私たちは「自分は何にも依存しておらず、自分で自分をコントロールできている」という幻想を抱いています。
しかし、実はさまざまな心理的トリックを使って他人を操ることができます。
そして、広告・マーケティング業界全体は、この心理的トリックのうえに成り立っているのです。
ですから、ちょっとしたマインドコントロールで物事を思いどおりにできても当然ですが、心理的トリックを深堀していくと、多くの疑似科学や怪しげな主張に遭遇するのも事実。
しかし、すぐに他人の心をコントロールしたり、催眠術で人を思い通りに操ることはできないにしても、実際に効果があり、科学的な証拠に裏付けられた心理的トリックは存在します。
日常生活で少しだけ有利に物事を運びたいと思うなら、以下にご紹介する心理的トリックを活用してみてください。実際に効果がありますよ。
目次
1. 相手に「借り」ができたと思わせる
誰かに何かをさせようとして抵抗されたら、まずこちらが相手に何かをしてあげることで、相手がこちらに「借り」ができたと感じさせることも1つの方法です。
これは、「返報性の原理」と呼ばれるもので、基本的に人は相手から受けた好意に報いなければならないと感じる性質があります。
たとえば、信号待ちをしているときにフロントガラスを掃除してくれた人がいて、その人がチップを要求してきたとします。
そうすると、こちらはフロントガラスの掃除を頼んだわけではありませんが「掃除してもらったら、お返しをしなければならない」というプレッシャーを感じてしまうのです。
このような「貸し」をつくるには、さまざまな方法があります。
レストランで給仕が請求書に個人的なメモを書き込むのは、好意という「貸し」をつくり、より多くのチップをもらうためです。
企業が商品やサービスの試用を無料で提供するのも、一度そうしたサービスや商品を使った人は「借り」ができたと感じて、キャンセルや返品をしにくくなることがわかっているからです。
ですから、誰かに何かをしてもらいたいのに相手が気乗りしていないと感じたら、先にこちらが何かしてあげると、成功する確率が高くなります。
2. ミラーリング
そう、「The Office」でAndy Bernardが使っていたのは、科学的な裏付けがある正当な心理的トリックです。
「パーソナリティ・ミラーリング」または「カメレオン効果」とは、人間が無意識のうちに周囲の人たちの姿勢や態度、その他の行動を真似してしまうことを言います。
ある行動を観察している人は、その人自身もその行動を真似る可能性が高まるという「知覚と行動のリンク」と呼ばれる現象があるため、私たちは皆、このような行動を取る傾向があります。
このことを利用して、影響を与えたい人の物腰や行動を意識的にミラーリングしてみましょう。
すると、相手の信頼感が増し、こちらは権威があり信頼できる人物に見えてきます。
ミラーリングにより、相手はこちらを見ていると自分自身を見ているような気がするからです。
3. 譲歩的要請法
誰かに何かをさせたいときは、Door in The Face(DITF)テクニックを試してみましょう。
まず相手に、こちらが本当に望んでいることよりもずっと難しいことや、とんでもないことを頼みます(相手は間違いなく拒否するでしょう)。
そしてそのあとに、ぐっと難易度が低い本当の望みを話します。
すると、相手が引き受けてくれる確率がぐっと高くなります。
これがDITF(このテクニックの名前は、強引なセールスマンに対して世間はドアをバタンと閉めるというコンセプトに由来します)で、前述の「返報性の原理」を軸にしています。
こちらが要求を下げると、相手はそれは無意識のうちに譲歩と認識し、「借り」が生じます。
そして、こちらの「難易度を下げた」要求に同意することで、その「借り」を帳消しにしたいという強い衝動に駆られます。
4. 反復バイアス
誰かに何かを納得してもらいたいとき、もっとも強力な心理的トリックの1つが「反復バイアス」と呼ばれるものです。
基本的に、どのような発言も、それが繰り返されるほど、正当だと思ったり真実だと思ってしまいます。
つまり、明らかに嘘や不正確な情報であっても、繰り返せば繰り返すほど、人はその言葉を信じるようになります。
これは「真実性の錯覚」と呼ばれるもので、ここ数年、事実に基づく情報にアクセスできる膨大な数の人々に対しても、この効果がどれほど強力になり得るかが明らかになっています。
ですから、次に誰かを説得する必要があるときは、ひたすら繰り返して言えば、やがて相手は疲れて根負けするはずです。
5. 希少性をほのめかす
希少性の原理は、日常的に遭遇するわかりやすい心理的トリックのもっとも一般的な例の1つです。
時間や数に限りがあることを約束する広告は、希少性の効果を利用しています。
この仕組みは簡単に理解できます。
人は、希少性が高いものに価値を見出す傾向があります。
ある機会が短期間しか存在しない、あるいは供給が限られていると言われると、逃すことへの恐怖(FOMO)に囚われ、ほとんど本能的にその恐怖を避けたくなります。
この心理的トリックは製品のマーケティングにもっとも有効ですが、別のことにも使えます。
例えば、誰かと一緒に過ごしたいとき、「スケジュールが混んでいてこの日時以外では難しい」とほのめかすことで、相手をその気にさせることができます。
6. 自信ありげに堂々と話す
話すときは語彙の選択に気を配ることで、相手にどのように受け取られるか、そして、相手がどれだけこちらが望む通りに動いてくれるかが決まります。
私たちは話すときに、「~と思います」とか「100%の確信はありませんが...」といった言葉を使って、無意識に「ヘッジ」をかけていることがあるかと思います。
しかし、これは相手にこちらの話を疑う余地を与えてしまい、信頼できない人間だと思わせてしまうのです。
一方、「私にはわかっています」とか「私には確信があります」などの自信に満ちた表現を使うと、たとえ話す内容は同じでも、こちらの主張を権威あるものに感じさせることができます。
つまり、発言に疑わしいところがあっても、自信ありげに堂々と発言すると、信用される傾向が強くなります。
7. 相手に名前で呼びかけながら話す
相手の注意が自分から逸れていると感じるときや、周りで何が起こっていてもこちらの話に集中していて欲しいときは、会話をしながら相手に名前で呼びかけましょう。
自分の名前を聞くことで「カクテルパーティー効果」が発揮されることが科学的に実証されています。
人間は何か関心を引くことを耳にすると、本能的にほかのすべての刺激を排除してしまう性質があり、自分の名前を耳にするとこの効果が見事に発揮されます。
そのため、営業担当者は通常、相手の名前を頻繁に繰り返しながら売り込みをするように訓練されているのです。
この簡単なテクニックを使えば、こちらが話している間、相手はこちらに注意を払い、関心を寄せていると感じるでしょう。
相手は、なぜその会話をこんなによく覚えているのか、こちらが話している間、部屋にいる他の人たちになぜ気がつかなかったのか、まるでわからないかもしれません。
8. たびたび顔を合わせる
誰かと信頼関係を築こうとするときは、「親近感」を利用すると、相手を信用させることができます。
親近感とは、いつも見慣れている人に対する親しみの感情のことで、相手の生活の中に「存在」していればいるほど、相手は親しみを感じ、信頼する可能性が高くなります。
例えば、ある授業で4人の女性が生徒を装うという実験が行われました。
彼女たちはほかの生徒と一切交流することなく、ただ授業に出席しただけです。4人が出席した回数はそれぞれ異なります。
その後、学期末に他の生徒たちに写真を見せて意見を聞いたところ、もっとも多く授業に出席した女性、つまりもっとも「存在」していた女性は、誰とも話をしていないにもかかわらず、他の3人より高いレベルの親近感を感じさせました。
9. 他人を褒めるとその褒め言葉が自分に返ってくる
もっとも巧妙な心理的トリックの1つに、「自発的特性転移」があります。
一言で言えば、他人に対して使う形容詞で自分も周囲から見られる傾向があるということです。
ですから、もし誰かに自分を賢いと思ってもらいたければ、他人を賢いと褒めましょう。
自信に満ちていると思われたいなら、あるいは魅力的だと思われたいなら、他人をそのような言葉を使って褒めてください。
そのうちに、他人を褒めた言葉そのもので自分も褒められるようになります。
同じことはネガティブな形でも効果を発揮することに留意しましょう。
毎日他人を侮辱しながら不機嫌に過ごしていると、自分も周囲から非常に否定的に見られることになるかもしれません。
10. さりげなく相手の身体に触る
誰かに影響を与えたいときは、サブリミナルタッチを試してみましょう。
サブリミナルタッチとは、誰かとやり取りしているときに、さりげなく相手と触れ合うことです。
相手の腕や肩に軽く触れるだけで、相手は瞬時にこちらに好感を抱くことが分かっています。
このアドバイスは、デートや恋愛の文脈でよく耳にしますが、ポジティブな印象を与えたいときには、いつでも強力な心理的トリックとなります。
たとえば、ミシシッピ大学とロードス大学が行った研究によると、レストランでウェイトレスは客に軽く触れただけで、かなり多くのチップを受け取ったことがわかっています。
上記にご紹介した心理的トリックを使うと、有利に物事を運ぶことができます。ただし、他人も同じようなトリックを使っている可能性があります。
Source: Psychologist World, YouTube, Duke Fuqua, Program On Negotiation, Springer Open, Wired, Science Direct(1, 2), APA PsycNet, Sage Journals