」。
「チェスタトンのフェンス」とは、この「なぜフェンスが建てられたのかわかるまで、決してフェンスをとりはずしてはならない 」という名言に由来しているのです。
改革者や革命家の勇み足により大惨事が発生した時好んで使われる言葉です。
規制緩和された産業が崩壊するか、顧客を失う前に、ビジネスに優しい政治家によって取り払われた「形式主義」を指すこともあります。
「仕事が遅い」という理由で解雇されたスタッフが、実は全員の仕事を引き受けていたことが後々判明したとしたらどうでしょう?
なぜ仕事が遅いのかよく調べもせずに優秀なスタッフを失ってしまったことになります。まさに、「急いては事を仕損じる」です。
チェスタトンは、「家庭への愛着」と家庭生活を狂わせる抜本的な社会改革に異を唱えて、フェンスを発明しました。
彼は「託児所」というコンセプトに本気で怒っていました。しかし、従来からあるものの維持を唱えるいっぽうで、主張の本質は保守的ではなかったのです。
変えようとしているものを徹底的に理解しよう
資本主義の本当の使い道を知っていたのは誰かご存知でしょうか? カール・マルクスとフリードリッヒ・エンゲルスです。
現に、2人の共著である『共産党宣言』の第1章は、資本主義者がいかに封建主義を覆し、たった1世紀の間に、それ以前の全人類史以上に多くのことを成したと説明しています。
具体的には工業化、化学、蒸気動力、列車、通信機、近代化された農業などがあげられています。
このような生産的な力が社会的労働の中に眠っていたことを予感した時代が、それ以前にあったでしょうか?
『共産党宣言』の2人の著者は、こうした生産性のすべてが、富を少数の人々の手に集中させたこと、そしてそれこそが実は資本主義の目的であるということを指摘しています。
『共産党宣言』全体が、読者の好き嫌いに関わらず、「封建主義を大幅に改善した結果」として誕生した、資本主義への徹底的な理解のもとにつくられています。
歴史上もっとも物議をかもした革命家たちは、「チェスタトンのフェンス」を尊重しているのです。
私たちも、何かを変えようとしている時や、新任担当者になった時は、「チェスタトンのフェンス」を思い出して実践しましょう。
──2019年11月29日の記事を編集のうえ、再掲しています。
翻訳:春野ユリ
Source: Vice, The Thing, ABOVE THE LAW, Marxists Internet Archive