道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。
今回お話を伺うのは、野菜栽培のためのIoTセンサー「grow CONNECT」をはじめとしたgrowブランドを展開するプランティオ株式会社の代表取締役・芹澤孝悦さん。
大手町のビルの屋上にある農園でインタビューを実施しました。
スタートは「祖父が発明したプランターをIoTしたら?」という発想
──起業に至った経緯は?
祖父の芹澤次郎は、プランターを発明して日本に広めた人物でした。
ベランダなどで野菜が育てられるプランターは70年以上前に発売され、出荷台数を数えると軽く見積もっても10億台くらい。
僕が創業したころはIoTやM2M(Machin to Machine)などが流行っていたのもあり「プランターがIoT化されて、そこで育てた野菜の生産量を計測したら、既存の農業を超えるんじゃないか?」とふと思ったんです。
そこで、IoTプランターをつくろうと、投資家の孫泰蔵さんと一緒に創業しました。

「農業」という産業では、DX化やデジタル化を実現しようとしているアグリテックは山ほどある。でも、一般の方の農的な活動をデジタル化しようという動きは、当社以外は皆無です。
農家の方が減少し続けているなか、一般の方で野菜栽培をはじめる方は多い。だから、個人の方のほうが大きなインパクトがあるかもしれないですよね。
ただ、日本の場合は農園というと区画貸しが多いんです。
郊外に畑を借りて最初は家族そろって通っても、いずれ面倒になりお父さんひとりで修行のように畑仕事をするという(笑)。だから解約率が高く、1年後で65%にもなる。それって、持続可能じゃないですよね。
ところが、海外は違う。ひとつの農園を地域の共有財産としてみんなで支えあうすることが一般的です。
オランダでは、農園の入り口にボードが置かれていて、「今日は○○が水やりをした」などと手書きするようになっています。
また、アーバンファーミングも進んでいて、都市でもマンションの上に農園を設置しているんです。ロンドンの街中には3000箇所以上の農園、パリには世界最大の屋上農園、ニューヨークではマンションの3~4棟に1棟は屋上農園があります。
都市の農園をIoTとアプリでたのしくエンパワーメントしようとしているのが我々のサービス。
今見ていただいている農園では、「Aさんが農園に入った」「Bさんが敷きわらをした」「Cさんが水やりをした」とメンバー全員に通知が届きます。

IoTプランターからIoTアグリセンサーへ
──開発のプロセスは?
もともと開発していたのはIoTプランターだったのですが、今は土に差し込むスティック型のIoTセンサーになりました。
変更のきっかけは、東急不動産から出資をいただいたとき、ビルの屋上に農園をつくることになったから。プランターを並べるよりも、スティック型のほうが融通が利くと考えました。この形なら、ベランダでも、広い農園でも、既存の農業でも活用できます。
開発費は数億円程度かかってしまったのですが、世界ではじめてのIoTアグリセンサー「grow CONNECT」ができました。土壌温度、土壌水分量、外気温、外湿度、日照のセンサーと、イメージセンサーカメラがついています。

例えば、バジルは土の温度が累積で100℃に達すると発芽するので、それに水や気温、日照の推移などを含めて計算し、アプリでナビゲーションしてあげます。
沖縄で育てていたら「3日で芽が出ます」、北海道なら「7日で芽が出ます」など、環境に応じてアプリ「grow GO」に適切な通知を送れるんです。
アプリには、SNSのようなコミュニティやエンターテインメント要素もあります。
農園がいくつも登録されていて、フォローしている農園は、野菜に必要なお手入れが見られる。専門知識がなくても、アプリを見ながら野菜のお手入れをして育てられるんです。
コミュニティに途中から入ってきてもやることがわかり、やり方も書いてあります。お手入れをしたら、写真に撮ってアップすると、コミュニティのフィードに出るという仕組みです。
さらに、野菜を飲食店へ持ち寄り食べる「FARM to TABLE」も実現できます。育てて、食べるという体験ができるんですね。
加えて、削減CO2なども見える化できます。既存の農業に比べて、生産時や流通時で削減できたCO2を計れる。企業や行政が導入すると、全体でのCO2削減を数値で見ることができるんです。