連載「メタバースとリアル 消えゆく境界線」のインタビュー第2回となる今回からは、Metaverse Japan代表理事の馬渕邦美さんをファシリテーターに、キーパーソンの方々に「メタバースによって変わる未来」についてお聞きしていきます。

今回は、アーティストとしての経歴とブロックチェーン業界の知識を活かし、他業界の橋渡し役として活動するクリプト(NFT)アーティストでBlockchainPROseed、BluechipParty 共同創業者の絢斗優さんと、モバイルゲーム会社「gumi」の創業者で、現在はVR・ブロックチェーンゲーム会社「Thirdeverse」と、ブロックチェーン技術を利用したクラウドファンディング2.0「FiNANCiE」を提供する「フィナンシェ」の代表取締役CEOを務める國光宏尚さんに、Web3業界を取り巻く現状や今後の予測、ビジネスパーソンが時代の流れに取り残されないために必要なことなどを語ってもらいました。

「Meta Quest2」の2万円以上の値上げはVR普及に影響するのか

馬淵さん(以下、――) 最近のメタバース関連のニュースとして、「Meta Quest2」が2万円以上値上げされたことが話題になりました(従来は128GBが3万7,180円、256GBが4万9,280円だったが、8月以降は128GBが5万9,400円、256GB版が7万4,400円に値上げ)。SNSなどでは「VRをはじめるハードルが上がってしまう」といった意見も見かけますが、今回の値上げはVRやメタバースの普及に影響が出ると思いますか?

絢斗さん(以下、敬称略): 今のVRデバイスは大きくて重く、一般に普及する段階にはまだ達していません。スマホのように、本当に広く浸透するのは2世代くらい先の製品になるのではないでしょうか。それを考えると、現行モデルの値上げは長期的な影響はないと思います。

インターネットはスマートフォンの登場によって誰もが使うインフラになりましたが、XR(クロスリアリティ※)のデバイス業界には、iPhoneに相当するような製品がまだありません。そういったアイテムが登場したときにブレイクスルーが起きて、真のメタバース時代がはじまるのではないでしょうか。

※現実世界と仮想世界を融合することで現実にはないものを知覚できる技術の総称。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術はいずれもXRに含まれる

BlockchainPROseed/BluechipParty 共同創業者/CryptoArtistの絢斗優さん(アバター)
BlockchainPROseed/BluechipParty 共同創業者/CryptoArtistの絢斗優さん(アバター)

國光さん(以下、敬称略): 今回の値上げはアメリカのインフレや素材の値上げに加えて日本の円安が影響しているので、避けられないものだったと思っています。

僕はメタバースやWeb3の可能性を信じていますし、本当に可能性があるものなら値上げされたことで大きな影響を受けることはないと思っています。

ただ、海外との比較という点で考えると、アメリカではQuest2の値上げは100ドルなんですよね。それが日本だと円安の影響もあって2万円以上の値上げとなってしまう。これはとても大きいと思います。

同じ商品を買うのに日本だけ負担感が大きいということは、日本がどんどん貧しくなっていることを意味します。個人としても、このまま日本が衰退していく状況に飲み込まれるのか、そこから抜け出して世界で活躍できる人間になるのかという重要な分岐点にあると思います。

――Facebook Japanで執行役員を務めていた私から言わせていただくと、そもそも「Meta Quest2」は販売価格が意図的に安く抑えられていると考えています。Metaがグローバルマーケットで独占的なポジションを獲得するため、戦略的に安くしているということです。

デバイスの設計には特別なチームが組まれており、Facebookの技術の粋がつぎ込まれています。それが値上げしたとはいえ5~7万円というのは破格です。今回の価格改定は、世界的な半導体不足と為替の影響で、やむをえなかっただけの話と見ています。

日本のパスポートを持つ「地球人」になるかどうか

——日本の衰退というところでは、Web3関連のベンチャーが日本の法規制の下では事業ができないために海外に出て行くケースが増えているといわれています。このまま優秀で才能のある人材がどんどん海外に流れていってしまうのでしょうか?

絢斗: 私の周囲で海外に出て行く人たちを見ていると、大きく2種類に分けられると感じています。一方は“海外に行ったものの、結局日本人コミュニティの中にいる人”、もう一方は“現地のコミュニティに溶け込んでいける人”です。

そのどちらになるかは、その人の性格や適応力によるところも大きいのですが、英語ネイティブのコミュニティに自然に溶け込める人でないと、海外で仕事をする意味は薄くなってしまいます。

海外に住んでいるだけの日本人になるのか、「日本のパスポートを持っている地球人」になるのかという視点で考えて、地球人になる気がないのであれば、別に海外に行く必要はないと思います。

國光: 法規制に関していえば、日本ではできないことがたくさんあるのは事実です。とはいえ、日本国内でスタートアップを作って成功するだけでも大変なことなのに、海外で挑戦して成功するとなると、そのハードルはより高くなると思うんですよね。

そういった意味では、若い人たちが日本でしっかり起業できるような規制改革などの体制づくりを進めることが急務かなと考えています。

——日本の国家戦略としてWeb3を推進する動きもありますが、これは法改正などの面で期待できるのでしょうか?

絢斗: 現在の日本の税制・法制度ではWeb3関連の事業をやるのが事実上不可能なので、政府の中でこれらの制約を撤廃する気運が高まってきたのはとても喜ばしいことだと思っています。

ただし、Web3を強く推し進めているのは、国境に縛られない世界中の人々をつないだネットワークです。仮に日本発のWeb3関連プロジェクトが増えたとしても、必然的にその拠点は世界中に分散することになります。

この分散性が仇となって、日本円経済圏から海外への資本移動が進んでしまっては本末転倒になりかねません。

また、日本国内だけで制度化が進んでも、海外の規制と整合性が取れなくなってしまえば、かえってその規制が足かせとなる危険性もあります。なので、世界の環境の変化と歩調を合わせていくことが重要と考えています。

國光: Web3は、今後の日本の成長にとって重要なパラダイムだと考えています。残念ながら現在の日本ではWeb3のビジネスを推進していく上で多くの規制が障壁になっているので、Web3を国家戦略として大胆な規制改革として取り組んでいくことは非常に重要であり、期待もしています。

普及のためにはキラーコンテンツが必要

——メタバースもWeb3もまだまだこれからだと思いますが、今後世の中に広く受け入れられて浸透していくためには何が必要なのでしょうか?

國光: 多くの人にとってわかりやすいキラーコンテンツが出てくることが重要だと考えています。VRに関してはハードウェアが出そろいつつあるので、その中で本当に面白いコンテンツが出てくるかどうかがポイントになってくるでしょう。

一方でWeb3については、NFTにせよ、ブロックチェーン技術を使った金融システムのDeFi(分散型金融)にせよ、現状で解決すべき課題が山積しています。

それぞれの直面する課題を解決した次世代型のNFTや次世代型のDeFiで、ユーザーにとってのキラーユースケース(Web3で何ができるかを分かりやすく理解できる事例)が出てくるかが重要になると感じています。

絢斗:現時点ではWeb3に対して否定的な意見も見られますが、新しい技術というのは常に拒絶反応を受ける宿命にあると思っています。

iPhoneが初めて発表された2007年、世界のほとんどの人はスマホに懐疑的で、「オタクのおもちゃ」と揶揄されましたが、現在ではスマホを一切使わない人はほとんどいないでしょう。

それと同じで、Web3ウォレットを使うユーザーが過半数になる頃には、Web3否定派の声は自然と消滅すると考えています。

「自分ごと化」して体験してみることが大切

——ビジネスパーソンがこれからメタバースやWeb3について学びたいと思ったときは、まず何をするのがよいのでしょうか?

國光: 「自分ごと化」してみるといいと思います。メタバースであれば、まずはVRゲームを実際にやってみることをおすすめします。

『Beat Saber』や『ウォーキング・デッド』などのヒット作や、私の会社で8月にリリースした『ALTAIR BREAKER』などを実際に遊んでみることで、知識だけではわからなかったことも実感できるはずです。

8月19日にリリースされたVRゲーム『ALTAIR BREAKER』
8月19日にリリースされたVRゲーム『ALTAIR BREAKER』

また、Web3で何か試してみたければ、時価総額上位で、比較的安定しているFTやNFTを超少額でもいいのでいくつか買ってみて、日々の値段の動きを見てみるのもいいのではないでしょうか。なぜ上がったのだろう、下がったのだろうと考えてみることで、理解が深まると思います。

絢斗: 自分ごと化は重要ですよね。私自身、ユーザーが自分でコンテンツを作ることができるプラットフォームは一通り試しています。実際に手を動かして体験してみることで、使い勝手や運営のスタンスなども見えてきます。

また、Web3に関してはカンファレンスに足を運んで、そのときの流行を知ることも役立つと思います。

——Web3やメタバースの時代になっていくことは、個人のキャリアにどんな影響を与えますか? 取り残されないためのアドバイスをお願いします。

絢斗: Web2の時代には、仕事などで少人数のチームで動くことがやりやすくなりました。たとえばYouTuberも、多くの場合は少数精鋭のチームで運営されていると思います。

ここにWeb3が入ることで、お金の透明性が生まれます。報酬の支払いに暗号資産(仮想通貨)を使えば、誰がいくらもらっているかの配分をクリアにできるようになるのです。

複数の企業が集まってプロジェクトを進めることもやりやすくなりますし、マルチキャリアとも相性がいいと感じています。

國光: これはビジネスパーソンに限った話ではありませんが、爆発的に成長しているマーケットや企業に身を置くことで、自身も爆発的に成長することができると考えています。

2007年から続いたWeb2の時代は、スマホ、ソーシャル、クラウドが牽引してきました。これが成熟期に入り、ここから新しい大きな波が起きようとしています。その中心がメタバース、Web3、AIの3つであることは間違いないと思っています。

もし、今後転職などを考えているのであれば、そういったフィールドを選ぶのがよいのではないでしょうか。

絢斗優(あやと・ゆう)

絢斗優(あやと・ゆう)

BlockchainPROseed/BluechipParty 共同創業者/CryptoArtist

アーティストの経歴とブロックチェーン業界の知識を活かし、多業界の橋渡し役として活動。2019年、Blockchain PROseed、チャリティープラットフォーム「KIZUNA」に参加。日本最古のNFTカンファレンス「NonFungible Tokyo」の事務局を務める。クリプトアーティストとして自身の作品を創る一方、NFT投資家としても積極的にコミュニティ育成のために活動。日本初のBAYCホルダーmeetupなどを主催するBluechipPartyJapan共同創業者。

國光宏尚(くにみつ・ひろなお)

國光宏尚(くにみつ・ひろなお)

Thirdeverse代表取締役CEO / フィナンシェ代表取締役CEO

1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業。2004年に株式会社アットムービーに入社。同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュース及び新規事業の立ち上げを担当。2007年に株式会社gumiを設立し、代表取締役社長に就任。2021年に同社を退任し、VRゲームを手がける株式会社Thirdverse代表取締役CEOおよび、ブロックチェーン技術を利用したNFT事業やクラウドファンディング事業を行う株式会社フィナンシェ代表取締役CEOに就任。gumi cryptos capital Managing Partnerも務める。

馬渕邦美(まぶち・くによし)

馬渕邦美(まぶち・くによし)

wCコンサルティング合同会社 Partner 執行役員

2009年広告代理店グループのオムニコムのデジタル・エージェンシーTribal DDB Tokyo ジェネラル・マネージャー就任。2012年WPPグループの広告代理店オグルヴィ・ワン・ジャパン株式会社ネオ・アット・オグルヴィ株式会社の代表取締役就任。 2016年オムニコム・グループのエージェンシーであるフライシュマン・ヒラード SVP&Partner。2018年Facebook Japan Director / 執行役員。2020年よりPwC Japan マネージング・ディレクター就任。

Source: Meta Quest2