プレゼンやオリエンなど、人に何かを説明する場で「言葉選びがうまいなあ」と感心する人、たまに遭遇しますよね。もちろん、書くときの言葉選びも同様です。
同じものの話をしているのに、誰よりも魅力的に語れる…。そんな才能がある人はうらやましい限り。でも、そんな才能がなかったとしても、訓練で身につけることができるなら、試してみたいと思いませんか?
どうやったら、伝えたいことが相手に伝わるのか
ここに1本のバナナがあります。あなたの一言で「食べてみたくなるバナナ」にしてください。
こんな問題を出されたら、なんと回答すればいいでしょうか。形や産地、熟成の度合いなど、バナナのアピールポイントはたくさんあるはずなのに、言葉につまってしまいます。
こんな質問をいくつも投げかけてくるのが、増刷を重ねつづける『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』(かんき出版)です。
本書の著者は、編集者の柿内尚文さん。これまでに企画した本やムックの累計発行部数は1000万部を超え、10万部を超えるベストセラーは50冊以上に及びます。編集者として長年、ものを伝える仕事に携わる柿内さんですが、実は話すのも伝えるのも超苦手だったのだそう。ちょっと親近感が湧きますね。
柿内さんがこの本で伝えているのは、話を盛ったり、無理やりイエスを引き出したりするのではなく、「伝えたいことが相手にちゃんと伝わるための方法」。そのためには「伝わる構造」と「伝わる技術」が必要だそうです。
伝える前に意識したい「7階建て」の構造とは

「伝わる構造」を意識し、「伝わる技術」を使う。これだけ聞くと、ちょっとわかりにくいですね。
柿内さんは、伝わる構造のことを「7階建てのビル」の構造のようなものと考えているそうです。
1階「ゴール設定」
ゴールとは「何のために」ということ。売りたい、断りたい、いい人に見られたい、など、ゴールはいろいろ。何のために伝えたいのかを明確にします。
2階「納得感(理解する、腑に落ちる)」
納得感があって初めて生まれるのが「伝わる」。相手の納得感がないと、伝わったことにはなりません。
3階「相手ベース」
「伝えること(言うこと)」=「伝わること」ではありません。(中略)相手が理解し、腑に落ちていないならば、それは伝わったことにはなりません。伝えただけです。(中略)伝わる=相手が理解する、腑に落ちる、納得する。これは「相手ベース」ですね。
(『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』66ページ)
伝わってないなと感じたら、「何回も言ったのに」「聞いてなかったの?」と相手を責めるのではなく、表現を変えるといった伝わるための工夫をすることも「相手ベース」で考えることになります。
4階「見える化」
納得感を得るためには、相手の頭の中に「見える化」させることが大切と柿内さん。先ほどの「バナナ」の問題で考えれば、相手に自分がおいしく食べているシーンを思い浮かばせるのが「見える化」です。とくに五感を意識しながら伝えることがポイントだそうです。
5階「聞く力」
柿内さんの知り合いは、以下のように話してくれたそうです。
営業の仕事は、『自分たちの商品を売る』のではなく、『相手に必要な商品を紹介する』ことなんだよね。だから僕は、商品を売り込むことはしない。相手の話をとにかくよく聞いて、相手にとって自分たちの商品のどこに必要性があるのかを見つけ出すようにしている。
(『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』73ページ)
確かに「伝えたいことがちゃんと相手に伝わる」ためには、相手の話を聞いたりニーズをキャッチしたりすることも大切。はじめの「ゴール設定」から「見える化」にまで通じるのが、この「聞く」ことと言えるのかもしれません。
6階「親近感」
伝え方というと、「どう話すか」「どう伝えるか」というアウトプットに意識がいきがちですが、聞く力や親近感も「伝わる」の大切な要素です。
(『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』76ページ)
親近感を抱いてもらうためのコツは「共通点を見つける、相手に興味を示す、自分のダメさをさらけだす、笑顔」とのこと。
7階「信頼感」
いつも失敗している人に「たくさんの失敗が、成功を引き寄せます」と言われても、その言葉は心に入ってきません。
しかし「いま僕がしているたくさんの失敗は、将来、成功を引き寄せます」と言われたらどうでしょう。正直に自分が失敗していることをさらけ出してくれることがうれしいですし、がんばっているんだなと感じられて応援したいという気持ちも生まれてきますよね。
柿内さんは、以下の7つの要素が「信頼感」をつくると考えているそうです。すべて揃っていなくても、他の要素が強ければ信頼感が生まれることもあるとか。
【自分側】(1)「誠実さ、素直さ」(2)「スキル・能力」(3)結果・成果(4)接触頻度(5)モラル
【相手側】(6)「関心」(7)「意義・価値・動機」(『バナナの魅力を100文字で伝えてください 誰でも身につく36の伝わる法則』79ページ)
「伝わる」を意識することで、人間関係が円滑に
問題。ここに1本のバナナがあります。あなたの一言で「食べてみたくなるバナナ」にしてください。
どうでしょう。さっきよりも、何を伝えたいか、どうすれば伝わるかを意識できたのではないでしょうか。近々、誰かに考えを伝える場が控えていれば、ぜひ7つの構造に則って伝え方を変えてみるのもよさそうです。
ここで紹介したのは、本書のほんの一部。読んでいると、柿内さんの言葉選びに膝を打ったり、誠実で素直な一面に信頼感を抱いたりと、まさに書いてあることがそのままの「有言実行」であると感じます。
相手のことを思いやりながら、言葉を選び、話を聞いたりするうちに信頼関係が生まれる。本書を読んで感じたのは、「伝わる」技術は人間関係を円滑にするスキルでもあるということ。プレゼンや資料作成のときだけでなく、ふだんの返事1つにも応用できるのではないでしょうか。
はじめは「伝えたいことを伝えよう」と意識しながら言葉を選んでいたはずが、「最近やけに周囲との関係がうまくいくな」と気づく、なんてことも大いにあり得そうな気がします。
Source: かんき出版