『数字にだまされない本』(深沢真太郎、日経ビジネス人文庫/日本経済新聞出版)というタイトルを見て多少なりともドキッとしてしまうとしたら、それは数字に苦手意識を持っているからではないでしょうか(私自身がそうなので、皮膚感覚としてわかります)。
現実的に、私たちの周囲は数字であふれています。ですから、数字を読む機会も少なくありません。しかし、そこで私たちの前には「数字にだまされる」「数字に誤魔化される」という問題が立ちはだかるのだと著者は指摘しています。
ごまかされてしまうのは、「数字を正しく読む技術」を持っていないからなのだとか。と聞くと難しそうにも思えますが、その技術とは、究極的には次の2つしかないそう。
① 数字そのものを読む技術
② 数字を示す人の心理を読む技術
(「はじめに」より)
そこで本書では、この2つの技術について解説しているのです。
数字にだまされなくなれば、当然のことながら間違いや失敗は激減していくことでしょう。なお、ここでいう「だまされる」とは「間違える」ということ。社会を正しく見据えることができなかったり、仕事の大切な場面において意思決定を誤ったりすることがそれにあたるわけです。
ちなみに過去にも著作をご紹介したことがありますが、著者は「ビジネス数学教育家」として活動する人材育成の専門家。つまり本書には、「数字に強い人材・組織をつくる教育」であるビジネス数学のバックグラウンドがあるわけです。
きょうは第1章「数字を正しく読む技術[基礎編]」のなかから、興味深いトピックを抜き出してみたいと思います。
「顧客満足度90%」はちっともスゴくない
「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」というようなフレーズを、テレビCMや広告などで目にする機会は多いはず。その結果、「たくさんの人に支持されている商品なんだな」と感じられるかもしれません。
しかし著者は、「それは本当に評価すべき内容なのか」と疑問を投げかけたうえで、「自分なら、それだけではいいとも悪いとも評価はできない」とも述べています。なぜなら、もとの数をどう定義したかが明らかではないから。
この「90%」とは割合と呼ばれる数字です。たとえば100人のうち男性が90人ならば男性の割合が90%」と表現するものであり、この100人を「もとの数」と表現します。
ここで問題になるのは、もとの数が10人で、うち9人が男性でも同じように「男性の割合が90%」と表現できることです。(18〜19ページより)
上記の顧客満足度の例でいえば、「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」というフレーズだけでは、もとの数がいくつなのかわからないわけです。端的にいえば、「10人のうちの9人」なのか、「100人のうちの90人」なのか、はたまた「1億人のうちの9000万人」なのかによって「90%」という数字の意味が変わってくるということ。
10人のうちの9人なのであれば、「たまたまじゃないの?」と指摘することも可能でしょう。しかし1億人のうちの9000万人だとしたら、日本の人口に近い数ですから「たしかに多くの人が満足している製品」であると位置づけてもいいかもしれません。
アンケートの対象者は誰か?
また、違った視点からこの90%という数字にツッコミを入れることも可能だそう。そのことを示すために、ここで著者は次の2つの場合を例示しています。
A 超優良顧客(たとえば年間利用額の上位10人)にアンケートをとった結果
B 一度でも利用経験のある顧客からランダムに10人選び、アンケートをとった結果(20ページより)
Aの場合、「顧客満足度90%」はある意味で当然の結果です。なにしろ超優良顧客なのですから、100%でないことのほうが問題だと解釈することすらできるでしょう。
そういう意味では、ここでの「顧客満足度90%」は、ポジティブな結果というよりはネガティブな意味づけをするべきものになるとも考えることができます。したがって、満足と答えなかった1名の理由を把握することが、とても大きな意味を持つことになります。
対してBの場合は、アンケートの対象者に偏りがありません。ですからこちらのほうが顧客満足度の信憑性は高くなり、評価もポジティブなものになるわけです。
このように、「90%」という数字それ自体はひとつのことを表現していますが、その意味は無限に存在します。正しい意味づけをするために、「%」という数字を見たときには、もとの数を明らかにすることが必要です。(20〜21ページより)
これは意識しておきたいポイントです。(20ページより)
数字の定義を聞き出そう
こうした理由から、テレビCMや街中で目にする「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」といった広告表現を、著者はほぼ信じていないのだといいます。
「ウソをついている」とか「だまそうとしている」などといいたいわけではなく、「その数字だけでは評価のしようがない」ということ。
冷静に考えれば、これは真っ当な考え方だといえるのではないでしょうか? だからこそ、著者はこうもいうのです。
あなたがこれから実際に「当社の製品は、顧客満足度がなんと90%!」といった説明を受ける場面があったら、迷わず次の指摘をすることをおすすめします。
「その満足度という数字の定義を教えてください」(21〜22ページより)
この問いを投げかけられた側は、「どんな人に、何人に対して調査をし、どんな手法で測定した数字なのか」を説明することになるため、“数字の正体”を明らかにせざるを得ないわけです。
つまり、その数字がなんらかの作為的なものであったとしても、この段階で正しく情報を引き出して評価すれば、数字にだまされずにすむのです。(21ページより)
数字にだまされてしまうと、恥ずかしい思いをしたり、上司や同僚からの評価を下げてしまうなど、マイナス要素が多くなってしまうはず。だからこそ、本書を参考にしながら「数字に騙されないスキル」を身につけておくべきかもしれません。
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Source: 日本経済新聞出版