『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』(仲野佑希 著、宮田宏美、ダークパターンJP編集部 監修、翔泳社)は、消費者のスキをついて、お金、時間、個人情報をかすめとる手法である「ダークパターン」を取り上げた書籍。
デジタルマーケティングの世界で使われてきた“欺瞞的なデザイン”に焦点を当てたもので、消費者ではなく「サービスを売る側」をターゲットにしているようです。
いうまでもなく企業は、ライバルに打ち勝つべく多様なマーケティングアイデアを試しています。
そのため数字や結果を意識しなければならないわけですが、それは経営者だけではなく、現場のクリエイターたちも同じ。それぞれの責任を果たすために、さまざまなプレッシャーと戦っているわけです。
しかし問題は、プレッシャーが大きすぎると、力の使い方を間違えてしまうことがあるという事実。
私たち人間は、誰もが「ずる」をします。自分を「そこそこに正直な人間である」と考えている人も、自分が許容できる程度に、不正やごまかしをします。それは、経営者も、クリエイターもみな同じです。
まずは、ダークパターンの誘惑を自らの意志で断ち切ることが、相当に困難であることを認めなければなりません。
行動経済学者の言葉を借りるなら「ずるをするのは悪人だけではない」のです。誰もがダークパターンを使ってしまう可能性があるのです。(「はじめに」より)
だから、ダークパターンを学ぶ必要があるということ。ダークパターンを反面教師とすることで、自身のビジネスにさらなる説得力が加わるからです。またそれは、顧客の信頼を勝ち取る、考えうる限りの最短の方法でもあるとか。
本書の目的は、セールスマーケティングにおけるダークパターンに焦点を絞り、光をあてることです。そして、あなたの言葉やデザインが、画面の向こうにいる生活者にどのような影響を与えるのか、適切な認識を持ってもらうことです。(「はじめに」より)
しかし、そもそもダークパターンとはなんなのでしょうか? その問いに対する答えを、Chapter 1「ダークパターンとは何か」から抜き出してみたいと思います。
消費者を惑わせるWebサイト設計
ショッピングサイトを利用していると、気づかないうちに大量のメールマガジンに登録してしまっていたり、見覚えのないサービスにお金を支払っていたりと、思わぬ罠に引っかかることがあります。誰にでも、似たような経験があるのではないでしょうか?
ですから私たちは、そういったサイトの設計に少なからず欺瞞的(嘘ではないけれど、もはや嘘をついているも同然)な側面があることを知っています。
にもかかわらず、自分の見落としや、不親切な設計にわざわざクレームを入れる労力を考えると、多くの場合は「まぁいいか…」と諦めてしまったりするわけです。
そんななか、2021年3月の日本経済新聞が「国内の主要ウェブサイトの6割でダークパターンが確認された」と報じたそう。
そしてこれを皮切りに、オンラインメディアやテレビ・ラジオ番組でもダークパターンが少しずつ取り上げられるようになったといいます。こうした流れのなかで消費者がこれまで以上にダークパターンを認識するようになれば、企業による欺瞞的なサイト設計にはより厳しい目が向けられるようになるに違いありません。(12ページより)
ダークパターン、その定義
著者によれば、ユーザーエクスペリエンスの専門家で、認知科学の博士号を持つイギリス出身のハリー・ブリグナル氏によってダークパターンの概念が初めて紹介されたのは2010年のこと。氏はダークパターンを次のように定義しているそうです。
“ダークパターンとは、ユーザーを騙して何かを購入させたり、登録させたりするなど、意図しないことを実行させる、Webサイトやアプリで使われているトリックのこと”
(筆者訳)――ハリー・ブリグナルdarkpatterns.org(15ページより)
つまりダークパターンは、ユーザーを騙し、「通常であれば取らないであろう行動」をさせるユーザーインターフェイス(ユーザーとシステムの“接点”)だということ。たとえばオンラインで商品を購入する際のボタンや入力フォーム、リンクテキストなど、画面を操作するときに使う要素がそれにあたるわけです。
ユーザーを欺くインターフェイスであるダークパターンはいくつかのカテゴリーに分類できますが、共通しているのは、どれもユーザー(消費者)に対して次の3つのいずれかを行うように設計されている点。
1. より多くのお金を支払わせる
2. より多くの個人情報を提供させる
3. より多くの時間を浪費させる
(17ページより)
もちろんデザインの現場には多くの場合、デザインの「設計者」とは別に「発注者」が存在します。したがってダークパターンの作り手は、単にクライアントの意向をデザインに反映しているに過ぎないのかもしれません。その欺瞞性に無自覚な場合もあるわけです。
そしてダークパターンをダークパターンたらしめているのは、「その利益の享受者は誰か」という点。ダークパターンは常に、ビジネス側にのみ利益をもたらすのです。
なおここでは、2019年にコンピュータサイエンス分野の国際学会ACMに掲載された、プリンストン大学のアルネシュ・マトゥール氏らによる論文が紹介されています。
これは、ブリグナルのダークパターンの定義をさらに一歩推し進めているというのです。
“ダークパターンとは、ユーザーが意図していない、あるいは有害になり得る意思決定をするように強制したり、操作したり、欺いたりすることによって、オンラインサービスの提供者に利益をもたらすユーザーインターフェースデザインの選択肢のこと”(筆者訳)(19ページより)
今後の議論の高まりにより、ダークパターンの定義は、分野ごとに細分化していく可能性があると著者は指摘しています。なぜならEコマースに限らず、ソーシャルメディア、AI、ビッグデータ、ゲーム(ゲーミフィケーション)など多くの分野に存在するダークパターンを、たったひとつの定義で捉えることは困難だからです。(16ページより)
たしかにそういう意味では、いまこそダークパターンを学んでおくタイミングなのかもしれません。そこで、ダークパターンについて知っておきたいことが簡潔にまとめられた本書を活用してみるべき。きっと、力になってくれることでしょう。
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Source: 翔泳社