健康のために運動する人もいれば、競争心や達成感から運動する人もいます。
しかし、圧倒的に一番一般的なジム通いの理由は、体の「見た目」を良くするため。体重を減らしたい、筋肉隆々になりたい、腹筋をつけたい、あるいは引き締まって見えたいのです。
翻って、ここでささやかな提案をしたいと思います。つまり、それ「だけ」が動機であるべきではないだろう、ということです。
見た目を気にすることが悪い、あるいは間違っているという意味ではありません。誰でも、自分の中からも社会全体からも、外見に関するプレッシャーを受けています。
他人からの期待、自分自身が持つ自信、「自分の体に対する感情」についての気持ち——ほかにも、恐らくパーソナルトレーナーよりセラピストに相談したほうが良いようなことがたくさんあります。
体はありのままですが、体についてどう感じるかには複雑な要素があります。
非常に複雑であるために、単に体の形を変えるだけでは、恐らく自分の体に対してどう「感じる」かを劇的に変えることはできないのです。
体の状態は「目に見える変化」として現れるのは遅い
肉体改造をはじめても、鏡に映る姿に大きな変化が現れるまでには数週間(おそらくは数カ月)かかります。
脂肪を減らそうとしているだけなら、わりとすぐに結果が目に見えはじめるでしょう。ただし、筋肉をつけようとしている場合は、「永遠」に時間がかかるように思えるかもしれません。なぜなら、それはある意味でその通りだからです。
筋肉を増やし、かつ脂肪を減らしたい場合はどうでしょう。それにはさらに時間がかかります。
筋肉をつけるために食べる量を増やした後、脂肪を落とすためにダイエットして、それを繰り返さなければなりません。
今とほぼ同じ量の食事をして、筋肉と脂肪が入れ替わるのを待つ方法もありますが、これは一方に取り組んでからもう一方を行なうよりも、さらに遅いプロセスとなります。
重要なのは、数カ月(あるいは1年)でわかりやすく増やせる筋肉の量は思ったよりも少ないということ。
トレーニングの最初の3カ月で約1.8~3kg筋肉がつき、それ以降つく筋肉量は徐々に減っていくという概算を用いれば、いかにがっかりするような話かもしれないかがわかるでしょう。
その数kgを体全体に分散させれば、「目に見えて大きくなった」ヒップは手に入るかもしれませんが、「とても大きな」ヒップにはなりません。肩や上腕二頭筋など、どこの部位に集中したとしても同じです。
「夢の体」はいつまでたっても手に入らない
それでも取り組み続けたとしましょう。
脂肪を減らし、筋肉をつけ、何年も努力を続けて、最終的にはとても大きなヒップや鍛え上げられた腹筋など、当初夢見ていたものを手に入れることが「できた」とします。
これで幸せでしょうか? 多くの人にとって、答えは「そうでもない」です。
確かに腹筋は目に見えるものの、ウエストが「ずんぐり」しているのが不満です。ヒップは大きいかもしれませんが、十分な大きさではありません。腕は引き締まりましたが、今度は着たかったジャケットと肩が合いません。憧れのインフルエンサーや芸能人と自分の「アフター」写真を比べて、まだまだ物足りないと感じるかもしれません。
実のところ、自分の体のどこかが嫌いで運動をはじめたのなら、恐らく「いつでも」体について嫌なところを見つけることができるのです。
十分に痩せて「はい、これで完璧」と言って摂食障害を治せる人はいません。問題は、元々体ではなかったのです。
「摂食障害を持ち出すのは大げさだ」と思うのであれば、ボディイメージを心の健康の問題として考えるほうがわかりやすいでしょう。
本格的に心の病に陥っている状態とまではいかなくても、自分の体に固執してしまう原因になるような不健康な考えを持っていることもあります。
National Eating Disorders Association(NEDA)では、以下のように指摘されています。
否定的なボディイメージ(または体への不満足)には、恥ずかしさ、不安、自意識の感情が伴います。
体への強い不満を経験する人は、ほかの人と比べて自分の体に欠陥があると感じ、気分の落ち込みや孤立感、自尊心の低さ、摂食障害に悩まされる可能性が高くなります。
摂食障害の原因は1つではありませんが、研究によると、神経性食欲不振症や神経性過食症の発症ではその最もよく知られている誘因は体への不満だということが示されています。
もしここで心当たりがあっても、ジムを辞める必要があるわけではありません。
運動にはそれでも体の健康に良いこともありますし、特に心の健康の問題が軽い場合は、時々ウェイトトレーニングやランニングを楽しみながら、心の健康の問題を乗り越えることができます。
しかし、健康的な方向に自分を向け続けるためには、ジムでの焦点を変えることが必要かもしれません。
自分の体が「できる」ことに集中しよう
減量やボディイメージの問題がきっかけでジムに通うようになったとしても、そうした問題にずっと焦点を当て続けなければならないわけではありません。
「魅力的な見た目になるようにトレーニングをはじめたものの、最終的には自分の体が『できる』ことを目にすることで得られる達成感に夢中になった」という人に出会ったことが何度もあります。
この例には、地元のジムでベンチの神様になったり、クロスフィットのボックスでカッコいい体操がいろいろとできるようになったり、ズンバが楽しくてダンサーになったりするといったことがあるかもしれません。
あるいは、まったく新しいスポーツをはじめたり、すでにジムでしていることのスポーツ版で競い合ったりすることもできます。たとえば、5kmのレースを走ったり、パワーリフティングの大会に出場したり。
見た目を変えたい気持ちを諦める必要はありません。人間なんてそんなものです。
ただ、「見た目は『健康的に楽しむ』という第一目標の副次的な効果になるかもしれない」ということだけなのです。
Source: Stronger by Science, National Eating Disorder Association