TikTokなどでADHD(注意欠陥・多動性障害)に関する投稿に注目してきた人なら、生産性を向上し、タスクに集中しようとするための方法として、「ボディ・ダブリング(body doubling)」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
ボディ・ダブリングとは、ほかの人と同時に何かに取り組むことを意味します。その空間は、同じ部屋でも、オンライン上でもかまいません。
ボディ・ダブリングには、「アカウンタビリティ・バディ(仕事を完了させるための友だち)」という別名もあります。人間は、ほかの人が同じ場にいるだけで、集中してタスクをやり遂げよう、というやる気がわいてくるところがあるのです。
ボディ・ダブリングの効果
ボディ・ダブリングは、生産性の向上につながる方法の1つとして頻繁に活用されてはいますが、特別な名前で呼ばれたり、ライフハックだと意識されたりすることはないかもしれません。
たとえば、自宅にいると仕事に集中できないので、見知らぬ他人がいる場所で作業しようと思って、コーヒーショップに行くことがあるのではないでしょうか。
あるいは、家で孤独に運動をするよりも、ジムに行って、同じようにワークアウトに励む人たちに囲まれていたほうが、もっと頑張れる傾向が私たちにはあります。
どういうわけか、ほかの人に囲まれて取り組んだほうが、集中しようという意欲が増して、タスクを最後までやり遂げられるのです。たとえそのタスクが、普段なら絶対にやりたくないと思っているものであってもそうなのです。
ADHDを自称するブロガーで、アカウント名「Black Girl, Lost Keys」でツイートしているRen Brooks氏が先ごろ、米紙『ワシントン・ポスト』の記事で語ったように、形式張らないかたちのボディ・ダブリングは、これまで長きにわたって、私たちが暮らす文化の一部として存在してきました。
Brooks氏は、こう説明しています。
ほかの人と一緒に作業をするのは、共同体の本質のようなものです。昔から女性が担ってきた仕事を思い浮かべればわかります。
たとえば、女性たちが一緒にバターの攪拌作業をしたり、輪になってエンドウ豆のさやをみんなでむいたり、といったことです。
それはまさにボディ・ダブリングです。作業するためだけにその輪に入っているわけではありません。そこには、人とつながるという目的もあるのです。
ほかの人がいる場だと、ごく日常的でつまらない作業でも、やれるようになります。それが特に役立つのは、実行機能がうまく働かないADHDのような障害を持っている場合です。
けれども、たとえADHDではなくても、ボディ・ダブリングは、タスクに集中するうえで役に立つでしょう。
ボディ・ダブリングを活用する時の注意点
先ほどお話ししたとおり、ボディ・ダブリングはすでに私たちの生活の一部になっています。ということは、ほんの少し意識すれば、ボディ・ダブリングの力を活かして、さらに大きな効果を得られるということです。
ボディ・ダブリングは、対面だけでなく、オンラインでも可能です。
仕事を終えるための仲間を求めているのですから、一緒に取り組むのは、友だちでもいいですし、計画的に集めたグループでもいいのです。
ただし、ボディ・ダブリングには、それなりのリスクもあります。つまり、明確に線引きをしておかないと、一緒に取り組むという行為そのものが、集中力を妨げてしまいやすくなるというリスクです。
だからこそ、ルールをきちんと決めてからはじめると、もっとも大きな効果が得られるのです。
たとえば、集中して取り組むべきタスクをはじめる時は、最初にほんの少しの時間だけお喋りをする時間をつくって、そのあとは、一定の時間、各自がそれぞれのタスクに取り組むというルールを設けてもいいでしょう。
オンラインの場合には、ウェブ会議用ツールのルーム分割機能を使って、静かに集中するルームと、話し合いをするルームに分けることも可能です。
時間はかかるし面倒だけれども、集中力をさほど必要としないタスク、たとえば宿題などを済ませることが目的なら、目標を設定するとともに、前後にお喋りをする時間を挟めば、最後までやり遂げようという意欲がわきやすくなります。
家事などの場合には、友だちと電話などで話をしながら、互いにやるべきことをやる、というかたちでもいいかもしれませんね。
Source:CHADD, The Washington Post(1, 2), Twitter, Black Girl, Lost Keys, HealthyADHD