マネジメントやリーダーシップのあり方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
第3回後編は、前編に引き続きプロファシリテーターの園部浩司さんが登場。マネージャーとなり、チーム内のギクシャクした人間関係に悩んだこともあるという園部さんが身につけたマネジメント力を高めるさまざまなテクニックとその習得法、そして自身が考えるマネージャーの役割についても話を聞きました。
▼前編を読む
理想のマネージャーへ近づく「ロールモデル」の見つけ方

今でこそ「プロファシリテーター」を肩書きにする園部さんですが、自らもマネジメントに悩んだ経験を持ち、答えを求めてセミナーに参加したり本を読みあさったりと、これまでに多くの努力を重ねてきました。
そのなかで習得したのが、会議などの参加者から意見を引き出してまとめる「ファシリテーション」のスキル。その技術を体系化した著書『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』(かんき出版)は、多くのビジネスパーソンの助けとなっています。
ビジネスパーソンにとって、学びをくれる本はもちろん大切。同時に、目の前に「こうなりたい」と目指したくなるロールモデルがいてくれたら、どんなに心強いことか。しかし、理想像に合致するロールモデルがいない場合はどうすればいいのでしょうか。
それはたぶん、見えていないんでしょうね。ロールモデルがいないと不満を言っている人は、人の悪いところばかり見ているのかもしれません。誰にでも見習うべきところはあります。悪いところだって、反面教師にすれば学びはたくさんありますよ。
園部さんが引き合いに出すのは、会社員時代の上司3人。A部長は人心掌握術を持つ魅力的な人で、B部長は周りをピリっとさせる厳しい雰囲気を持ちながらも、その信念のある姿勢のおかげで部内はまとまっていたそうです。
そしてC部長はとにかく脇が甘い(笑)。でもなぜか部下が助けてくれるし、部下が成長するんですよね。僕はそのころ『悪い意味で隙がない』と言われて悩んでいたので、C部長みたいなマネジメントもあるんだなと、目からウロコが落ちるような気づきを得ました。
上司に限らず同僚や部下に対しても「ちょっと苦手かも…」と思っていた人のいいところを見つける。そんな視点を持てば、人間関係も今より円滑になるかもしれません。
本から知識を得て、職場で実践トライ&エラー

前編で、マネージャーに求められるのは「聴く力と質問力」と答えた園部さん。
さらに、問題解決の仕事が多い今、身につけておくべきスキルは「企画力」「プレゼンテーション力」「プロジェクトマネジメント力」「ファシリテーション力」「ロジカルシンキング力」「人格力」「コミュニケーション力」の7つ。
マネージャーの仕事は「業績拡大と人材育成」の2つだけ。
しかし、この2つは両立させることが難しい。かなり高度なテクニックが必要となります。それなのに、ルールや型を踏まえずに自己流のやり方と情熱だけでマネジメントをしようと言っても無理。将棋でも駒の動かし方は決まっています。いきなり王様を動かす人なんていませんよね。それと同じです。
そこで頼りたいのが先人の知恵が体系化された本。園部さんは課長になってから失敗が続き、なんとか力技で乗り越えてきたものの「自分には何かが足りない」と本を頼ったのだそうです。
1週間に2冊、それを2年やれば200冊になります。そのぐらい読むと「これ知ってる」「これは試した」と知識と実践が身についていることを実感できるはずです。
例えば、本屋に「企画力」の本が10冊売っていたら、全部買って片っ端から読むぐらいの勢いで本を読みましょう。
園部さんは、大切だと思うことにはマーカーを引き、その部分をエクセルに書き出して、ことあるごとに読み返していたそうです。そうして知識を入れて、仕事という実践の場でアウトプットし、振り返って改善する…。そうしていくうちに、自分の「型」のようなものができあがっていくそうです。
僕の場合は、自分の向上心が1、いろんなロールモデルからの学びが2、本から得た知識が7。そのぐらい本から得た学びや気づきは多いですね。
先ほど「ロールモデルがいないと嘆く人は、人のいいところが見えていないだけだ」とお話ししましたけど、それも本から学んだことです。
園部さんのおすすめ本については、この特集の総集編で紹介しますので、ぜひそちらも読んでみてください。
「この人と一緒に働きたい」と思われる上司に
最近、「若者の管理職離れ」が企業の課題となっていると聞きます。人を引っ張っていかなければいけない、より一層忙しくなってしまうといったイメージが、管理職という道を遠ざけてしまうのだと想像できます。
それはそうでしょうね。自分だけなら頑張ればどうにかなるかもしれませんが、部下がたくさんいれば頑張る工数も増えるし、人の気持ちやスキルをすべて背負うことになる。
部下からも上司からも文句を言われる。やっぱり大変です。
トラブルが発生して、立ち上がって、もう一回挑戦する…そんな強いメンタルを持っている人なんて、そういないですよね。
園部さん自身、責任とプレッシャーの下で心がつぶれかけたことがあるそうです。でもギリギリのところで回避できたのは、身につけたスキルと頼れる部下のおかげ。
責任感が強い人は自分でどうにかしようと頑張ってしまいます。実際、僕もそうでした。でも弱さを隠さずに部下を頼ったら、みんなが助けてくれた。「園部さんをつまずかせてはいけない」と言ってくれる部下もいて、感謝しかなかったですね。
部下は味方です。そんな環境をつくることができれば、どんなプレッシャーをかけられても何とかなるのではないでしょうか。
今、園部さんが目指すのは「一緒に働きたい」と思われる人であること。
一緒に仕事をしたら楽しそうな人っているじゃないですか。
たとえば、いつもポジティブな考え方をする、ネガティブな言葉は一切言わない。明るくて笑顔が素敵、話しかけやすい、人の話を聞いてくれる、責任感がある、誠実とか。そういう人に倣うといいと思います。
僕が憧れるのは、俳優の高田純次さんと高橋克典さんが演じたサラリーマン金太郎(笑)。スタートアップの若い社長さんたちにも「真似したいな」と思うところがたくさんあります。
どんな人と一緒に働きたいのかを考えて、そこに自分を近づけることが、理想のマネージャーに近づく最短の近道なのかもしれません。
仕事もマネジメントも楽しく!ときには本気で
園部さんが代表を務める「園部牧場」のコンセプトは「枠、超えよう!」というもの。起業に際し、「前例を踏襲するのではなく、常にそこから飛び出るぐらいの努力と工夫ができる人を育てたい」という思いを込めたのだそうです。
大きなジャンプではなくとも、牧場のヒツジが枠を飛び越えるぐらいの軽いジャンプでOK。これまでの常識に捉われない発想と視点をもって仕事に臨み、すべてのビジネスパーソンに仕事の楽しさを感じてほしいと感じているそうです。
しかし「いいマネージャーになりたい、マネジメントを極めたい」と願うのであれば話は別。
マネージャーの任務である「業績拡大と人材育成」を胸に刻み、自分にできることはすべてやる。そのぐらいの気持ちで取り組む時期が人生にあってもいいと思いますよ。頑張ってください。
園部さんが考える「マネジメント力の磨き方」まとめ
1. 自己流のやり方と情熱で何とかなると思わないこと。型となるビジネススキルを身につけよう。
2. 「聴く力」と「質問力」を磨いて、メンバーの本音を引き出し、チームコンディションを整えよう。
3. 「管理」のマネジメントが時代遅れとは限らない。大切なのは、仕事にあわせたマネジメントをすること。
4. 「ロールモデルがいない」は間違い。いろいろな人のいいところを吸収しよう。「反面教師」もあり。
5. 人を引っ張っていくことだけがマネジメントではない。部下を信じ、ときに甘え、頼ることも大切。
6. 前例という「枠」を飛び越えられるような仕事を心がけよう。「業務拡大と人材育成」というマネージャーの役割を胸に刻んで取り組もう。
園部 浩司(そのべ・こうじ)

プロファシリテーター。1991年、NECマネジメントパートナーに入社。経理部門を経て、事業計画部門へ異動。36歳でマネージャーとなるが、チームマネジメントがうまくいかずメンバーとの関係が悪化することも。さまざまなセミナーを受講するなかで「ファシリテーションスキル」に出会い、実践するうちにチームとの関係は良好になり、プロジェクトもうまくいくようになったという経験を持つ。2016年に独立し、現在は「枠、超えよう!」をモットーとした人材育成・組織変革・風土改革コンサル会社、園部牧場株式会社代表。これまでに指導した人数は、延べ1万5000人以上にのぼる。著書に『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術 』(かんき出版)がある。
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