政治的な思想が真逆のおじさんや、失礼なご近所さん、いつも部屋を散らかす同居人など、誰かと口論になると、罵り合いに発展しやすくなります。
しかし、コーネル大学組織行動学教授のVanessa Bohnsによると、喧嘩中に大声で罵るのは、自分の言いたいことを伝える効果がなくなるだけでなく、自信のなさを表すことにもなるのだそうです。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事で、Bohnsはこのように書いていました。
自分の信念を過信していることはよくありますが、友だちや近所の人、対立する人などに、すぐに大声を出す場合は、相手を説得する能力に自信がないのが原因です。
2021年に自身の著書『You Have More Influence Than You Think: How We Underestimate Our Power of Persuasion and Why it Matters』を発売したBohnsは、人々の互いに対する影響力の研究を長年やってきました。
多くの研究で、創造力、道徳的な人格、運動能力などの資質に関して、ほとんどの人が自分は平均以上だと思っているにも関わらず、社会性や他人にどう思われているかについては、そこまで自信がないことが証明されています。
他人を説得する能力に自信がない
私たちの他人への影響力を過小評価する傾向は、長年にわたって多くの研究で証明されてきました。
これには、他人は実際よりも自分に興味がないと思い込む傾向があることを証明する調査があります。
他人が自分のことを好んでいると思う人は、他人がその人を好んでいると研究者に報告した数よりも少なかったり、友だちや見知らぬ人につまらない作業をやらせるのは難しいと感じている人が多いという研究も含まれています。
Bohnsは、「この2つは一見正反対のように思えるかもしれないが、実際には補完し合っており、2つの研究結果を合わせて、罵るという最悪の結果につながっている」と指摘。
人は、自分のほうが聡明で、道徳的で、平均的な人よりも偏見を持っていないと信じているので、自分の言うことは聞き入れられるべきだという信念を持つようになっているのです。
しかし、自分に他人を説得する能力はないと思ってもいるので、誰も自分の話に耳を傾けないのではないかという不安も生まれています。
Bohns曰く、「叫ばないと話を聞いてもらえないと思っているから叫ぶ」のです。
喧嘩中に罵るのは効果的ではない
口論をしたことがある人ならわかると思いますが、特定の話題に関しては、声を荒らげないようにするのが難しいものもあります。
しかし、大声を出したくなる衝動と同じくらい、それが裏目に出ることも。数多くの研究で証明されているように、相手がすでにあなたを信じる気がない場合は特に、大声を出すのは他人を説得する効果的な方法ではありません。
それよりも、優しく説得するのが一番効果的なことが多いです。
ある人の考えや発言と、その人の行動が食い違っていたり、その人が他人に勧めていることとその人自身が食い違っているのを指摘する戦略も含みます。
例えば、新型コロナウィルスに関係ない医療系のアドバイスに関しては、自分の医者の言うことを信じているのに、新型コロナウィルスに関するアドバイスは信じないというような矛盾です。
同じく、年老いた両親には新型コロナウィルスの予防や対策を勧めている人が、自分ではそれをしていないというような場合ですね。
もう一つの方法は、その人の考えや意見を明確にさせるために、質問をすることです。
その話題に向き合い、じっくりと考えてもらう方法でもあります。
ある話題について、クタクタになるまで大声で議論することもできますが、相手が聞いていない場合は何も変わりません。
しかし、その話題について相手がじっくりと向き合い、考えさせることができれば、その人が自分の考えやなぜそう思うのかを考える機会となります。
今度、おじさんが「新型コロナウィルスなんて大したことない」と話し始めたら、声を荒げないようにしてみましょう。
それでは何も解決しませんし、傷つけ合う可能性も高く、口論の後もイライラしたり、腹が立ったりするだけです。
それよりも、おじさんが生産的にその話題と向き合う可能性があると考えるなら、優しく穏やかに問いかけてみましょう。
──2021年9月14日公開記事を再編集して再掲しています。
翻訳: 的野裕子
Source: ILR School, The Wall Street Journal, Vanessa Bohns, Harvard Business Review