「断捨離」や「ミニマリスト」といった言葉が流行して以来、片付けがある種のブームのようになっています。
一方で「汚部屋」という言葉も生まれて、なかなか片付けられない人の声も聞くようになりました。
最近になって、「片付けられない人」の中には、「ためこみ症」という精神疾患にかかっている人がいることがわかってきています。
聞き慣れないのもそのはずで、2013年にアメリカ精神医学会、2019年に世界保健機関の診断基準に加わったばかりの疾患名です。日本では、医療関係者の間でもあまり知られていません。
「ためこみ症」にかかると、「片付けられない」というより「片付けたくない」という心理になります。
そのため、部屋の中が倉庫のようにモノで一杯になっても、それが異常なことだという認識がほとんどないのが大きな特徴です。
20人に1人がためこみの問題を抱えている

書籍『片づけられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』(青春出版社)を著した、五十嵐透子教授(上越教育大学大学院心理臨床コース)によれば、ためこみの問題を抱えている人は「20人に1人」。
そのすべてが、ためこみ症が原因ではないとはいえ、思ったよりも多いと感じられます。
また、ゴミ屋敷報道の印象から、高齢者特有の症状と思われがちですが、実は「40歳以上の発症はめったにない」疾患です。むしろ、比較的若い人に多いそう。
現在、ためこみ症の治療には、認知行動療法が行われます。協力者にモノを預かってもらうなどして、「これがなくても大丈夫」ということを徐々に理解してもらうやり方です。
ためこみ傾向のある人向けの対策

本書には、こうしたためこみ症についての情報が盛り込まれています。
そして、そこまでではないものの、自分にはモノをためこむ傾向があって、「何とかしたい、変わりたい」と自覚する人に向けたアドバイスも充実しています。
いくつかピックアップしてみましょう。
モノを入手するときのルールを持つ
今は100円ショップなど、いくらでも安くモノが手に入る時代。だから、その入り口をコントロールするルールを設けるのが1つの手です。
例えば、「事前に買い物リストを作り、そこに書かれていないモノは買わない」、「セールやディスカウントストアなど、モノを買うハードルが下がる場所には近づかない」が有効です。
モノを「いつ」手放すかのルールを作る
「雑誌は購入して1カ月経ったら読んでいるか、いないかにかかわらず処分する」、「衣類はワンシーズン着用しなかったら、あるいはサイズが合わなかったら寄付する」というふうに、モノを手放すタイミングをルール化します。これにより、判断に迷って捨てられない、ということは減っていきます。
日々の郵便物を仕分ける
郵便物は、毎日帰宅後にチェックし、不要なモノは捨て、必要なモノはファイリングするなど、たまってしまわないようにします。
とりあえず保管したモノでも、週1で見直して不要と判断したら捨てます。仕分けの後でスイーツを食べるなど、自分へのごほうびを与えると、より効果的。
デジタルためこみ症にご注意!その改善法は?
物理的なモノでなく、デジタルデータをためこんでしまう「デジタルためこみ症」が、最近注目されています。
パソコンのデスクトップがアイコンだらけとか、スマホのメモリが画像やアプリで一杯になっているのは、デジタルためこみの疑いが濃厚です。
疾患と呼ぶほどひどくなくても、使用する端末の動作が遅くなって作業効率が落ちるなど、目に見える問題が生じます。
これについても、本書では幾つかの対策が提示されています。
例えば、以下のやり方があります。
すぐに答えられるメールには即返信する
2分以内に返信ができるメールについては、すぐに返信し、受信トレイから削除します。
それ以上の時間がかかるメールでも、進行中のフォルダを作ってそこに入れ、翌日までには返信処理をするように努めます。
デスクトップを整理する
デスクトップ上のアイコンで不要なものは削除し、背景の柄はシンプルなものとします。
「新しいフォルダ」と初期設定のままの名前のフォルダは、何か大切なファイルが入っているなら名前をつけ、空なら削除します。
使わないソフト(アプリ)のショートカットは、(単なるアイコンの削除でなく)アンインストールすることで削除します。
SNSの活動を減らす
データだけでなく、SNS上の活動や友人も、際限なく増える傾向があれば要注意。
「参加するグループ、ゲームのプレイ回数、コメントする人、チャットの回数などを減らし」、ツイッターでは、多くの人をフォローせず、つぶやきの回数もアクセスの頻度も落としてゆくようにします。
家族や知人がためこむ人であったら
自分でなく、身近な人がためこむ傾向が強い人だったら、どうすべきでしょうか?
まず、絶対やってはいけないのは「本人が不在のときに勝手に捨ててしまうこと」だと、五十嵐教授は述べています。
このやり方は、相手との関係を悪化させるだけ、さらにためこみが悪化するかもしれない、とも。
ただ、本人が、ためこみをなんとかしたいと自覚しているのであれば、本人と話し合った上で、本人が捨てる、あるいは本人立ち合いのもとで「保管するモノ」と「手放すモノ」を仕分けしていきます。
そして、片付けた状態をキープできたら、「きれいに片付いているね」など、ほめてあげるのが、リバウンドしないためにも重要です。
もう1つ重要なのが、「一気にやること」。1日では片付けない分量でも、連続した何日間かで一気に片付けてしまうようにします。
こうすると、「モノがなくなって暮らしやすくなった」ことが、目で見て、明らかになる大きなメリットがあります。
少々長くなりましたが、ためこみの問題と解決へのヒントは、これにとどまりません。
「多忙で片付ける暇がない」といった理由もなしに、ためこみ傾向がある人、あるいは周囲にそういう人がいるなら、本書が参考になるはずです。
――2019年8月30日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
文:鈴木拓也
Source: 『片づけられないのは「ためこみ症」のせいだった!?』(青春出版社)