投資で失敗したくない――誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。
「未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えしています。
しかし、投資をするためには「元本」が必要。ただでさえ「物価高」が続く今、どうすれば元本をつくることができるのでしょうか? そこで、YouTubeチャンネル「Tokyo Simple Life」で「より小さくより豊かに暮らす」をテーマに情報を発信しているデザイナーのTommyさんに、シンプルな生活を送ることの経済的メリットをはじめ、その基本的な考え方やモノの片づけ方などについてお聞きしました。今回は前編です。
▼後編はこちら
「節約」ではなく「好きなものだけ」に囲まれる暮らしを
日々流れる「値上がり」のニュース。食品から日用品まで、あらゆるものの物価が高騰しています。「また値上げか…」とゲンナリしている人も多いことでしょう。
そうなると当然、「節約」することを考えなくてはいけませんが、さまざまなことを「ただ我慢する」というのは辛いものですし、長続きもしないもの。どうせなら、うまく生活をダウンサイジングしながらも、より幸せになる方法はないものでしょうか。
自分が本当に好きなモノ、やりたいことのために必要なものはしっかり所有しつつ、余分なモノはできるだけ減らしてシンプルに生きる。私はそういう暮らし方、考え方を提案しています。
結果として日々を心地よく過ごし、しかも経済的なムダが削られるので支出がダウンサイジングされる。そんなシンプルな暮らし方、働き方を実現できれば人生はより幸せで豊かなものになる、そう思っています。
YouTubeチャンネル「Tokyo Simple Life」で「シンプリスト」として情報を発信しているデザイナーのTommyさんはこう語ります。
東京都内の35平米のワンルームマンションにパートナーと2人で暮らしているというTommyさん。
日本の一人当たりの平均住宅床面積は36平米と言われており、Tommyさんたちが住んでいる部屋はその約半分の広さしかありませんが、そこはTommyさんにとっての「好き」だけが詰まった、世界で最も快適な場所なのだそうです。
ミニマリズムに傾倒し、モノを減らすことが目的になってしまった
そもそも、Tommyさんがそうした生活を始めるきっかけは、大学入学時に一人暮らしを始めたことでした。デスクやイス、ベッド、こたつなどを実家にいた時と同じ感覚でワンルームに持ち込んだところ、部屋が物であふれかえってしまった、と振り返ります。
結局、居心地が悪くなり、部屋に帰らずにカフェや図書館で勉強していたとき、出合ったのが「ミニマリズム」でした。
“何もない部屋”が象徴的なミニマリズムという考え方を知って、私もだんだんと部屋の中のモノを減らし始めました。そのうちにその考え方をより突き詰めていくようになり、掃除機もトースターも処分しました。
でも、モノを減らして満足した一方で、「もっと減らしたい」「次は何を減らそうか」と考えるようになっていったのです。
ミニマリズムの本来の目的は「部屋を心地よくして毎日を気持ちよく暮らす」ことのはずなのに、いつの間にか「モノを減らす」という手段が目的になってしまっていることに気づいた、とTommyさんは話します。
そのころ、登山をはじめたいと思っていたものの、そのためには服や装備などを揃えなくてはならず、ミニマリストを目指していたのであきらめていました。
でも、ある時、自分がやりたいことがあるのに、「モノを減らしたいから」という理由でやらないのはおかしい、と思ったのです。
人生100年時代といわれますが、これまでの人生があっという間だったのと同じように、これからの時間も過ぎていくはず。
やりたいことがあるのならすぐにやったほうがいいし、暮らしは毎日のことなので、その心地よさが人生の質に直結すると考え、追求しはじめました。
そうして行きついたのが、自分にとって一番大事なものを見極めて、それ以外を手放す「シンプリスト生活」でした。
シンプルに暮らすと家賃もムダな支出も減る

Tommyさんの家には、テレビもソファもありません。それどころか、炊飯器や洗濯カゴなどおよそ一般的な生活では必ずあると思われるものが存在しないのです。
私が実践しているシンプリスト生活の最も大きなメリットは、住居費が安く済むことだと思います。
今、私が住んでいる35平米のマンションは、一般的に見ると手狭だと思いますが、私自身はストレスを感じていません。それは、モノを厳選して取捨選択して持っているからです。
モノを増やすとそれを置くスペースが必要になり、結果として家賃に跳ね返ってきます。つまり、ただモノを置くために高い家賃を払っていることになります。
例えば、20平米で8万円の家賃だとすると、1平米に月々4000円かかっている計算になります。自分たちが心地よく暮らすために必要なものならいいのですが、月々数千円を払ってまで持っている価値があるかと考えると、おのずと取捨選択できるのではないでしょうか。
自分のお気に入りのモノを揃え、好きではないもの、なくても困らないものは潔く手放す。そんなシンプリスト生活のもう1つのメリットは、自分の家が「世界一、居心地がいい空間」になること。
自分の家にいて気持ちいいと感じるようになると、ムダな外出が減ります。例えば、カフェに行って作業することも減るので、移動のための費用やカフェでの飲食代がかからなくなります。
もちろん、たまの気晴らしにカフェへ行くことを否定しているわけではありませんし、私自身も週末は、空間やお茶を楽しむために出かけることが多いです。
「ハレとケ」という考え方が日本にはあります。古来より、祭礼などを行う日を「ハレ」の日、普段通りの日常を「ケ」の日と呼び、日常と非日常を使い分けていたそうです。
家を自分にとって最高の空間にすれば、日常的には自宅で十分満足です。頻繁に外出する必要がなくなるし、たまに行くカフェがより特別な時間となり楽しめます。結果として、ムダな出費も減るのです。
買い物はストレス発散方法の一つですが、Tommyさんは、シンプリスト生活をすることによって、それも減ったと言います。
家の中が心地よく保たれているのでストレスがたまりにくくなり、発散のための買い物はしなくなりました。また、ストレス発散が目的の買い物は、そのモノによって部屋の心地よさが低下することが多く、結果としてむしろストレスになってしまうことが多いと思います。
モノを増やしたり、減らしたりしながら自分に合ったバランスを探る

では、Tommyさんがモノを買わないのかというと、そんなことはありません。
自分が好きなモノ、心地いいと感じられるモノしか部屋に入れたくないのですが、実際は家に入れてみて、使ってみないと本当のところは分かりません。
もちろん、買う前には必ず検討します。部屋に置いてみたらどうなるか、紙などで模型を作ったり、フォトショップで写真を合成してシミュレーションしたりして、欲しいと思ってから1週間~1カ月はその気持ちを寝かせてみます。
それでもやっぱり欲しい、と思ったら、そのときはためらわずに購入します。
Tommyさんがモノを選ぶときに惹かれるのは、機能的な価値と情緒的な価値の両方を兼ね備えたもの。
椅子なら、自分の体に合っていて座りやすかったり、作りがしっかりしているなどの機能的な価値と、フォルムが美しかったり、デザイナーの背景に思いを馳せるというような情緒的な価値、どちらもあるものを選んでいます。
モノを選ぶときにも、シンプリスト生活の考え方と同様に、効率を追い求めていくだけでなく、自分の気持ちや感情も大切にしたいと考えているのかもしれません。
買ったものは1~3カ月ほど使ってみたり、部屋に置いてみたりして、やっぱりこれはなくてもいい、必要ないと感じたら、すぐに手放すというTommyさん。
そこには、「モノを増やしたり、減らしたりしないと、自分にとっての一番いいバランスが見えてこないのではないか」という思いがあります。
就職や転職、結婚して家族が増えるなどライフスタイルが変わることで、自分自身も変化していくかもしれません。そうであれば、自分がいいと思うもの、必要だと感じるものもまた、変わっていくはずです。
ですから、振り子のようにモノを増やしたり、減らしたりして、今の自分に合っているかどうかを振り返ってみることが大切ではないかと思っています。
「モノより体験」ではなく「モノこそ体験」
モノを手放すときにも、Tommyさんは「ただ捨てる」ことはなるべくしません。モノは家々をバトンのように回していく回覧板と同じで、買ったものは世の中みんなのもの。一時的に借りているだけと考えています。
不要になったモノは、必要としている誰かにお譲りしたほうが、モノにとっても幸せだと思います。
今は、メルカリなどのフリマアプリが充実しているだけでなく、寄附や宅配買取など、いろいろな方法が選択できます。そういう意味でも、モノを買うハードルは低くなりましたね。
そこでちょっとした資金回収ができますし、購入金額との差額は次の買い物をするための勉強代と考えるようにしています。
「モノより体験」と言われるようになって久しいですが、Tommyさんは「モノこそ体験」ではないか、と話します。
家具にせよキッチン用品にせよ、「よいモノ」を使うと、時間の質は何倍にもなると感じます。
例えば、照明がつくり出す柔らかく心地よい光の空間で過ごす夜の時間は、心までやさしい気持ちにしてくれます。よいモノを使うことは、よい体験につながっている。私はそう思っています。
後編では、自分らしくシンプルな部屋を実現するための具体的な方法についてお聞きします。
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Photo: Tommy/Source: YouTube
Tommy(トミー)
デザイナー。大阪大学大学院工学研究科でデザインとエンジニアリングを学ぶ。大学院修了後、メーカーに就職。会社員として働くかたわら、自身のブランドを設立し、家具のデザイン・設計・販売も行っている。YouTubeチャンネル「Tokyo Simple Life」は、動画配信開始2年でチャンネル登録者数20万人を超える人気チャンネルに成長。著書に『シンプリスト生活』(クロスメディア・パブリッシング)がある。