ライフハックの定番といえば「習慣化」。
まず生活の一部を変えようと思い立ち、新しい行動が毎日のルーティンに取り入れられます。
ほどなくすると、その行動は自動化し、何も考えなくても自然にそれをこなせるようになるのです(少なくとも理想的には)。
では、このように習慣が形成されるまでには、どのくらい時間がかかるのでしょうか?
一説では「21日」と言われていますが、必ずしもそうではないようです。
最初の21日間に起こること
習慣が形成されるまでの時間を21日とする説の起源は、外科医のMaxwell Maltz医師にあります。
James Clear氏によれば、Maltz医師はあるとき、手足の切断や美容整形などの手術を受けた人が体の変化に慣れるまでには、3週間ほどの時間がかかるらしいことに気づいたそうです(私自身も何度か小さな手術を受けていますが、痛みや腫れがひいて、手術を受けたことをあまり意識しなくなるまでには、2~3週間かかるような気がするので、何か関係があるような気がします)。
自分に対する「メンタルイメージ」が分解・再構築されるまでには21日かかる。
これはMaltz医師の考えであって、研究による裏づけがあるわけではありません。いわば、ひとりの人の直感にすぎません。けれども、誰にでも思いあたる節があるからこそ、この説が定着したのだと、私は思っています。
たとえば、早起きして、朝いちばんにエクササイズすることを思い立ったとします。もちろん、一度だけならできるはず。ですが、これを習慣にするにはどうすればいいのでしょう?
私にも経験があります。朝型でもないくせに朝活で運動することを思い立った私は、こんな誓いを立てました。とにかく1週間、文句を言ったり、計画を変えたりしないで、がんばってみようと。
なにがなんでも、5日連続で朝6時に起きると決めました。週末2日間のオフを楽しむと、2週目はずっと楽になりました。そして、3週目が終わるころには、完全に私のニューノーマルになっていました。
「1日」だけなら、うまくいっても、ただのまぐれかもしれません。
「1~2週間」は、私たちの誰もが過去に経験しているであろうタイムフレームです。この長さの「乱れ」なら乗り切ることができます(休暇や、仕事の納期に追われてピンチを迎えている1週間を思い浮かべてみてください)。
それに対して、「3週間」はほぼ1カ月です(ちなみに、自己改善のための課題に取り組む期間も、30日間が一般的です)。
このタイムフレームであれば、すでにその活動を何度もこなしています。おそらくは、中断や障害(週末など)を何度か切り抜けたうえで、再び軌道に戻っていることでしょう。
つまり3週間とは、「実生活」を体感するのに十分な長さのタイムフレームと言えるかもしれません。ただし、これで完璧というわけではありません。
21日後に起こること
ある行動が本当に習慣になるまでには、どのぐらいの時間がかかるのでしょうか。
これまでにも、その測定を試みる研究が行なわれてきました。
たとえば、こんな研究です。
参加者に何か1つ習慣を選んでもらい、1日1回取っている行動と結びつけて、その習慣を行なうように指示しました(例:ランチといっしょにフルーツを一切れ食べる)。
実験は12週間続きました。参加者の一部は、数週間後にその新しい習慣が身についたことを実感しましたが、大勢の人は、実験終了の時点でもまだそこには到達していませんでした。
研究チームは、「ほとんどの人が習慣を形成するまでの期間は2~8カ月」という結論を出しました。
ただしこの結論は、(研究チームの算定によれば)参加者の62%にしか当てはまらないモデルに基づいたものです。
幅広い可能性の余地があるとはいえ、これでは、人間行動の普遍的法則とはとても言えないでしょう。
また、2012年に発表されたレビュー論文では、そのほか、いくつかの研究に目が向けられました。
その結論は、(習慣改善に取り組む患者に対して)新しい習慣が身につくまでには少なくとも10週間はかかるとアドバイスするのが理にかなっている、というものでした。
その一方で、どんな習慣であれ、それを行なう期間が長くなるにしたがって楽になるということを、知っておくだけでも大きな効果がある、とも述べられています。
行動の変化を「ステージ」でとらえる方法
「時間ベースの目標」を設定することが有効な場合も、たしかにあります。
たとえば、第1週を終えてから計画を変更するとか、新しい保湿剤をボトル1本が空になるまで毎日使う、というようなケースです。
けれども、「カレンダーの日付」よりも「ステージ」のほうが行動の変化をイメージしやすいと主張する人たちもいます。
こちらの考え方によれば、新しい行動をはじめる前には、いくつかのステージがあるそうです。たとえば「選択肢についてのリサーチ」や、「習慣化を決意する前にその行動を試してみること」など。
ですが、新しい行動を開始したら、それで終わりではありません。「これをいつまでも続ける」といった、単純な話ではありません。
アクションのステージ
その次のアクションのステージではまだ、それをはじめはしたけれど、自動化されておらず、本当に続けられるという確信が持てません。このステージでやるべきことは、たとえば…
- 習慣化へのモチベーションを自分に思い出させる
たとえば、歯科クリニックの予約のことを書いたリマインダーカードをバスルームの鏡に貼ります。歯をフロスするという行為だけでなく、その動機も忘れないようにするためです。
- キューを出してくれる、サポートを与えてくれる環境を再構築する
たとえば、毎朝のランニングを習慣にしたければ、前の晩にシューズを出しておきます。ランニングから戻ってきたら、パートナーから、「今日の走りはどうだった?」と聞いてもらいます。
- 小さな成功を祝って「自己効力感」を高める
その日の目標を達成したら、カレンダーの該当する日付にチェックを入れます。
さらに、もっと大きな目標を意識化したり(走破した総マイル数など)、自分の進歩がわかるベンチマークを設けたりするのもいいでしょう(今までは、毎日イスに両手をついて腕立て伏せを行なっていたが、床の上でできるようになった、など)。
- 邪魔が入っても、習慣を維持できる方法を準備する
(これについては、これからくわしく解説します)
メンテナンスのステージ
勢いがついてきたなと思えたら、そこからはメンテナンスのステージです。
日々、習慣化に取り組むなかで、だんだん自然にできるようになってきたという実感がわきはじめてきました。
少なくとも、今までよりも「生活の一部として定着してきた」と思えるようになってきたはずです。このステージでやるべきことは、たとえば…
- 計画を見直す
毎朝のランニングは、今もあなたに合っていますか? もしかすると、走る距離を部分的にのばしたり、休息やヨガ、筋トレの日をほかにつくったりするほうが理にかなっているかもしれません。
- 直面するかもしれない障害を想定する
休暇に出かけても、その習慣を中断せずに続けますか? 何かの理由で休んでしまったら、どうやって再開しますか?
- モチベーションが下がらないように工夫する
カレンダーに連なるチェックマークがあなたの大きなモチベーションになっているとします。ですが、いつかは必ず、その連なりは途切れます。あなたの意志が本当に試されるのは、そのときです。
そこで、あなたのやる気をキープしてくれる、ほかのものが必要になります。多くの場合、それは活動そのものに本質的に備わっています。
たとえば、毎日フロスすることの気持ちよさ。ランニングパートナーと一緒にレースへの参加を申し込んだときのワクワク感。良い食習慣のおかげでコレステロール値が下がったときのうれしさ、といったものです。
習慣とは仕事
習慣を身につけるということは、××日というマジックナンバーに到達しさえすれば、あとはもう安心というものではありません。
はじめてから5年が経ったとしても、常に努力が要求されるものです。
その意味では、習慣とは仕事です。そして、長続きする仕事とは、やりがいを感じる仕事なのです。
Source: James Clear, CiteSeerX, National Library of Medicine, MPH Online Learning Modules