スキンケア、脱毛、メンズメイク…男性も美容にコストをかける時代になりました。しかし、「ただ見た目がよければいい」ということではありません。
「身だしなみ」や「メンテナンス」の大切さ、あるいは「姿勢」や「所作」なども含めたトータルとしての見た目、いわば「人として美しく在る」ことは、人の心をつかむ人間的な魅力につながります。
この「美しく生きる。」特集では、ビジネスパーソンとして、また人として魅力的であるために必要な知識やノウハウ、ストーリーをご紹介します。
今回は、前編に引き続き、世代・トレンド評論家の牛窪 恵さんにインタビュー。人の魅力が多様化するなかで、牛窪さんが考える令和のビジネスパーソンが備えておくべき「モテ」の要素について、教えていただきました。
▼前編はこちら
3高から「3平」へ。ほどほどがモテる時代に
前編では、1990年代から2000年代にジャニーズやお笑い芸人が「モテ」の多様化を後押ししたことを紹介しましたが、同時期に社会・経済の世界でも求められる人材像に大きな変化が生まれていました。
1990年代半ばまでにバブルがはじけ、「大企業に勤めているから大丈夫」という終身雇用の安心を得られなくなった2000年代からは、普及したインターネットを武器にしてIT系の経営者が増えた時代。女優やモデルがIT起業家と結婚するというニュースが飛び交いましたね。
しかし、あっという間のITバブル崩壊や2006年のライブドアショック、2008年のリーマンショックをきっかけに、牛窪さんが「草食系」と呼んだような節約思考や現実思考を持つ男性が増えていきます。
一方、女性はといえば、1990年代半ばに短大進学率と4年制大学進学率が逆転し、90年代後半には「(男女雇用機会)均等法」が改正され、女性の社会進出が一気に進みました。
このころ、共働き家庭が専業主婦家庭の割合を上回り、2010年には「イクメン」という言葉も新語・流行語大賞のトップ10に選ばれたのです。
高学歴、高収入、高身長の3拍子が揃った「3高」がもてはやされた1980年代から90年代初頭のバブル経済期に対し、2000年代のモテの条件として、2012年ぐらいから牛窪さんがよく使っていたのが「3平」というワード。平均的な収入で、平穏な性格で、平凡な容姿がちょうどいいという概念です。
バブル期、専業主婦だった女性は夫の海外赴任についていくこともできましたが、自分も仕事を持つと、なかなかそうはいきません。転勤や残業、接待三昧で出世を目指す夫よりも、家事や育児のサポートを厭わずマンションの組合の会合に出てくれるような、穏やかで女性的な視点を持ち、浮気しそうにない優しい男性がモテ始めたのです。(牛窪さん談、以下同)
仕事で信頼され、取引先から指名されるのも「モテ」
そして令和の時代。女性からだけでなく男友達からも親しまれて、「また一緒に仕事をしたい」と指名を受けるような人も、ビジネスにおいてモテる人。そうあるために必要な要素を教えていただきました。
1. かわいげ
すべてが完璧な人よりも、ちょっとドジな一面を持っていたり、わからないことも正直に打ち明けて「ちょっと教えてもらえるかな」とへりくだったりできるようなかわいげのある人。いわゆる「人たらし」ですね。
2. 清潔感
若い女性が考える「結婚したい男性像」でも、「清潔感のある人」は上位にランクインしているとか。
Z世代などの若い世代が生まれたのは、90年代後半の「抗菌ブーム」前後。父親はタバコを吸わなくなり、母親はしょっちゅう消臭スプレーを吹きかけているような環境で育っています。職場に女性が増えたこともあり、「スメハラ(スメルハラスメント)」の言葉に象徴されるデオドラントのマナーや清潔感は、現代のモテの要素としては必須でしょう。
3. 傾聴力
家庭でも職場でも大切になるのが「傾聴力」。相手の話に耳を傾け、共感するということも人から信頼される「モテ」につながります。
以前は理想の上司像といえば、ソツがなく背中で生き様を見せるようなイチローさんのような人が上位にランクインしましたが、今は「いい質問ですねー」と自分を認めてくれる池上彰さんのような人や、「気にしないでいいよ」と笑ってくれる所ジョージさんのような人に変化しています。
4. 意外性
今後、私たちの仕事の多くがAIに取って代わられるといわれています。そんななかでも自分の存在意義を打ち出して成果を残すためには「意外性」が武器になる、と牛窪さん。
ビッグデータなど過去の膨大なデータから学習して答えを導き出すAIは、この女性が何と言えば喜ぶか、上司にどう振る舞えば評価されるかなど、定石や定番を考えるのが上手です。しかし、苦手なのは意外性。微妙な「さじ加減」も人間のほうが得意なので、ぜひ磨きたい部分ですね。
5. 鈍感力
ここ数年、牛窪さんが研修などで若い世代と接するときに言うようにしているのが、「空気を読みすぎずに、自由に意見を言ってくださいね」ということ。
ときには上司や先輩の意向をスルーして、意外なアイデアを出したり意外な行動をとったりしてこそ、イノベーションも生まれやすいといいます。
6. キャラ設定
「女性はモテる男性を求めていない。もう万人にモテようとする時代は終わった」と牛窪さん。婚活アプリやお見合いパーティーでは、第一印象で人気の高い男性には、あえて「いかない」という女性が多数。
なぜならば、人気者はマッチング率が下がるし、浮気リスクも高いから。だからこそ、自分の個性を重視したほうがいいですね。
その点、女性はSNSでも「自分は節約系でいい奥さんキャラ」「結婚まではかわいい路線を目指そう」などと、キャラ設定をして情報発信するのが上手です。
大人数にモテすぎても、あとで断るのが大変。自分のキャラを意識して、一部の人に注目されるモテを意識したほうがいいと思います。
身につけたいのは「意外性あるプラスアルファ」
もともと男性は、1つのことをつきつめるのが得意。「このことは、◯◯さんに聞けばすべて解決する」という得意分野を持つことはもちろん大切。しかし、「これからは、プラスアルファを身につけてほしい」と牛窪さん。
たとえばプロレスに詳しい人に、「今度、試合を観てみたい」と相談するとします。「それだったら今度『みちのくプロレス』のイベントがあるけど、近くにいい温泉宿があるからそこに泊まって、帰りはこんなグルメを食べてきたら?」などの意外な答えが返ってきたら、その人を見直しますよね。
仕事で、かつての「タバコ部屋や接待ゴルフ」のように限られた人とだけ過ごしていては、意外性はなかなか身につきません。
会社のカフェで隣り合わせた人と会話をしてみるとか、別の部署の人とランチをしてみるとか、普段の付き合いとは違った興味関心を持つ人とのつながりを持つことをおすすめします。副業や学びの場でもいいですし、リアルじゃなくてもSNSのコミュニティでもいいと思いますよ。
別の世界や意外性を持っているということは、モテの大事な要素。先ほど牛窪さんが教えてくれた、現代社会に必要な6つの「モテ」の条件とともに、ちょっと意識してみませんか?
▼前編はこちら
牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。立教大学大学院客員教授。インフィニティ代表取締役。「おひとりさま(マーケット)」(2005年)、「草食系(男子)」(2009年)などの流行語を世に広める。「ホンマでっか!? TV」(フジテレビ系)、「サタデーウオッチ9」(NHK総合)、「よんチャンTV」(毎日放送)などのテレビ番組にレギュラー出演するほか、『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?~アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(光文社新書)をはじめ、数多くの著書・共著を持つ。