業務改善のフレームワークに「ECRS(イクルス)」というものがあります。
これは、「Eliminate(排除)」、「Combine(結合)」、「Rearrange(代替)」、「Simplify(簡素化)」の頭文字をとったもので、「ECRSの4原則」とも呼ばれます。
主に製造現場の生産性改善を狙って導入されている概念なので、あまり馴染みがない人も多いかもしれません。フリーランスの筆者は、これをアレンジして仕事の生産性を上げることに役立てています。
今回は、ECRSの原則を日々の業務に生かすコツについて紹介します。
まったく成果につながらないタスクは「排除」
まずは、Eの「排除」から。
「排除」とは、不要な業務を特定し、やめてしまうことです。
大企業では、誰も読まないのに慣例で作成されている報告書など、排除しても何も問題とならない(けれど続いている)業務が意外とあるもの。社員の誰かがそれを指摘しない限り、永遠になくならないかもしれない典型的なムダです。
一方、フリーランスは1人で完結するから、「そんなムダな業務があるわけがない」と考えがち。ところが精査すると、結構あるものなのです。
筆者の例を挙げましょう。
筆者は、定期的にいくつかのニュースリリースサイトをチェックして、記事のネタを探しています。そうしたサイトの中には、数百件チェックしても1つも記事のネタが見当たらないものがあります。
それは単に、ニュースリリースで配信されている記事の傾向が、筆者が求めているものとマッチしないというだけのことでしょう。日々配信されているニュースリリースのヘッドラインをチェックするだけでも、何百件もあれば、それなりに時間はかかります。
筆者は、「もしかしたら1つぐらい面白い情報があるかも」と思いながら、何年間もそれを続けていました。
はたから見れば、それこそが排除すべき業務だとわかるはず。それを阻害するのが、本人の「もしかしたら…」「ごくたまには…」という根拠の薄い期待です。また、「仕事をしている気になれる」というプチ充実感もあるでしょう。
しかし、それはまがい物の充実感です。
時間をかけているけれど、成果にはつながっていない業務は、誰しも2つや3つ抱えているはずです。思い切って、それらはやめてしまいましょう。
類似した作業は結合して省力化
2つめの「結合」は、似ている業務を1つにまとめ、業務効率を向上させることです。
企業の場合、ほとんど同じ業務をしている部署が複数あった場合、それらを統合するときに、この概念が適用されることが多いようです。
フリーランスの場合、複数の部署があるわけではないので無関係と思うかもしれません。ですが、「フリーランスとは、営業、製造、経理、マネジメントの全部をこなす1人企業」と考えれば、いくつか課題が見えてくるはずです。
筆者のタスクに、記事を書くためにメーカーから借りた商品サンプルを返却するという作業と、取引先に請求書を作成・郵送するという作業があります。
まったく別々の作業ですが、宛名を書く、郵便局に行くという共通点があります。以前は、これらの作業を別々に行なっていたのですが、「一元化すればもっと楽に、早くできる」と気づきました。
つまり、メーカー向けの書類送付状と取引先向けの請求書の作成は、同じ時間帯に行ない、 一度にプリントアウト。梱包や封筒に入れる作業もまとめてやって、全部まとめて郵便局に持って行くのです。
その際、必要に応じて切手・封筒のまとめ買いをし、無記名の宅配ラベルをもらいます。これによって、プリンターの操作や郵便局に行く時間が減り、ちょっとした効率化が図られています。
業務連絡のプロセスを交換してムダを削減
3つめの「交換」ですが、これは業務の手順、場所、時間、人員などを入れ替えて、効率化をねらうというもの。
一番分かりやすいのは、A→B→Cという手順で進めていた作業を見直して、A→C→Bにしたほうが効率化できないかと検討することです。
筆者の例ですと、商品サンプル貸し出しリクエストの手順が挙げられます。
それまでは、先に編集部に「この商品の紹介記事はどうですか」と提案し、編集部がゴーサインを出したら、メーカーにサンプル貸し出しの要望を出すという手順でした。
これを改め、まずメーカーにサンプルの貸し出しは可能かどうかを確認します。「可能です」と返事が取れたら、編集部に打診すると手順を変えたのです。
これにより、サンプル貸し出しが可能かどうか不明(貸し出し不可であれば記事不成立)な商品の紹介記事について、筆者と編集部が時間をかけて検討するという、(まったくムダになりえる)時間がごっそり省けました。
本当に「120%のクオリティ」を求められているのか?
4つめの「簡素化」は、4つの原則のなかで一番たくさん見つかる改善要素ではないでしょうか。
例えば、取引先とのメールのコミュニケーション。
特に駆け出しのフリーランスが取引先との間でやりがちなのが、丁寧すぎる内容のメール。これは「発注者よりも立場が低い」という意識がそうさせてしまうのでしょう。でも、取引先は「まわりくどくて読みにくいメール」と、思っているかもしれません。
新規の取引先でも、何回かやりとりしたら、メールはどんどん簡素化していきましょう。「お世話になっております」は不要。末尾に「追伸」と記して、自分の近況など世間話を加えるのは、半年に1回ぐらいに。
そして、必ずしも返信する必要のないメールに対して、「メール拝受しました」と、純粋に受領通知でしかない返信もやめましょう。
それ以上に「簡素化」を検討したい要素は、取引先に納める仕事の成果物です。
ビジネス書の中には、「常に相手が求める以上の120%のクオリティの成果物を出し続けよ」といった意識の高いフレーズを見かけます。
でも、あなたが現実に取引している相手は「80%程度のクオリティでかまわないから、より早い納期で、より多くの成果物として提供してほしい。リファインはこちらでやるから」などと考えているかもしれません。
相手はどの程度のレベルの成果物を欲しがっているのか、ざっくばらんに聞いてみましょう。返答次第では、成果物を生み出すまでのプロセスが、大なり小なり簡素化できるはずです。