不確実で変化の激しい時代を生き抜くために、ビジネスの現場で「デザイン」への期待が高まっています。しかし、「デザイン的なアプローチが必要だ」「デザイン思考のフレームワークを活用しよう」と言われても、自分の仕事にうまく落とし込めない――とモヤモヤする人も多いのでは?

そこで今回は、7月23日に『サービスデザイン思考 ―「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて』(NTT出版)を上梓した株式会社インフォバーン取締役副社長/デザイン・ストラテジストの井登友一さんにインタビュー。

誰しもがデザインに関われる時代に、「サービスデザイン」の視点から製品・サービス・事業を捉え直し、よりよいものへと変えていく「サービスデザイン思考」とはなにか、仕事への活かし方を伺います。今回は前編です。

▼後編はこちら

未来を見据えるピジネスパーソンの必須スキル「サービスデザイン思考」の育て方 | ライフハッカー[日本版]

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ビジネスにデザイン発想が求められる時代に

井登さんが社会人になったのは、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起きるなど、激動のスタートだった1995年。大学では社会学を専攻し、フィールドワークによる社会調査に熱中していたことから、ユーザーリサーチ・マーケティングリサーチの領域に興味を持ち、企業のマーケティングを支援する会社に就職しました。

「当時はアメリカ・北米を中心としたITバブルのさなかで、ソフトウェアデザインやウェブデザインの盛り上がりがあった時期。ユーザーのニーズをリサーチし、それを解決するためのデザインをしていくという、今で言うヒューマンセンタードデザイン(HCD/人間中心デザイン)や、UXデザインの勃興期でした。

『この領域のデザインは面白いぞ』と、社内の仲間と一緒に専門部署を立ち上げたのが2000年ぐらい。HCDなどの重要性について企業に提言してもなかなか理解されず、忸怩たる思いをすることもたくさんありました」(井登さん)

それから約20年が経ち、2018年には経済産業省と特許庁が「『デザイン経営』宣言」を公表するなど、“企業競争力を高めるためにはデザインの力が必要だ”という認識は高まるばかり。

井登さんはデザインとビジネスの間に立ち、デザイン発想で経営の変革をサポートする“デザイン・ストラテジスト”として、企業のイノベーションを総合的に支援する実務に携わっています。

デザインとは「ものの意味を見出し、形を与える」こと

多くの人にとってデザイナーといえば、色・物・形・意匠・造形・空間など、見た目やスタイリングに関わる仕事というイメージがあるかもしれません。

しかし近年は、美術系のトレーニングを受けたデザイナーバックグラウンドのデザイナーか、非デザイン領域(ノンデザイナーバックグラウンド)のデザイナーか、といった区別がなくなってきていて、両者が融合してきていると井登さんは話します。

「これはデザインという言葉の意味が広がってきたとも言えますし、進化しながら本来の意味に戻っている、ということかもしれません。

デザインという言葉のルーツは“designare”というラテン語で、deという接頭詞にsignareという言葉がくっついています。deは英語でいうtoで、“あるところに向けて”という意味。そしてsignareは英語のsign、“印をつける”という意味です。

デザイン研究者のクラウス・クリッペンドルフは、この“ある方向に向かって印をつける”というdesignareの語源からたどると、デザインとは「ものの意味を見出して、形を与えること」だと指摘しています。

デザインは、タンジブル(tangible)なもの、つまり実体がある物の形を作ることもあるし、コンセプトや概念的なものなど目に見えない、インタンジブル(intangible)なものを作ることもある。

頭に浮かぶビジョンに意味を見出し、言語化し、可視化し、共通の認識として誰もが理解できるようにしていくことだと捉えると、もともとのデザインの意味って、実はすごく広いんですよね」(井登さん)

あらゆるビジネスが「サービス化」していく

なぜ、デザインという仕事の守備範囲がこれほど広がったのでしょうか。その要因の一つと考えられるのが、いわゆる「モノからコト(体験)へ」という消費スタイルの変化です。

まさに今、ビジネスや公共サービスの分野で、「単にカタチのあるモノをつくることから、モノを通して人々が得る体験全体をつくることに重心を移していく変化が起きている」と井登さんは指摘します。

「特にインターネット化が顕著な後押しとなり、デザインする対象は複雑化しました。

従来のモノ、例えば電気シェーバーのような工業製品の品質は買った時がピークで、しだいに劣化し最後は廃棄されます。

しかしそこにインターネットが入ってくると、アプリなどを使い、ユーザーのデータを収集しながらどんどんアップデートされて、ビジネス自体も変化していく。それが多くのビジネスがサービス化する一つの背景になっています」(井登さん)

インターネットによってデータや他のものと繋がった製品は、その製品の製造時やユーザーに購入された時点が完成形ではなく、常に仕様や機能がアップデートされていくことを前提に作られています。

このような潮流の中では、モノとサービスが一体化した製品が増えていくと井登さん。“モノとサービスは切り離せない”という前提のもとで製品やサービスを発想する考え方が、井登さんが提唱する「サービスデザイン思考」なのです。

売って終わりではない「サービスデザイン」とはなにか?

Image: Shutterstock

井登さんは、「サービスデザイン」がデザイン対象とする「サービス」には、次のような特徴があると言います。

・カタチがなく無形

・サービスの提供者(多くは企業)が一方的に顧客に価値を提供するのではなく、企業と顧客が一緒になって価値を創り出す

・買われた瞬間から関係が始まる

・顧客によって価値の感じ方は変化する

出典:Kotler, P., Hayes, T. J., & Bloom, P. N. (2002). 『コトラーのプロフェショナル・サービス・マーケティング』 (フィリップ・コトラー ポール・ブルーム著 ; 平林祥訳トーマス・ヘイズ, ed.)

このような「サービス」を最良の状態にデザインすることが「サービスデザイン」であると考えると、「サービスデザイン」は以下のように捉えることができます。

サービスデザインとは…

顧客が自覚していないレベルのニーズや欲求に対して、顧客との共創関係のもと価値を提案し、良い関係を持続する仕組みを持った製品・サービスを作り出すこと。それによって自社と顧客の双方のみならず、多様なステイクスホルダー間で価値を共有し、 循環できるビジネスの実現を目指すもの。

「サービスとは、製品を通して企業とユーザーが関わり合う中で、お互いに価値を生み出していくプロセスそのものなんです。

ユーザーはソファに寝転がって単にサービスを受け取るだけ、消費するだけではありません。ユーザーもそのサービスを、そのシステムを実際に動かしていくためのアクターとして参加してもらわなければならない。

…というところまでがサービスデザインであると考えると、非常に複雑性が増すことが理解できると思います」(井登さん)

井登友一さんに聞く「サービスデザイン思考」の育て方。後編では井登さんが「DXの真髄」と語る英国の市民サービス改革や、サービスデザイン発想を身につけるためのトレーニング方法など、「サービスデザイン思考」を自分の仕事に取り入れるヒントをお届けします。

▼後編はこちら

未来を見据えるピジネスパーソンの必須スキル「サービスデザイン思考」の育て方 | ライフハッカー[日本版]

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※株式会社インフォバーンは株式会社メディアジーンのグループ会社です。

Profile:井登 友一さん

Profile:井登 友一さん

株式会社インフォバーン 取締役 副社長 デザイン・ストラテジスト

2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行っている。また、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力中しており、関西の大学を中心に教鞭をとりつつ、京都大学経営管理大学院博士後期課程に在籍し、現在博士論文を執筆中。

HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長。日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト。

Source: NTT出版