企業は、人材を確保して、できるだけ離職を防ぎたい。しかし日本を代表する大企業でさえ終身雇用の維持は難しいのが現実です。雇用流動化の波には逆らえないと、ほとんどの人が感じているはずです。

もはや、人材という資本の活かしかたを根本から変えなければいけないのではないか。個人の生き方や価値観を尊重しながらも、組織のパフォーマンスを最大化する方向に思い切って変革していかないといけないのではないか。

これが、私がこの本を書いた大きな理由の一つです。(「はじめに」より)

人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(上林周平 著、田中研之輔 監修、アスコム)の冒頭で、著者はこのように述べています。

大学卒業後に3年ほど外資系コンサルティング会社で働いたのち、企業の人材育成、組織開発を行うベンチャー企業の立ち上げに尽力。さらに2017年には株式会社NEWONEを設立したという人物。これまで15年以上、研修や人事施策に関するサービスをさまざまな企業に提供してきたのだそうです。

そうしたプロセスを歩んできた結果、著者はひとつの確信を得ることができたようです。今後、多くの企業が経営改革や事業再編、人材確保などさまざまな課題に取り組んでいくうえで、「人的資本経営」は避けて通れないものになるということ。

それは当然、管理職のみなさんにも大きな影響を与えます。むしろ、現場のリーダーである管理職のみなさんがいち早く発想を転換し、「人的資本経営」の時代に求められる能力やスキルを身に付けなければ、企業として、あるいは日本全体として「人的資本経営」の浸透、定着、活用はうまくいかないでしょう。(「はじめに」より)

しかし、そもそも人的資本とはなんなのでしょうか? 基本中の基本というべきその部分を明らかにするべく、第1章「人的資本の世界へようこそ」内の「人的資本とは何か」に焦点を当ててみることにしましょう。

人的資本の基本、3つのポイント

著者はここで、アメリカの作家、マイケル・ルイスが書いたベストセラーである『マネー・ボール』という作品を引き合いに出しています。

メジャーリーグの貧乏チームであるオークランド・アスレチックスが、データサイエンス(サイバーメトリクス)を駆使して、それまでのチーム運営とはまったく異なるアプローチで競合チームへと変わっていく姿を描いたノンフィクション。ドラマとしても非常に魅力的なこの作品は、人的資本を理解するのにとても役立つというのです。

野球というボールゲームを徹底的にデータ分析するアプローチは、いまでこそ当たり前になったものの、当時は画期的だったのだとか。

野球は相手チームより多く点を取れば勝ちです。ですから攻撃する選手には何より「得点に貢献すること」が要求されるはずです。

この観点で選手をデータ分析していくと、それ以前には見えていなかった個性が見えてきたのです。(36ページより)

たとえば「出塁率」。“得点への貢献”として、昔からある打率やホームランの数は非常にわかりやすい数値であるといえます。

しかしヒットやホームランのみならず、四死球も全部含めて「なんでもいいから塁に出る確率」、つまり「アウトにならない確率」を見てみると、意外な選手が非常に優れた数値を示していることがわかったといいます。ヒットやホームランの数は少なくても、四球(フォアボール)で塁に出る確率が高い選手などです。

このような「誰も注目していなかったけど、実は得点への貢献度が高い選手」を独自のデータ分析で炙り出したアスレチックスは、そうした観点で選手を次々とスカウトしていきました。その結果、チームは着実に「相手より多く点を取れる」ようになったのです。(37ページより)

『マネー・ボール』のアスレチックスは、選手を人的資本としてうまく活用していると著者は指摘しています。そして、そのポイントは3つあるようです。

まずは、選手のきわめて具体的な能力に着目していること。「何パーセントの確率で出塁するか」など、選手の能力を具体的に数値化したわけです。

もうひとつは、結果を出したこと。相手チームより多く点を取るためにはどんな能力が必要かを見極め、その能力を備えた選手を組み合わせることでチームを強化したのです。そして最後は、現場のリーダーがチームを動かしたこと。

なお、この3つのポイントはビジネスに置き換えることも可能。(35ページより)

能力に着目して結果を出す

人的資本の活用では、人の能力にフォーカスします。しかも、超具体的に、です。(中略)営業でもアポイントをとるのが得意なのか、優れた資料を作れるのか、高確率でクロージングできるのかなどまで分析します。(39ページより)

その結果、ひとりひとりが持つ多様な個性が際立ってくるわけです。

そして、チームとして結果を出すために能力を組み合わせます。得点が野球の目的ならば、営業では売上が目的です。アポが得意な人、顧客管理が得意な人、クロージングが得意な人。細かく分解してみれば「営業経験者」の個性は様々です。(39ページより)

この多様な個性を組み合わせ、より目的を達成しやすいチームをつくるのです。

さらに、現場のリーダーである管理職が、理論と戦略をしっかりとチームに落とし込むこと。(中略)企業が「人的資本経営」を掲げたならば、管理職がそれを理解してチームで実践しなければなりません。(40ページより)

「人的資本経営」の成功の鍵は、現場のリーダー。そしてリーダーの重要な役割は、ヒットやホームランのような派手な個性とは違う、きらりと光る孤影を発見すること。それらの価値をうまく活用して結果を出すのが、「人的資本を活かす」ということであるわけです。(39ページより)

本書は、「人的資本経営」という大きな時代の流れのなかで、管理職のみなさんがよりよい状態になれるようにとの思いから書かれているのだそうです。自分自身もチームメンバーもやりがいを感じられる職場づくりに邁進するために、参考にする価値はありそうです。

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Source: アスコム