Bean to Barと呼ばれる新ジャンルのチョコレート専門店Minimal - Bean to Bar Chocolate -(ミニマル)を日本でいち早く立ち上げ、チョコレート業界に旋風を巻き起こしている、株式会社βase代表取締役・山下貴嗣さん。

コンサルティング会社のマネージャー時代の経験から、Bean to Barスタイル・チョコレートとの出合い、そして出店までを語っていただいた前編に続き、今回は山下さんの仕事に対するパッションや働き方について伺いました。

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元コンサルマネージャーがチョコレート業界に起こした旋風。Minimal代表 山下貴嗣インタビュー | ライフハッカー[日本版]

元コンサルマネージャーがチョコレート業界に起こした旋風。Minimal代表 山下貴嗣インタビュー | ライフハッカー[日本版]

年に3000以上のレシピをつくり、おいしさを追求

──創業からブランドを維持し続けるには、大変なこともあったのでは?

Minimalの板チョコレートは1枚1500円前後で販売しています。コンビニで普通の板チョコが100円で買えるなかで、1500円の価値をお客様に感じていただくためには、チョコレートづくりの技術を磨き続けるしかないと思い、地道に取り組んできました。

カカオ豆は僕自身が毎年4カ月間かけて産地を訪れ、単に仕入れるだけでなく、農家と発酵や乾燥の具合まで相談しながら品質開発しています。経営者がこれほど長く産地に出向くメーカーはほとんどないと思いますが、産地に行ってこそ得られる情報や関係性は、チョコの品質を高める上で非常に大事です。

工房では年に3000以上のレシピをつくって、おいしさを探求しています。これだけ徹底的にこだわって初めて、お客様に少しだけ価値が伝わる。そういうものだと思っています。

コロナ禍では売上的に大ダメージを受けましたし、今は円安でカカオ豆の仕入れ値が上がって、正直大変なことばかりです。しかもチョコレートって販売の繁閑差がとても大きいんですよ。12月~3月で年間売上の7割程度を占めると言われており、夏場は売り上げがガタっと落ちる。

それでも僕らが生き残っているのは、今日より明日のチョコレートが少しでもおいしくなるように、一切手を抜かずに研鑽を積み重ねてきたからだと思っています。

産業構造を変化させることで未来を変えたい

──大変ななかでも事業を続けるパッションの源泉は?

創業メンバーとは、「こんなにしんどい事業、二度と立ち上げたくないね」ってよく話しています(笑)。

じゃあ、なぜこれまでやれてきたかというと、僕の個人的なパッションとして、産業構造の仕組みを解き明かして、新しい構造に変化させていくことが好きなんです。

どの国でも、歴史が積み重なってつくられた目に見えない構造、仕組みがあって、人はその中で動いています。そこにどんな変化を加えたら未来がより良くなるかを考えて、そこに自分がかかわることにパッションを感じるんです。

Minimalの仕事でいえば、たとえば、カカオ豆の産地の中には、発展途上国で貧困や児童労働の問題を抱えている地域もあります。

カカオ農家は長年続く商慣習で、先物市場で決められた価格相場で取引していますが、インターネットの発達で僕みたいな個人が直接農園に行けるようになり、相場より高い価格で取引することで、現地の経済や農家の人たちの暮らしに、何か変化を起こせるかもしれない

お客さまの選択肢という観点で言えば、これまで100円200円で買えるお菓子のチョコレートか、ヨーロッパから来た高級な「ショコラ」しか選べなかったところに、MinimalがBean to Barチョコレートという第三の選択肢を提供することで、新しい文化や楽しみ方が生まれるかもしれない。

そういう変化を起こした先の、未来のことを考えると、ワクワクするんです。

──経営者として今、目標にしていることは?

良いプロダクトをつくって新しい文化を生むためには、つくり手の人たちが幸せであることが大前提だと考えています。

今の僕の目標の1つは、チョコレートをつくる職人のみんなが経済的な報酬だけでなく、幸せを感じられる働き方を提供したり、やりがいや成長を感じられるキャリアをこの会社の中でつくっていくこと。

彼らが「この会社に入って良かった」とか「楽しい」「挑戦したい」と言ってくれることが、すごくうれしいですね。

カカオ豆のつくり手である農家の人たちにも、僕たちが相場より高い価格で取引し続けることで、安心して品質の良い豆をつくる環境を維持してもらえたらと思っています。

カカオ農家は正当な対価を得ながら高品質のカカオ豆をつくり、そのカカオを使って職人たちが一生懸命磨いた技術でチョコレートをつくり、それを食べたお客様が幸せを感じてくださる。

そんな「三方良し」の循環を回し続けて、チョコレートにかかわる人たちの豊かさを巡らせるエコシステムをつくっていくことが、僕の仕事のモチベーションですね。

6割考えたら走り出す。100点のやり方を見つけなくていい

──ここからは一問一答形式でお聞きします。いつも何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

朝は自宅で7時ごろから仕事開始。まずネットでニュースやメール、Slackなどをチェックします。

20時ごろに仕事を終え、そのあとは一人で行きつけのバーに行ったり家で飲むことが多いですね。

──愛用のデバイスや仕事道具は?

PCは家ではMac、常に持ち歩いているのは富士通のノートパソコン。スマホはiPhoneです。

考えやアイデアはアナログのメモ帳にメモします。手で書くことで頭の中を整理しています。ペン入れは土屋鞄のレザー。タンジブルな(手触り感のある)ものが好きですね。

──情報収集はどのように行なっていますか?

人に会って聞いたり、分野ごとにチェックしている人のSNSもよく見ています。ニュースは日経電子版、Yahoo!ニュース、海外メディアなどを巡回して見るようにしています。

あと、本が大好きです。スマホで読める電子書籍が基本ですが、腰を据えて読みたいものは紙の本を買って、付箋をはったり、線を引いたりしながら読み込みます。

──ビジネススキルを伸ばすために何をしていますか?

常に好奇心をもって、新しいことを自分から知りに行くこと。読書でも、詳しい人に話を聞くでもいい。自分で考えて、一歩踏み出すことが大事だと思います。

そのとき100点の方法を探すと足が止まってしまうので、6割考えたら踏み出し、走りながら考える。方向が違ってもそこで修正できるので、早くたどりつけます。

──余暇の過ごし方は?

もっぱらお酒を飲んでますね(笑)。あとは、おいしいものを食べること。最近、ソロキャンプをはじめて、炎を見ながらお酒を飲むってこんなに楽しいんだな、と知りました。本を片手にキャンプしてお酒を飲むって、最高です。

──心が折れたときはどうしていますか?

寝るか、諦めますね。自分に言い訳をして、それでいいんだよって自分を許してます(笑)。

──食生活で気をつけていることは何ですか? 好物は?

もともと食べることが大好きで、自分が食べたいもの、おいしいものを食べることを意識しています。コンビニ弁当やファストフードがダメというわけではありませんが、自分の体が本当に喜ぶものを食べたいと思っています。若いころより暴飲暴食は減りました。

──運動の習慣はありますか?

仕事が終わったあと、毎日1時間近所をジョギングしています。好きな音楽を聞きながら走ると気持ちよくて、ストレス発散にちょうどいい。2週間で6キロくらいやせました。

──これだけはやらない、と決めていることは?

煙草、ギャンブル。あとは、ズルをして儲けようとすること、ですかね。

──ビジネスを通じて目指しているゴールは?

将来に続いていく価値のあるものを、自分たちの力で生み出していけたらいいなと思います。

──ビジネスパーソンにおすすめの1冊は?

影響を受けた本がたくさんあるので、1冊には絞れないのですが、その中から3冊。

『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント 著、ダイヤモンド社)

論理的な思考法がわかるビジネスパーソンの必読書。若いころに読めと言われて、読んでおいて本当に良かったと思っています。

『God In A Cup: The Obsessive Quest for the Perfect Coffee』(Michaele Weissman 著、Harvest)

世界中で新しいスペシャリティコーヒーのムーブメントを起こしたドキュメンタリー。僕が今の仕事に飛び込むきっかけとなった、永遠のバイブルです。

『ジブリの哲学――変わるものと変わらないもの』(鈴木敏夫 著、岩波書店)

宮崎駿、高畑勲という天才のクリエイティビティを阻害することなく、ジブリを発展させた鈴木氏の考え方は、僕にとっても職人との向き合い方などで学ぶことが多いですね。

──座右の銘は?

これも複数ありますね。一つ目は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。母親に小さいころからずっと言われていて、今でも大事にしている言葉です。

次は「小さな完成品になるより、偉大なる未完成品として挑戦し続けろ」。前職の尊敬する上司に教えてもらった言葉です。小さな完成品で満足するのではなく、大きな理想を描いて偉大な未完成品として頑張ろうと力がわいてきます。

最後は、ありきたりかもしれませんが「努力は必ずしも結果につながらないかもしれないが、努力は必ず報われる」。たとえ結果に結びつかなかったとしても、努力が自分を裏切ることはないと思っています。過去に成果が出せなかった努力も、今の自分を支える筋力になるからです。

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元コンサルマネージャーがチョコレート業界に起こした旋風。Minimal代表 山下貴嗣インタビュー | ライフハッカー[日本版]

元コンサルマネージャーがチョコレート業界に起こした旋風。Minimal代表 山下貴嗣インタビュー | ライフハッカー[日本版]

山下貴嗣

1984年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学を卒業後、人事コンサルティング会社へ入社。30歳となる2014年に退社、株式会社βaseを設立し「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」を出店。現在は富ヶ谷と代々木上原に2店舗出店している。2017年には「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017」を受賞。

Source: Minimal - Bean to Bar Chocolate - / Photo: 伊藤圭