「『賢い』とはどういうことか?」と問われた場合、答えとして思い浮かぶのは「頭の回転が速い」「抽象的な思考に強い」「わかりやすく説明するのが得意」「勉強ができる」といったことではないでしょうか? 少なくとも、「遅く考えられる」と答える人は少ないはずです。
しかし『遅考術 じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』(植原 亮 著、ダイヤモンド社)の著者によれば、賢い人はスピーディな思考に秀でているいっぽう、状況を適切に見極め、それに応じて、あえて遅く考えてもいるのだそうです。
遅く考えられる人は、自分自身の思考そのものにも注意を払いながら、丁寧に思考を進められる。間違いが起こりやすい場面に気づいて、それに対処できるので誤りを減らすことができる。
そして、よいアイデアや仮説にたどり着くまで、状況に応じた思考の進め方で粘り強く考え続けられる。それによって、多様な可能性を吟味する想像力や、創造性まで発揮できるのだ。(「はじめに なぜ、頭がいい人は『遅く考える』のか?」より)
著者が「遅く考えること(意識的にゆっくり考えること)」を「遅考(思考)」と呼び、それを使いこなす方法を「遅考術」と定義づけていることには、そんな理由があるのです。
目的は、「深くじっくり考えられない」「いつまでも、同じことばかり考え続けてしまう」というような悩みを解決すること。考えた気になって、ついその場をやり過ごしてしまったり、最初に頭に浮かんだ「思いつき」を、考えたことにしてごまかしてしまったりしないようになることを目指しているわけです。
きょうはレッスン1「『遅く考える』とは?」に焦点を当て、ひとつの問いに対する「遅考術的な答え」を確認してみましょう。
まずは、思いついたことを否定してみる
遅く考えられるようになるためのコツとして、著者は「一度あえて『否定』してみる」ことを挙げています。思いついた考えやいわれたことを、まずはいったん否定する、すなわち「Aではないのではないか」と自問するわけです。
つまり、なにか思い浮かんだとしても、すぐ飛びつきたくなるのを我慢して踏みとどまることこそ、「遅く考える」ことの出発点。そしてそのために有効な手立てのひとつが、「その考えは正しくないのではないか?」という否定の問いを立ててみること。
ひとつの問題を例に考えてみましょう。
すみずみまでそっくりな2人
コースケとエイジは見た目が実にそっくり。本人たちに尋ねてみると、身長や体重が同じなだけでなく、生年月日や両親までいっしょなのだそうな。なんならDNAも一致するとのこと。ところが、それでも2人は双子ではないという。
――はて? いったいそんなことがあるのだろうか? 一番もっともと思われる仮説を考えてみよ。(15〜16ページより)
さて、どういうことなのでしょうか?(14ページより)
遅考術の考え方Step1:否定してみる
ここでまず、最初に思いついたことをあえていったん否定してみるわけです。疑問文にすると、「コースケとエイジは双子だ、ということはないのではないか?」となります。でも、双子としか思えないのに、どういうことなのでしょう?
ポイントは、問題文をもう一度しっかり読みなおし、「どんな条件が記されているか」をよく確認すること。(14ページより)
遅考術の考え方Step2:条件を確認する
条件を何度も確認するのは、見落としがあったり、別の仮説を思いついたりする可能性があるから。
なお仮説は、いきなり正しいものを生み出さなくてはいけないわけではないそうです。あれこれ考えてみて、よさそうな仮説をひとつでも思いつくことができればいいのです。
それには、想像力を働かせて、条件が当てはまるかもしれない状況をいろいろと思い描いてみたり、内容が関連しそうな本やウェブサイトをのぞいてみたりしよう。あとは、シンプルに他の人と話すのも悪くない。(17ページより)
ひとりでずっと考え続けるのは、どれだけ頭がいい人でも難しいものだということです。(16ページより)
遅考術の考え方Step3:粘り強く考える
大切なのは、納得できる仮説にたどり着くまで、あれこれ粘り強く考えること。また、想像力を働かせたり、文献を参照したり、他の人に相談したりすることも重要。
さて、仮説を積み上げていった結果として、どんなことが明らかになったのでしょうか?
答えは、「コースケとエイジは、三つ子(もしくはそれ以上)だった」というもの。問題文に「双子ではない」と書いてあるため、かえって双子としか考えられなくなっていたわけです。
ここからもわかるように、思い込みは思考の邪魔をするのです。だからこそ、一旦否定して答えを留保する」というコツが有効に働くわけです。では、ここに出てきた「遅く考えるコツ」を手順としてまとめてみましょう。
① 思いついた考えや言われたことを、まずはいったん否定する。「Aではないのではないか」と自問する
② 条件を何度も確認する。見落としがあったり、別の仮説を思いついたりする可能性がある
③ もっともだと思える仮説にたどり着くまで、あれこれ粘り強く考える。想像力を働かせる、文献を参照する、他の人と相談する、も有効だ
(18ページより)
こういう問題が得意で、すぐに答えがわかるという人であったとしても、自分が普段からできていることを明確化しておくメリットは大きいそうです。いうまでもなく、さらに磨きをかけるべきところや、まだ弱いところが確認できるからです。(17ページより)
賢い人だからと言って、常に思考が速いわけではないと著者は強調しています。むしろ大切なのは、ゆっくり、じっくり、焦らずに考えること。本書を通じてそんな習慣を身につけることができれば、思考の精度を高めることができるかもしれません。
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Source: ダイヤモンド社