仕事でのミスは怖いですよね。否定されたり注意されたりすることには、思わず目を背けたくなります。
筆者もそう。フリーランスで15年くらい働いていて、褒められることはあっても、そうそう厳しく注意されることはありません。だから、たまにキツめの指摘が入るとメッセージを見るのが怖くなったり、落ち込んだりします。
でも、考えてみれば指摘してくれるのは、本当に自分を思ってくれているから。改善しようとしてくれているからなんですよね。フリーランスなのだから、力不足だと判断されれば契約を切る選択ができるなかで、時間をかけて指摘してくれるのはありがたいことです。
とはいえ、それに気づくまでには時間がかかりました。
苦言に耳を傾けられるようになったのは、Netflixで話題になった『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティ』『地に落ちた信頼: ボーイング737MAX墜落事故』の2本のドキュメンタリーを通して、失敗の理由や、引き返すべきポイントを学んだからなのです。
非現実的な「インスタ映え」を現実にしようとした男
『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティ』は、若き実業家のビリー・マクファーランドが、バハマの小さな島で超豪華な野外フェスを企画するも、大失敗に終わったFYREフェスティバルの一部始終を描いた作品です。
マクファーランドは、ミレニアル世代をターゲットにしたマーケティング手腕で財をなした人物。天才的なセールス話術とターゲットのニーズを見極める能力がありました。
彼が人気ラッパーのジャ・ルールと計画したのは、「バハマにあるパブロ・エスコバルが所有していたとされる小さな島で、没入型の大規模音楽フェスを行なう」というもの。
「FYRE」と名付けられたこのフェスは、有名インフルエンサーを起用してSNS上で大々的なマーケティングを行なった結果、500~1500ドルという高額チケットが48時間で完売しました。
しかし、チケットを売った時点でフェスの実態はなく、そもそもパブロ・エスコバルの名前をマーケティングに使わないという契約だったにもかかわらず、エスコバルの名前を使って大々的に宣伝したので、島の所有者から契約を白紙にされる始末。
フェスの開催日は決まっているのに、会場を探し直さなければならない事態に陥っていました。
会場が見つかっても、「インフラすら整っていない島での野外フェス開催」というあまりにも見通しの甘い計画ゆえに、運営側は早々にお手上げ状態だったのです。
問題1. 反対意見に耳を傾けず、周りはイエスマンのみ
離小島に豪華な宿泊施設を建設し、野外ステージで一流アーティストがパフォーマンスを行ない、最高級の料理を提供する——。
マクファーランドとジャ・ルールが描いたのは、そんな夢のようなフェスでした。まるで「こうだったらいいな」が詰まった、インスタグラムの切り抜きを具現化したようなもの。
ところが、その規模のフェスを行なうなら、予算も期間も人員も圧倒的に不足していたのです。
幸いにも、マクファーランドは、企画のために一流の人たちを集めていたので、フェスの計画と現実を照らし合わせて助言や苦言を呈する人もいました。
しかし、マクファーランドは具体的な数字を出して現実を見せようとする人をことごとく排除し、自分の周りにはイエスマンしか残さなかったのです。
問題2. 夢物語と企画を同一視していた
本作を見て、マクファーランドは夢物語と企画の区別がついていなかったのだろうと感じました。
夢を語るなら、どんな規模でもいい。しかし、企画にするのならまずは予算と人足と期間、ある程度のワークフローを押さえておく必要があります。
また、具体的な数字を出して反対してくる人の意見には耳を傾けるべきです。反対意見を一切受け付けずにチームから排除するなど、論外だったのです。
「利益重視」に走り、社員を疎かにしたボーイング
『地に落ちた信頼: ボーイング737MAX墜落事故』は、ボーイング737MAXの飛行トラブルが発生した原因と、ボーイングの体制を追ったドキュメンタリーです。
かつては、安全の象徴とすら考えられていたボーイング。エンジニア主導だったかつてのボーイングは、従業員が経営陣に対して問題や意見を言える風通しのいい会社でした。
従業員はボーイングで働いていることに誇りをもっており、典型的な中流階級の暮らしを保証してくれる会社に強い愛着を持っていたそう。
問題1. 安全重視・現場主義から利益重視に
ところが、安全性を重視して現場の声を大切にしていたボーイングですが、合併したことでマクドネル・ダグラスがトップに立ち、ウォール街で企業価値を築くことを優先するように。
費用対効果を気にして、技術会議でも株価が議題の中心になり、飛行機の製造コストや従業員の数を減らしていったといいます。
問題2. 現場の声を徹底的にシャットアウト
そして、従業員と経営陣に物理的距離をつくって現場の意見に耳を傾けずに済むよう、本社を移転。予算削減のために品質調査や品質管理の担当者は外されていったそうです。
風通しの良さは過去のものとなり、問題提起した人は左遷されたり解雇されたり、減給されたりしたのだとか。
「文書に残さなければミスは発覚しない」精神で、文書化は禁止されていたとのこと。
問題3. 焦りがモンスターを生み、破滅を呼んだ
この時点で既に悪い例のオンパレードですが、事態をさらに悪化させたのがライバル社であるエアバスの成功でした。
エアバスが、燃費の良い飛行機「A320neo」をローンチしたことで、ボーイングは焦り、対抗馬としてボーイング737の第4後継機737MAXをつくりました。
この737MAXは燃費重視の設計で、機首が上を向いてしまう傾向がありました。
その予防策として操縦支援システムを導入していましたが、そのシステムの存在をパイロットに知らせず、訓練も施さなかったために、結果的にライオン・エアとエチオピア航空の飛行機が墜落。合計で346人もの死者を出す結果となったのです。
2つの事例から学べることは…
- 問題提起や苦言には耳を傾けるべき
すべてがうまく回っているように感じる時ほど、立ち止まってみたほうがいい。FYREフェスもボーイングも、苦言を呈してくれる人を遠ざけたのが破滅のはじまり。
- 隠蔽しない
どちらも問題修復の機会を逃してしまった。
- その場しのぎのために抽象的な言葉ではぐらかしたり、答えを先延ばしにしたりしない
問題が発生した時は、即座に向き合って解決するしかない。
筆者は、2つの作品をじっくり解析し、自分が抱えているタスクを全て整理・管理したことで、少しずつ「先延ばし癖」が改善されつつあります。
それだけでなく、初心に戻って注意や苦言を受け入れられるようにもなりました。
やっていることの規模は違っても、仕事をするうえでの重要なことは、彼らの大きな失敗から学べたと思います。