この数年で、私たちの暮らしは大きく変わりました。と同時に変化を続けているのが「企業のあり方」。社会やユーザーのニーズが変わり、企業が掲げるパーパス(存在意義)や、それを実現するための手法にも変化が生まれています。

今回ご紹介するのは、ペットを取り巻く企業の取り組み。「ステイホーム」の号令のもとで猫の新規飼育頭数が激増し、喜ばしい声が聞かれる一方で、ペットオーナーの知識不足や誤解などの理由から、育て方に戸惑うオーナーも少なくないのが実情です。

そんな状況下で、ペット業界に携わる企業や団体は、業界や社会にどのような理想を掲げているのでしょうか。ペットとペットオーナーが幸せになる、そのヒントを探りました。

ペットブームの課題と、その解決法は

写真左より、TICA 石邑明子さん、CFA 早田由貴子さん、ロイヤルカナン ジャポン 山本俊之社長
写真左より、TICA 石邑明子さん、CFA 早田由貴子さん、ロイヤルカナン ジャポン 山本俊之社長

今回お話をうかがったのは、栄養学に基づいて犬と猫の健康を実現する「ロイヤルカナン ジャポン山本俊之社長、そして血統書登録団体の「CFA(シーエフエー)」ジャパンリジョンディレクター早田由貴子さん、「TICA(ティカ)」アジアイーストリジョンディレクター石邑明子さん。もちろん、3名とも愛猫家です。

山本 俊之(やまもと・としゆき)さん<br>ロイヤルカナン ジャポン合同会社社長。P&G、ウォルトディズニー、日本コカ・コーラなど、世界有数の消費財メーカーにて、マーケティングを中心に、セールス、サプライチェーン、財務を含む数々のブランド経営に携わり、2008年より現職。愛猫の猫種はソマリ。
山本 俊之(やまもと・としゆき)さん
ロイヤルカナン ジャポン合同会社社長。P&G、ウォルトディズニー、日本コカ・コーラなど、世界有数の消費財メーカーにて、マーケティングを中心に、セールス、サプライチェーン、財務を含む数々のブランド経営に携わり、2008年より現職。愛猫の猫種はソマリ。

早田さんと石邑さんが活動する「血統書登録団体」は、ペットを飼っていない限り接することのない団体かもしれません。

血統書とは、血統登録された同一猫種(犬種)の父母から生まれた子猫(子犬)に与えられるもので、純血であることを証明するものです。「CFA」と「TICA」は、世界で最も信頼できる2大団体として知られ、健康な純血種の猫が持つ美しさを広めるためにキャットショーや純血種の保全、勉強会などの活動を行なっています。

石邑 明子(いしむら・あきこ)さん<br>TICA アジア イースト リジョン ディレクター。TICA Tokyo Cat Clubの事務局を担当しながら、2020年によりTICA アジア イースト リジョン ディレクターに就任。シャルトリューのブリーダーとして、ペット業界に携わり、現在は主に繁殖の役目を終えた老猫たちと暮らす。
石邑 明子(いしむら・あきこ)さん
TICA アジア イースト リジョン ディレクター。TICA Tokyo Cat Clubの事務局を担当しながら、2020年によりTICA アジア イースト リジョン ディレクターに就任。シャルトリューのブリーダーとして、ペット業界に携わり、現在は主に繁殖の役目を終えた老猫たちと暮らす。

昨今のペットブームについて、「動物をかわいがるオーナーが増えるのは喜ばしいこと」としながらも、石邑さんは「あふれる情報の中から、正しい知識を選べていないペットオーナーが少なくない」と危惧しているそうです。

団体へのお問い合わせフォームには、2〜3年前から初めて猫を飼う方からの質問が多く寄せられるようになり、いわゆる「ペットブーム」を肌で実感してきました。「癒やしを求めて猫を迎えたはいいけれど、正しい飼い方がわからない」という方が多く、正解を求めて「さまよっている」という印象を受けました。(石邑さん)

本来は、ペットショップやブリーダーが飼い方やしつけ方を教えたり、その後に困ったときは相談に乗ったりするような「受け皿」となるべきですが、「そういうコミュニケーションを好まないペットオーナーさんもいるので、一概には言えない難しい問題」と石邑さんは話します。

早田 由貴子(はやた・ゆきこ)さん<br>CFA ジャパン リジョン ディレクター(2020年就任、2022年より2期目)、Allbreed judge。獣医師でもある。CFA国際公認オールブリードのジャッジ(審査員)、CFAマウントフジトウキョウキャットクラブ理事長も兼任。スフィンクスやアメリカンショートヘアなどと共に暮らす。
早田 由貴子(はやた・ゆきこ)さん
CFA ジャパン リジョン ディレクター(2020年就任、2022年より2期目)、Allbreed judge。獣医師でもある。CFA国際公認オールブリードのジャッジ(審査員)、CFAマウントフジトウキョウキャットクラブ理事長も兼任。スフィンクスやアメリカンショートヘアなどと共に暮らす。

また、「猫に対する誤解がまだまだ多すぎる」と語るのが、獣医師でもある早田さん。「猫は散歩をしなくていいから犬より飼育がラク」「猫は自分でなめてセルフグルーミングをするから、シャンプーはしなくていい」といった誤解は、猫の健康状態の悪化につながりかねません。

私が獣医師を目指したころは、ペット用プレミアムフードなんてありませんでしたから、魚を焼いて食べさせたりしたものです。今は猫種ごとのフードや、子猫・成猫・シニア、避妊去勢後といったステージ別のフードもあります。その点で、栄養学に基づいたフードを提供するロイヤルカナンさんの功績は多大だと思いますよ。(早田さん)

食事と進歩した獣医療のおかげで、「猫の寿命も以前に比べたら格段に伸びている」と早田さん。また、「今はインターネットもあるので、正しい情報を得ようと思ったらいくらでも得られる時代。猫に対する誤解を払拭し、正しい知識を身につけてほしい」と続けます。

「真の健康」を体現する猫を、多くの人に見てほしい

それぞれの立場から、「猫のためのより良い世界」を目指して活動を続ける3者。

2022年9月11日には、ロイヤルカナン ジャポンが、CFA、TICAと協働して、東京・池袋にて第2回目となる「JAPAN CAT SHOW 2022」を開催しました。2019年の初回以来、長い自粛を経て、約3年ぶりの開催です。

体にふれながら、毛並みや毛艶、目の輝きなどを審査していく。
体にふれながら、毛並みや毛艶、目の輝きなどを審査していく。
Image: JAPAN CAT SHOW 2022

会場には1,300名近い来場者が集い、2,500名以上がオンライン視聴しました。また、CFAとTICAの各キャットショー会場では、それぞれのショーキャットが6つのリンクで、異なる審査員から評価を得ます。出陳した約200頭の猫が美しさを競う様子を、多くの来場者が見守ります。

他にも、会場内にはフードの知識を深めるブースや、企業のペット用品を扱うブースのほか、獣医師など猫の専門家によるセミナーも行なわれました。

イベントで、キャットショーの楽しみ方を紹介する早田さん。
イベントで、キャットショーの楽しみ方を紹介する早田さん。
Image: JAPAN CAT SHOW 2022

このキャットショー開催の目的として、「多くの人に、猫の『真の健康』について知る機会を提供したかった」と山本社長。

我々はよく、猫の「真の健康」という言葉を用います。「病気じゃないから健康」というのではなく、毛並みや毛艶、身のこなし、目の輝きといった、その子が持つ本来の美しさがあらわれている状態が「真の健康」と言えるのです。

また、猫には約60の種類があり、その数だけ個性と美しさがあるということを、1人でも多くの方に知っていただきたいのです。(山本社長)

このイベントのような機会を設けるとともに、ロイヤルカナンは「猫(犬)の真の健康を育む5つの意識と行動」を提唱し、啓発活動に努めています。

1. 猫は人とは異なる動物であり、種類や個体によって身体的特徴、性格、行動(癖)が違うことを理解して接する。

2. 品種・年齢・身体サイズ・ライフスタイル・健康状態により栄養ニーズが異なることを理解し、適切な量の最適なフードを与える。

3. 猫は言葉を話せず、体調不良を隠す習性もあるため、日常的によく「観察」し、変化に対して適切な対応をとる。

4. 猫は人の4倍以上の速さで歳を取ることを理解し、定期的に健康診断を受けさせる(年2回を推奨)。

5. 栄養や健康に関する正しい知識を持つ専門家に、日常的に相談して適切なアドバイスを得る。

業界全体が持続的に成長する「互恵の経済学」

種類、年齢、身体のサイズ、ライフスタイルも違う猫や犬の栄養ニーズをきめ細やかに満たし、猫と犬に「真の健康」を提供するというのが、ロイヤルカナンのパーパス(存在意義)

これを実現するために、ロイヤルカナンが掲げているのが「互恵の経済学」という考え方です。

これは、ロイヤルカナンの属するマース グループとオックスフォード大学の経営大学院が共同開発したビジネスモデル。

ロイヤルカナンについて言えば、自社の財務利益のみを追求するのではなく、猫と犬を取り巻くすべてのパートナー(団体、獣医師、ブリーダー、ペットショップなど)が相互に恩恵を得られ、そしてそれがひいては猫と犬の「真の健康」の実現につながるよう自社の活動を再構築していこうとするものです。

たとえば、ロイヤルカナンでは猫や犬の定期的な「健康診断」の啓発を行なっています。

獣医師は、純粋に猫や犬が好きで獣医療に携わっている方がほとんどです。具合が悪いからとペットオーナーが猫を病院に連れてきたときにはもう手遅れで助からなかった場合、悲しいのはペットオーナーだけではありません。猫や犬を救えなかった獣医師も、心に大きな痛みを受けるのです。

健康診断が浸透すれば、獣医師は体質改善や病気の予防についてのアドバイス、対応ができます。その子の健康状態にあった食事療法食を選んであげられます。そうすることで、ペットオーナーはもちろん、獣医師自身もつらい思いをすることが避けられます。

そして何より、その結果、猫の健康寿命を延伸することができるのです。

このように、健康診断の啓発という私たちの活動は、ペットオーナーと獣医師の精神的なストレスを減らすことにつながり、そしてさらには猫の「真の健康」の実現につながるわけです。(山本社長)

今回のイベントで2団体と協働したのも、「ショーブリーダーの皆さまが、私たちの提唱する『真の健康を育む5つの意識と行動』を実行し、熱い思いを注いで素晴らしい猫を生み出していることを、来場者をはじめ、多くの人に知って欲しかった。そしてそのことで、キャットショーとショーを運営する団体の皆さんの認知度が上がり、ショーが持続的に成長していく土壌になればいいと考えました」と山本社長。

今後も、このイベントを通じて、関連団体と協働していきたいと考えているそうです。

「業界全体で、というのは私たちも同じ思いです」と石邑さん。世界屈指の2大血統書登録団体が、一緒にキャットショーをすることは本国アメリカでも実現していないとのこと。

「何かを変えたいと思うとき、その声は大きいほうがいい。猫の魅力を知ってもらうために2大団体が手をとることで、真のキャットショーになる。そんな可能性を感じました」と早田さんも同調します。

すべては、かけがえのないペットのために

私たちの暮らしに、かけがえのない癒やしと豊かさをもたらしてくれる「ペット」。

「その存在の大きさは、飼えばすぐにわかりますよ。ペットを迎えて毎日が豊かになる人と、そんな人に大切にされる猫。その両方が増えることは、本当に素晴らしいことです」と山本社長。

また、「ペットは家族です。使う言葉は違っても、顔でものを訴えるし、私がふさいでいると寄り添ってくれるし、通じるものがあります。猫を飼おうかと思ったら、最期まで一緒にいるという覚悟で迎えてほしい」と話すのは石邑さん。長いブリーダー経験を持つ石邑さんならではの言葉には説得力があります。

アニマルセラピーに力を入れている早田さんは、「猫や犬が持つ、人を癒やす効果には、言葉では表現できないものがある」と言います。

猫や犬に癒やしを求める気持ちは、とてもよくわかります。しかし、苦しいときに頼ったペットに対し、「アレルギーが出た」「引越し先がペット不可」などという安易な理由で手放す人がいるのは悲しいです。心変わりをするのは人間だけ。それでもペットは飼い主を愛し続けます。

人間が「家から出てはいけない。狩猟本能を忘れなさい」と家猫をつくったのですから、その責任を果たすためにも、私たちは愛情をもって接し続けなければいけませんね。(早田さん)

すべては犬と猫のために(Dog & Cat First)」を掲げ、栄養学に基づいて一頭一頭の犬と猫に「真の健康」を届ける「ロイヤルカナン」。私たちも今一度、ペットの「真の健康」について考えてみたいものです。

Source: 1, 2, 3 /Photo: 鈴木真弓