今年7月に開催された一般社団法人Metaverse Japanによるカンファレンス「Metaverse Japan Summit 2022」。この連載でもセッションの内容を紹介するレポートを先日公開しました。

今回は、ビジネス分野のメタバース活用に関する情報を追い、自身でもメタバースに関するWebマガジンを運営する筆者が、イベントに参加して印象に残ったことや、そこから感じた“メタバースとどう向き合っていけばよいのか”などについてお伝えしたいと思います。

“それぞれの視点でのメタバース”が一気につかめる

午前11時から午後9時過ぎまでたっぷり行なわれた今回のイベント。登壇者のバリエーションが豊富で、“それぞれの視点から見たメタバース”の話を一気に聞けたことが、まず魅力であり収穫でした。

Photo: 酒井麻里子

大企業、スタートアップ、自治体、エンジニア、アーティストなど、どの視点から見るかによって、メタバースやそれを取りまく技術に対する見方は変わってきます。そして企業であれば、提供しているサービスの内容や種類によってもフォーカスするポイントは当然違ってくるはずです。

メタバースの現状を的確に理解するためには、どこか一方向からではなく、さまざまな角度からの意見や価値観を知ることが大切だと感じていますが、とにかく動きの早い業界。バランスよく情報を追い続けるのは大変です。

いろいろな立場にある専門家の話をまとめて聞けるこのような機会があると、自分の中の情報や価値観が一気にアップデートされると感じました。

「バーチャル渋谷」はメタバースありきではなかった

セッションのなかで特に印象に残ったのが、「メタバースが拡張する地方自治体」でKDDIの中馬和彦さんが話していた「バーチャル渋谷」立ち上げの経緯です。

Photo: 酒井麻里子

コロナ禍に突入して間もない2020年5月にスタートし、今ではメタバースの街の定番のような存在となっているバーチャル渋谷ですが、実は最初からメタバースを作ろうと思っていたわけではなかったのだとか。

「当時、リアルな渋谷の街でARを体験できるイベントを企画していたのですが、緊急事態宣言で人が集まることのできない状況になってしまいました。

代わりにVR空間に渋谷の街を作って用意していたコンテンツを表示しようということで、複数のステークホルダーが連携して2カ月弱で一気に作り上げたのがバーチャル渋谷です。

目的がはっきりしていて、そのための手段として選んだものが、たまたまメタバースだったに過ぎません」(中馬さん)

この話を聞いてまず思ったのが、「DXに通じるものがある」ということ。筆者は企業のDXについて取材をする機会も多いのですが、「その取り組みで何を実現したいかを明確にすることが大切」「手段が目的化するとうまくいかない」という話をたびたび耳にしてきました。

メタバースにしてもDXにしても、「流行っているからとりあえず自社でも導入!」ではなく、まず目的を明確にすることが大切なのでしょう。企業がメタバース参入を検討するときにも参考になる、本質に迫るエピソードだと感じました。

キーワードは「日本の強み」と「スピード」

また、複数のセッションでいろいろな立場の登壇者が、「日本の強みを生かすチャンス」「スピード感を持って取り組むことが必要」という旨の発言をしていたことも印象的でした。

Photo: 酒井麻里子

コンテンツやノウハウの蓄積があり、海外のファンも多い日本のアニメやゲーム、キャラクターなどのIPをどう生かすかを考え、それをいかにスピーディーに進めていくかは、今後日本がメタバースに取り組んで行くうえでの共通のテーマなのでしょう。

一方で、ユーザー不在のままサービス提供側が走ってしまうことを懸念する登壇者もいました。

確かに今は言葉だけが注目され過ぎている部分もあるかもしれません。SNSなどでも、メタバースブームに対する冷ややかな意見を見かけることがあります。

ユーザーが求めていることに応えつつ、スピード感も失わない。そのバランス感がメタバースを提供する側に今求められていることなのかもしれません。

「ひとつの手段」としてフラットに向き合うことが必要

「メタバース」という言葉は、昨年夏に当時のFacebook社がメタバース開発への注力を表明したことから注目され始め、同社が10月に「Meta」と社名を変えたことで広く認知されるようになりました。そこからあっという間にバズワードとして広がっていったのはご存じのとおりです。

一方で、「メタバースを使うこと」そのものは、まだまだ浸透しているとはいえない段階。今後数年をかけて、サービス提供者やユーザー、クリエイターなどが試行錯誤を続けながら、日常にどうメタバースを取り込んでいくかの最適解を探していくことになりそうです。

まだ予測できない部分も多いとはいえ、大きな可能性とビジネスチャンスを秘めたものとして高い期待が寄せられていることは確かです。

「新時代のすごい技術!」と過剰に期待するのでも、「そんなものは流行らない」と否定するのでもなく、“何かに取り組むときの新しい手段のひとつ”としてフラットかつ冷静に向き合うことが、ビジネス視点でのメタバースとの付き合い方として必要なのではないでしょうか。

Source: Metaverse Japan, バーチャル渋谷