ビートルズの関連書籍は数あれど、元国税調査官という肩書きを持つ著者が「お金」という観点から彼らのあり方に焦点を当てているという点において、『お金の流れで読み解くビートルズの栄光と挫折』(大村大次郎 著、秀和システム)は異色の一冊であるといえそうです。

ポップ・ミュージックの歴史に大きな足跡を残したこのバンドに、他を圧倒するような優れた音楽性やアイドル性があったことは事実。しかしもうひとつ、彼らは優れた「ビジネス・スキル」を備えてもいたのだと著者はいうのです。

ビートルズは、博打性の強かった音楽業界で「売れるため」「売れ続けるため」に、さまざまな音楽ビジネスのスキルを開発した。それは、当時の音楽市場に大変革をもたらし、現在の音楽市場の礎となっている。

たとえば、ファン・クラブ制度や、ミュージック・ビデオによるプロモーション、公式マガジンの発行などを最初におこなったのは、じつはビートルズである。

ビートルズのライブチケットは、アルバムと同じ程度の金額に抑えて青少年たちにも買えるようにし、それがティーンエイジャーの人気を爆発させた。

さらに当時は、シングルレコードの売上が収益の中心だったが、ビートルズはアルバムの商品価値を高め、アルバムで収益を稼ぎ出すことに成功した。

また、革ジャンにリーゼントというバリバリの不良少年だった彼らが、デビューするときにはスーツにマッシュルーム・カットという洗練されたスタイルになっており、高等なイメージ戦略も使っていたのだ。(「まえがき」より)

もちろんこれらは戦略の一部にすぎませんが、いずれにしてもこういった“ビートルズのビジネス・スキル”は、現代のビジネスにおいても学ぶべき点が多いということ。したがって彼らの成功と失敗は、そのまま貴重な「ビジネスへの教訓」となっているというわけです。

そうしたことを踏まえ、「彼らの足跡を、ビジネス的な観点で眺め、現代のビジネスに生かしていきたい」という趣旨のもとに書かれたのが本書。きょうはそのなかから第2章「前例なき世界で稼ぐ『最強チーム』のつくり方」に注目してみたいと思います。

ビートルズの「すごいチーム力」

著者は、ビートルズが売れた要因のひとつとして「チーム力」を挙げています。ビートルズは各人が優れたミュージシャンであっただけでなく、チームとしての力もまたすごかったということ。そして、その実力は他のバンドやミュージシャンを圧倒するものだったわけです。

ビートルズは、素晴らしい演奏能力を持っていた。しかも彼らは、自分たちで曲もつくっていた。それだけでも売れる要素は十分にある。

が、ビートルズはそれにプラスアルファの要素があった。

ビートルズは、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターという個性的なメンバーで構成されており、それぞれが非常にいい味を醸し出していた。その個性的なメンバーたちが、演奏時には見事に一体になって、素晴らしい音楽を奏でるのだ。(42ページより)

フロントマンであるジョンとポールが目立ちがちではあったものの、ジョージとリンゴも決して隅に追いやられていたわけではなく、随所で印象的な働きをしていました。そればかりか、ときには主役になり、バンドの違う側面を見せてくれたりしたことも。

そういう意味で、ビートルズはビジネス的にみても最強のチームだったと著者は指摘しているのです。そしてもうひとつ注目すべき点は、最強のメンバーを集めてバンドをつくり、コンセプトを定めたジョンの功績です。

ビートルズは、そのチームワークのよさと、個々のポテンシャルを最大限に生かし切ったチームとしての戦略によって、大きな成功をつかんだのである。(43ページより)

ジョンには「気分屋で皮肉屋」という側面もあったため、一般的な“優れたリーダー”とは違ってもいました。しかしビートルズでの立ち居振る舞いを客観的に見ると、非常にメンバーのことを気遣い、仕事をしやすい環境を整えてきたことがわかると著者はいいます。(42ページより)

「バンド単位」でスターになる史上初の戦略

冒頭でも触れたとおり、ミュージック・ビデオ、ファン・クラブ、世界ツアーなど、ポップ・ミュージックの歴史のなかで「ビートルズが始めておこなったもの」「ビートルズが広めたもの」は少なくありません。しかし、それらのなかには、いまや当たり前のものとして普通に存在しすぎているため、「ビートルズが広めた」ということが忘れられているものもあります。

たとえば、そもそもの「ロックバンド」という概念である。

現在、世界中に何千、何万というロックバンドがある。ボーカル、ギター、ベース、ドラムなどの固定したメンバーが、それぞれ個性を出し合って、一つの音楽をつくりあげる。

それがロックの醍醐味であり、ロック・ミュージシャンを目指す場合、まずバンドをつくることから始める人が多い。

このロックバンドという概念は、じつはビートルズと、アメリカのビーチ・ボーイズが世間に広めたものなのだ。(62ページより)

ビートルズ以前のロック・スターといえば、エルヴィス・プレスリー、リトル・リチャード、チャック・ベリーなどソロ・ミュージシャンが中心。テンプテーションズやミラクルズなどグループ単位で活躍している人たちもいたものの、彼らはバンドというよりはむしろコーラス・グループでした。

また、ロック・バンドのモデルケースをつくったバディ・ホリー&ザ・クリケッツも、中心人物であるバディ・ホリーをミュージシャンとして支えるような構成。バンド全体が主体ということではなかったわけです。

「バンド単位でスターになる」という概念は、今では当たり前すぎることだが、最初は簡単なものではなかった。

まず前例がない。当時はミュージシャンを目指す若者たちも、バンドでデビューというより、ソロでデビューするほうがイメージしやすかった。

レコード会社に売り込みするときも、バンドでのデビューは難しかった。レコード会社としても、バンドでデビューさせるより、いいソロ歌手を探そうとするからだ。

そもそも当時は「バンド単位でスターになろう」という発想自体が、普通はなかなか出てこないだろう。(63ページより)

ところがジョンには、ソロでデビューしようとした形跡がまったくないのです。つまりは当初からバンド志向だったということで、時代の状況を鑑みると、それがいかに斬新な発想であったかがわかるはず。「前例」にとらわれない姿勢を持っていたわけで、その精神性は現代のビジネスにも充分応用できるものであるといえます。(61ページより)

ビートルマニアのみならずとも、気軽に読み進められるところが本書の魅力。この週末、お気に入りのビートルズ・ナンバーを聴きながらページをめくってみたら、彼らについての興味深いトピックを見つけることができるかもしれません。

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Source: 秀和システム