マネジメントやリーダーシップのあり方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
第3回は、プロファシリテーターの園部浩司さんが登場。マネージャーとしてあるべき姿や、今の働き方に合ったマネジメント術を、チームマネジメントに悩んだ自身の経験とともに語っていただきました。今回は前編です。
▼後編を読む
今どきの部下は、何に悩み望んでいるのか?
人材育成・組織変革・風土改革コンサル会社「園部牧場」の代表を務める園部さん。会社員時代にファシリテーションスキルを身につけ、会社で最年少部長に抜擢されてプロジェクトを成功させるなどの成果を収めてきました。
ファシリテーションとは、簡単に言えば「会議などに参加する人たちの意見を引き出し、まとめること」。1on1やグループミーティングなどの会議はもちろん、ちょっとした立ち話にも活用できるスキルです。園部さんの会社では、年間2,500人ものファシリテーターを研修・コンサルティングを通じて育成しています。
多くのビジネスパーソンにふれるなかで、上司やリーダーの立場につく人がマネジメントという点で何に悩んでいるかを聞いたところ、「チームのコンディションをいい状態に保てないということでしょうね」と園部さんは話します。
なんのスキルも持たないまま、自分の経験や情熱だけで無理やりチームを仕切ろうとすれば、チームの雰囲気は悪くなって当然です。マネージャーとしての仕事の進め方とチームコンディションをいかに整えるかを学ぶ必要があります。
一方、マネジメントされる側、つまり後輩や部下は上司やリーダーに何を望んでいるのでしょうか。
自分の話をしっかりと聞いてほしい。話も聞かずに、一方的に指示をするのはやめてほしい。これはよくある不満の1つでしょうね。
上司やリーダーになる前は、みんな一度は誰かの部下を経験し、不満を抱くこともあったはずなのに、なぜ立場が変わると同じことをしてしまうのでしょうか。
マネジメント方法は、仕事にあわせて変える必要がある

「自分が引っ張っていかなくちゃ」と必死になる上司と、「もっと話を聞いてほしいのに」と不満を持つ部下。その溝が埋まらないのはなぜなのでしょう。
上から部下に指示をしたり、部下の前に立って引っ張っていこうとしたり、そんなマネジメントのスタイルは「時代遅れ」「古い」などと語られがち。しかし「決して古いとは限らないんですよ」と園部さんは続けます。
昔は仕事のほとんどがいわゆる「作業」でした。
僕は新卒で入った会社では経理をしていましたが、ひたすら計算をする、伝票を書くという作業がほとんど。そうなるとマネジメントは、ルール通りに作業をしているか、納期までにタスクが完了できるかを観察して評価して指導する「管理」のほうがいいんです。
しかしその作業がテクノロジーに取って変わられた今は、「作業+管理」のマネジメントが“古い”と言われてしまうのかもしれません。
しかし、鉄道会社といった厳格なルールやマニュアルが必要な人命に関わるような仕事では、今でも「管理」のマネジメントが有効なため「一概に古いとは言えない」というのが園部さんの見解。古さ、新しさにとらわれず、大切にしたいのは「仕事にあったマネジメントをすること」だそうです。
今は作業だけの仕事は少なくなりましたよね。社会の課題解決、お客様へのより良いサービス、社員の働く環境改善といった提案型、つまりクリエイティブな仕事がほとんどです。
テクノロジーが進化して、いろんな価値観が生まれるなか、必要となったのはチーム力や個々のモチベーション。それなのに、かつて自分が経験したマネジメントと同じように「いいアイデア出せ」「解決策、持ってこい」と指示命令をしてしまえば、部下と噛み合わなくなるのも無理ないですよね。
些細なひと言でも、チームの亀裂になってしまう
今でこそプロファシリテーターとして活躍する園部さんですが、初めてマネージャーになったとき、よかれと思ってとった行動によってチームの雰囲気が悪くなってしまい、とても悩んだそうです。2つのエピソードを話してくれました。
1つは、部下の意見や希望を聞かずに、自分だけでチームの進路を決めてしまったこと。「新体制になるから、これからはこうしてああして…と会議で熱弁をふるい、気がついたら場が静まり返ってみんなが青い顔をしていたという不思議な体験をしました」と園部さん。
今でも忘れられないですね。知恵を絞ってみんなの役割を考えて資料も完璧にまとめたのに、自分のなかではすごく課長らしく振る舞えたと思っていたのに、何が悪かったのかがまったくわかりませんでした。
あとで聞けば、やはり人の話も聞かずに一方的に決めてしまったことがダメだったみたいです。
もう1つも、部下の話を聞かなかったことで生まれた亀裂のエピソード。文房具などの消耗品を各部内で管理していたのを一元化し、効率化を図ったことに批判が集中したのだそうです。
SNSもない時代に、脅威の拡散力で僕のネガティブキャンペーンが始まりました(笑)。今となってわかるのは、「各部で備品を管理するなんて無駄だ」という僕の些細なひと言が、それまで一生懸命やってきた人の仕事を批判することになってしまった。
今の僕だったら、これまでの仕事を肯定し、「でももう少し効率化するなら、どんな方法があるかな」とみんなで考え、モチベーションにつなげるという方法をとったでしょうね。
その後、自分に欠けているマネジメント力を身につけるため、セミナーや本で学び続けたそうです。今は人を指導する立場にある園部さんにそんな体験があったと知ると「自分も変われるんじゃないか、いいマネージャーになれるんじゃないか」と希望が湧きます。
今マネジメントに必要なのは「聴く力」と「質問力」

先ほど、園部さんが教えてくれたのは「仕事にあったマネジメントをすること」の大切さ。業務内容に作業が多いのか、クリエィティブな提案が多いのかで、チームメンバーにかける言葉も変わってきます。
そのなかで、マネージャーが身につけておきたい能力を聞いてみると、園部さんは「聴く力」と「質問力」と即答します。
ただやみくもに傾聴すればいいというのではありません。自分が欲しい内容に応じた質問を出し、話してくれたらちゃんと聴く。質問と聴くことはセットなので、どちらも磨いてください。
ここで言う「自分が欲しい内容に応じた質問を出す」とは、決して誘導尋問するのではありません。課題解決の近道となる質問の投げかけ方を、園部さんが具体例を挙げて教えてくれました。
たとえば、会議を改善したいと考えたとします。園部さんはスムーズな会議を妨げる原因に「論旨の脱線と、ダラダラと話す人」があると思いつきました。しかし原因はもう少しありそう。そこで、みんなに相談を持ちかけることに。
そこで、「よりスムーズに会議を進めるためにはどうしたらいいですか?」と聞いてしまうのはダメなんです。なぜなら「少人数でブレストをしてから会議に臨むほうがいい」「社員一人ひとりが意見を持ちあって…」といった意見が出てしまい、僕が望む答えから遠ざかってしまうんです。
僕なら「社内の会議でイライラすることは?」と聞きますね。そうすると「目的が不明瞭な会議が多い」「意見を出す人がいつも同じ」といった社員の本音も引き出せて、改善へとつながりやすくなるから。
もしチーム内に課題があるとしたら、みんなの本音を引き出しつつ、課題解決と向かえるような質問を考えてみる…。そんなシミュレーションなら、通勤時間といった少しの時間でもできそうですね。ぜひ試してみませんか?
さて、前編はここまで。次回後編は、マネージャーとしての役割とスキルの身につけ方について、引き続き園部さんにお話をうかがいます。
▼後編を読む
園部 浩司(そのべ・こうじ)

プロファシリテーター。1991年、NECマネジメントパートナーに入社。経理部門を経て、事業計画部門へ異動。36歳でマネージャーとなるが、チームマネジメントがうまくいかずメンバーとの関係が悪化することも。さまざまなセミナーを受講するなかで「ファシリテーションスキル」に出会い、実践するうちにチームとの関係は良好になり、プロジェクトもうまくいくようになったという経験を持つ。2016年に独立し、現在は「枠、超えよう!」をモットーとした人材育成・組織変革・風土改革コンサル会社、園部牧場株式会社代表。これまでに指導した人数は、延べ1万5000人以上にのぼる。著書に『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術 』(かんき出版)がある。