投資で失敗したくない――誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。
「未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えしています。
しかし、投資をするためには「元本」が必要。ただでさえ「物価高」が続く今、どうすれば元本をつくることができるのでしょうか? そこで、Youtubeチャンネル「Tokyo Simple Life」で「より小さくより豊かに暮らす」をテーマに情報を発信しているデザイナーのTommyさんに、シンプルな生活を送ることの経済的メリットをはじめ、その基本的な考え方やモノの片づけ方などについてお聞きしました。今回は後編です。
▼前編はこちら
「シンプルに暮らす」ための3ステップ
毎日部屋を見回しては、モノを減らしてスッキリしたいと思うけれど、どこから手をつけていいかわからない、という人も少なくありません。Tommyさんは、以下のような手順でモノを減らしていくことをすすめています。
- 所有物を見直す
- 不要なもの、価値がないものを手放す
- 片づけをルーティンにする
まずは自分が何を持っているのか、チェックするところからはじめましょう。仕事もそうですが、現状を把握しないと改善点も見つかりません。
気になっているのに面倒でそのままにしている箇所はないか、時間があったら片づけようと思って後回しにしている部分はないか。
そういうところを確認すると、以前は必要と思っていたけれど、今見てみたら不要なものや、処分しようと思ったままクローゼットの奥にしまいこんでいたものなどに気づくと思います。
何を不要とするかは、その人それぞれ。モノを処分する際には、自分にとって何が大事で、何が大事でないのかをハッキリしておくことが重要、とTommyさんは強調します。
自分にとって必要でないものでも、他の人にとっては必要ということもあります。普段は無意識に選択しているかもしれませんが、自分自身の価値基準を一度書き出してみるとモノを手放すときの判断がしやすくなると思います。
その時、常識とか世間一般の価値観を基準にするのはおすすめしません。例えば、「いい時計をたくさん持っているとカッコいい」という世の中の価値観で選ぶのではなく、あくまで基準は自分自身。
自分の価値観で行動できていれば、結果的に多くのモノに囲まれたとしても、それがその人にとってのシンプリスト生活なのです。
片づけを「ルーティン化」するコツ
ただし、普通に生活をしているだけでもモノは増えていくもの。DMなどの郵便物や宅配で届いた段ボール、テーブルに置いたままのマグカップ、椅子の背にかけたカーディガンなど、気を抜くとあっという間に部屋が雑然としてしまうという経験は、誰でもあるはず。
そのため、片づけを習慣化することが必要です。Tommyさんは、そのポイントは「いきなりすべて片付けようとしないこと」と指摘します。
例えば、「今日はここだけやろう」と決めると、片づけのハードルを下がります。例えばクローゼットの右半分だけとか、キッチンの一番上の引き出しだけとか。
週に1回、15~30分ほどで終わるエリアにしぼり、あとはそれをずっと続けていくだけです。私も、毎週土曜日の朝に片づけることをルーティンにしています。
片づけは歯みがきやお風呂に入るのと同じように、「イベント」ではなくて「習慣」にしていきます。それをやるのが当たり前、やらないと気持ち悪いという感覚になっていけば、うまく回るようになります。
私自身、土曜になると片づけしたくてウズウズする感じになっています。目に見えてきれいになると達成感があり、次はどこをやろうかなというモチベーションにもつながります。
部屋づくりのコツは「シンプル7:複雑3」

片づけがルーティンになって、不要なモノが減っていくとだんだん部屋がスッキリしてきます。そうなると、逆に「部屋がさみしい」「物足りない」と感じるようになることも。
そこからは、「心地よさを足していく」フェーズに入る、とTommyさんは説明します。
このときも、振り子のように足したり、引いたりして、自分で心地よいと思うバランスを探していきますが、基本的には「シンプル7:複雑3」くらいがおすすめです。
ここでいうシンプルは、ミニマリスト寄りというか、10まで突き詰めるとほぼ何もないような部屋になるような方向性です。
一方複雑というのは、人間味やラフさ、好きなものを好きなように置くイメージでしょうか。こちらも突き詰めるとただ雑然としたゴチャついた部屋になります。
ですから、少しさみしいかな?というぐらいのところをベースにしながら、そこに複雑さやラフさを少し足す。そうすることで、部屋の雰囲気が垢抜けたものになっていきます。
雰囲気のある部屋作りにするために、もっとも簡単に取り入れられるものは2つ。その1つは、観葉植物を置くことです。
部屋に植物があることでうるおいが生まれるのはもちろん、さまざまな研究や実験によって、ストレス軽減効果や集中力が高まる効果があることが示されています。
ベランダに余裕があれば、ボリュームのある鉢物を置くと、見栄えがします。土を置くことに抵抗がある場合は、フラワーベースにドウダンツツジやユーカリなど、大ぶりな枝物を飾るといいでしょう。
水を取り替えるなどお世話が面倒ということであれば、水が必要ないエアープランツもあります。
もう1つは、照明を変えること。日本の家屋は、天井からのシーリングライト1つで部屋全体を均一に照らすのが一般的ですが、影がないので単調な印象になり、見たくないものも目に入りやすくなります。
天井照明をやめるか、照度を落とし、間接照明を複数配置することで、部屋に陰影が生まれて雰囲気がガラッと変わります。モノが立体的に見えて奥行きが感じられるようになり、ドラマティックな印象を醸し出すのです。
例えば、ホテルのラウンジや部屋、カフェなど、自分が居心地がいいと感じる空間があれば、どのような照明が使われているのか、よく見てみると参考になるかもしれません。
仕事もシンプルに考えるとパフォーマンスが最大化できる

毎日を気持ちよく過ごしたい。人生をもっと楽しみたい。そのために取捨選択するTommyさんの考え方は、仕事においても変わりません。
片づけは、自分にとって必要なものと不要なものを取捨選択して、整理することが原則です。仕事も同じで、すべてを等しくやるのではなく、やりたくない仕事を減らし、やりたい仕事に集中するようにしています。
私は会社員なので、上司からやれと言われたら、もちろんやらなくてはいけません。それでも、報告や連絡など、どうでもいい仕事は最低限しかやらないことにしています。
同じ理由で、残業もなるべくしません。そうすることで、何からはじめてどんな段取りで進めるのが最も効率的かつ成果が上がるかを考えるようになるため、仕事の生産性が上がりました。
時間やエネルギーといった自己資産を、自分が大事だと思うことに投資すること、それもシンプリストだと思っています。この考え方によって、仕事のパフォーマンスも最大化できていると感じています。
そんなTommyさんが心がけていることが、「モーニングページ」。これは、毎朝、心に浮かんでくるものを3ページ分書き留める方法で、ジュリア・キャメロン著『ずっとやりたかったことを、やりなさい』(サンマーク出版)を参考にしたそうです。
生きていると、いろいろなことを考えますよね。意識的に考えているだけでなく、無意識に考えていることもあり、そのうちに自分でも何が大事なのか、何をやっているのかがわからなくなってしまうことがあります。
モーニングページは、そんな複雑に絡まった思考を認識し整理するのにも役立ちます。
私の場合は、毎朝1ページ、思い浮かんだことをiPadにペンシルで書き込んでいます。手を動かして書くことで思考が整理されて、自分が考えていることが認識でき、次にやりたいことが見えてくるのです。
今後も自分の好きなこと、大切なことを見極めていきたいと話すTommyさん。
ワークとライフは、私にとって車の両輪です。理想の暮らし方を追究すると、そのためにどう働くかも追究する必要があります。
私が目指しているのは、ワークとライフが調和する“ワーク・ライフ・ハーモニー”というライフスタイル。効率を追求するだけでなく、自分の感情に正直になって、ワークもライフも取捨選択していきたいと思っています。
TommyさんのMy Favorite Item
●ボーエ・モーエンセンJ39

デンマークのデザイナー、ボーエ・モーエンセンによりデザインされた「シェーカーチェア」。デンマーク人の多くは「初任給で椅子を買う」と言われるほど、日常を共に過ごす家具を重要視します。Tommyさんも「社会人になったばかりの頃に買った椅子で、とても思い入れがあります」と語ります。「最低限の強度を保ちながら極限までシンプルに作られた実に美しい構造の椅子。その佇まいがとても気に入っています」。
●鳥部製作所「キッチンスパッター」

刃物の産地として有名な新潟県三条市の鳥部製作所による、切れ味、衛生面、デザイン性そのいずれも網羅したキッチンバサミ。「洗うときに取り外せるようになっており、とても衛生的で、その機能美含めてとても愛用しています」。
●koromo table top

手持ちのテーブルやデスクに乗せるだけで、質感を変えることができるテーブルトップ。弁当の蓋のような形になっており、既存の天板を覆い一体化し、まだ使えるテーブルをゴミにしません。「洗練されたマットな質感を持つ天然素材のリノリウムの質感が気に入っています。お部屋がより洗練し、見慣れた食事や仕事がより豊かに感じられます」。
Tommy(トミー)
デザイナー。大阪大学大学院工学研究科でデザインとエンジニアリングを学ぶ。大学院修了後、メーカーに就職。会社員として働くかたわら、自身のブランドを設立し、家具のデザイン・設計・販売も行っている。YouTubeチャンネル「Tokyo Simple Life」は、動画配信開始2年でチャンネル登録者数20万人を超える人気チャンネルに成長。著書に『シンプリスト生活』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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Photo: Tommy/Source: YouTube