チームビルディングにおいて、「心理的安全性」という言葉が、にわかに脚光を浴びています。
まだ多くの人には耳慣れないこの用語。「心理的安全性が高いチーム」といった場合、「目指すゴールや成果のために、“健全な意見の衝突”が起こせるチーム」を意味するそうです。
株式会社ZENTech シニアコンサルタントの原田将嗣さんは、心理的安全性を軸にした組織づくりをテーマに、企業・官公庁相手に研修を実施している専門家です。著書『心理的安全性をつくる言葉55』(飛鳥新社)からチームビルディングに役立つポイントをいくつかご紹介します。
日常のコミュニケーションの在り方がカギ
原田さんによると、「健全な意見の衝突」とは、チームメンバーの誰もが率直に、思ったことを言い合えることなのだとか。
そうしたチームは、「話しやすさ」、「助け合い」、「挑戦」、「新奇歓迎」という4つの因子(まとめて「話助挑新」)が高いそうです。
例えば、「挑戦」をテーマに掲げるチームでも、挑戦はしたけれど失敗に終わった場合、マイナスの反応を受けるなら挑戦因子が低いチームです。
逆に挑戦因子が高いチームだと、挑戦の結果が判明する前に、まずは「挑戦したことそのもの」を歓迎できる環境・雰囲気があります。こんなチームなら、最終的な成否に関わらず、チームの挑戦の総量が増えるという効果があるそうです。
では、心理的安全性の高いチームをつくるには、どうすればいいのでしょうか?
カギとなるのは、チーム内の日頃のコミュニケーション。原田さんは、著書の中で、心理的安全性が高まる会話の例を多数取り上げています。
チーム内で「相談タイム」を設けてみる
例えば、「心理的安全性」の観点から見てNGの例はこんな感じです。
「〇〇さん、相談があるのですが」
「ごめん、ちょっといま忙しいから、あとでいい?」
多くの企業で日々かわされているであろう会話ですが、このレスポンスが「話しやすさ」因子と「助け合い」因子を減らしてしまうダメな例なのだそうです。
対して、心理的安全の点で好ましいのが、「ごめん、ちょっと今は手が離せないから…30分後でもいいかな?」というふうに、相談のタイミングを指定するかたち。
さらに心理的安全性を高める工夫として、原田さんは、「相談タイム」をチーム内で設けることをすすめます。
「リーダーや教育担当の先輩社員が30分でもいいので『相談タイム』『相談OKタイム』のように自分のカレンダーの予定に入れ、チーム内に共有します。
『相談タイム』は、メンバーの相談を優先的に受ける時間です。『何もなければ自分の作業をしますが、この時間帯であれば相談優先で対応するので言ってください』というチーム内ルールにします」(『心理的安全性をつくる言葉55』より)
単なるオープンドアポリシーと違い、相談する側からすれば声がけがしやすくなり、風通しのいいチームになりますね。
心理的安全性を高める会議のコツ
チームで行なわれる会議は、もっとも心理的安全性の問われる場でしょう。
原田さんも「会議開始時にリーダーが心理的安全性についてあえて言及することで、会議が実りあるものになる」とアドバイスしています。
例えば次のような発言です。
「この場所は、心理的安全な場所です。どんな意見、アイデアを言ってもいい場です。ミスやトラブルなどの報告があるなら、それを“叱る場”ではありません。どうするかを“前向きに検討していく場”です。この場の心理的安全性は私が担保します」(『心理的安全性をつくる言葉55』より)
この前振りに続く言葉も重要です。「さっそくですが、時間もないので、1つ目の議題からいきます」はNG。正解は、「この会議のゴールは〇〇です」と、ゴールを共有・確認してからはじめること。
こうすることで、参加者全員がさらに話しやすい会議になるそうです。
また、皆から意見・アイデアを募る際も、「当てていくので、ひとり1アイデア話してね」ではなく、「少し時間を取るので、いったん書き出してみよう」と促します。
言うなれば、会議の最中に各々がブレインストーミングをするということ。そのための時間を数分とって、各自がそれを読み上げるスタイルで発表します。原田さんは、この効用を次のように述べています。
「遠回りのように思えるかもしれません。また、会議の流れを止めてしまうように感じるかもしれません。
しかし、『えーっと』を繰り返す『考えながら発言法』より、『書き出し法』のほうが、同じ時間の中で共有される、メンバーのアウトプットやアイデアの総量は多くなるもの。チームワークにおいても、個人で考えることは重要なのです」(『心理的安全性をつくる言葉55』より)
この手法は、リモート会議でも便利。その場合は、「グーグルドキュメントを一斉に開いて書き込む」などし、リーダーが、「〇〇さんの書き込み、私は面白いと感じます」というふうに行動承認(行動そのものを承認すること)すると、効果抜群だそうです。
取引先との交渉でも心理的安全性は有効
得意先との商談で、価格・要件について厳しい要望が出たら、その場でつい「なんとかします」と言って、課題を会社に持ち帰る。そんな経験は、営業マンなら誰しもあることでしょう。
原田さんは、心理的安全性はチーム内だけでなく、顧客・取引先を相手にしたシーンでも有効だと説きます。
キーワードの1つは「自己開示」。自分の考え・状況を前向きに明かすことで、相手の不安が減り、向こうも自己開示をしてくれることが期待できます。会話の例を挙げましょう。
取引先「今年度の予算は50万円で考えています」
自分「そうでしたか。半額となると…正直、困りましたねぇ…(にこやかに)」
取引先「…その代わりといってはなんですが、例えば…」
こうしたやりとりは勇気がいりますし、失注する可能性もあるでしょう。ですが、取引先のとの間で、一緒に考える「私たち視点」を持ち、「成約後の関係性を、パートナーシップに変えていく」という大きな効果が見込めるわけです。
原田さん自身も、相手から厳しい要望が出されると、にこやかな表情で「ぶっちゃけて言いますと…」という感じで自己開示をするそうです。すると相手も同様のノリで返してきて、交渉がはずむことが多いのだとか。
もしも、あなたがチームの運営に苦慮し、「会議で発言する人が少ない」「ミスを隠す部下がいる」といった問題を抱えているなら、心理的安全性の低さが根っこにあるかもしれません。まずは本書を参考に、チーム改革に取り組んでみてはいかがでしょうか?
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