投資で失敗したくない──誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。
「未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えします。
最近ニュースなどでよく見かける「NFT(エヌエフティー)」という言葉。「言葉は聞いたことがあるけど、いまいちよくわからない…」という人も多いでしょう。投資を考えるうえで今後大きなカギになりそうなNFTについて、今私たちが知っておくべきことは何か?
ブロックチェーン技術で初期のころから活躍してきた“お金の科学者”にお話を聞きました。今回は後編です。
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ミアン・サミ

「お金の科学者」として活躍する国際人。1980年、東京・品川で生まれる。両親はパキスタン人。日興シティグループ証券、イギリス系のヘッジファンド、ドイツ証券などでディーラーとして活躍。著書に『毎月5000円で自動的にお金が増える方法』(かんき出版)、『教養としての投資入門』(朝日新書)など。現在はタイ・プーケット在住。Blade Web3 Foundationの創設者であり、ブロックチェーン技術等を活かした複数の企業の経営者でもある。
ブロックチェーン技術を生かしたさまざまなビジネスと非営利活動を行なっているミアン・サミさんは、現在、NFTに関するビジネスを世界的に展開しています。
2008年のリーマンショック後、「あらゆる社会問題はファイナンシャルリテラシーの格差が要因で起こるのではないか」と思い至り、マネーに関する書籍執筆や講演を行なってきたサミさんは、2017年にブロックチェーン技術の世界に入りました。
それは、ファイナンシャルリテラシー以前の課題に気づいたから。
世界のおよそ5分の1の人は、経済的に除外されていると言われています。言語の壁、ファイナンシャルリテラシーのなさ、金融機関へのアクセス、貧困…。
日本でもファイナンシャルリテラシーが問題になっていますが、それ以前というレベルの人たちが世界にはたくさんいるのです。
しかし、技術革新が進み、「Web3.0」の時代が見えてきたとき、世界人口の5分の1の人たち(約16億人)が、経済システムの中に入れるようになるかもしれない、と大きな可能性を感じたんです。
以前、伝統的な金融機関に勤めていたサミさんは、経済的に除外されている人たちの「信用を担保する」のが金融機関である以上、この社会問題を解決することは不可能だろうと考え、ブロックチェーン技術に目を向けました。
2017年ごろから暗号資産の一つでもあるビットコインが日本でも大きな話題になったのは記憶に新しいところです。
伝統的なお金は国が「信用を担保」していますが、ビットコインはコンピューターが「信用を担保」するようにできています。
「信用を担保」する作業が人間からコンピューターに移行することで金融コストが激減するメリットがあると言われていました。
しかし、ふたを開けてみればビットコインも取引コストが高く、その上環境負荷が多大なことが浮き彫りになりました。問題解決の糸口が見つからず、諦めかけていた時に「ヘデラ・ハッシュグラフ」という第3世代ブロックチェーン技術に出会いました。
1秒に数十万回もの取引が可能な上に環境負荷がほぼなく、取引コストが1円未満に抑えられる技術です。1日24時間365日稼働し、書類や店舗、スタッフも不要な金融機関のようなものでしょう。
取引コストが1円未満になったことで日給100円未満の貧困層をも世界経済圏に取り込むことが可能になりました。
今ではインターネットやスマホがなくてもお金の送金が可能になるシステムもアフリカなどで稼働しています。
この「ヘデラ・ハッシュグラフ」という技術を根幹から理解するために2018年に初期メンバーとして加わり、アジア統括責任者に着任しました。
SDGsに貢献する活動、寄付をするとそれに応じたNFTを発行

その後、2021年5月に独立、サミさんはシンガポールに「BLADE財団」という非営利団体を立ち上げました。
「BLADE 財団」の目的は、Web3.0の技術を活用し、経済的に除外されている17億人の人たちを一気に世界経済圏に取り込むこと。
例えば日本ではゴミの分別やリサイクルが一般的ですが、このような「世界に貢献」する活動をしたら、その行動を自分のスマホが自動的に判別し、仮想通貨が振り込まれるような仕組みをつくろうとしています。
家にある電化製品の「エコモード」を使ったら、それを電化製品が自動的に判別し、二酸化炭素削減分を仮想通貨としてスマホに送金するシステムも開発中です。
日本のような先進国でも使える技術ですが、私が今住んでいるタイのプーケットのような貧困層がたくさんいるような場所なら、よりその機能を活用できると考えています。
例えば、銀行口座を持っていない漁師がいたとして、「世界に対してよいこと(海に浮かぶゴミを回収するなど)」をし、写真に撮ってスマホにアップするとしましょう。すると、その行動が自動的に判別されて、モバイルに仮想通貨が振り込まれ、近くにある店舗でその仮想通貨をモノやサービスに交換できる…そんな仕組みを構築中なのだそうです。
BLADE財団が定義する「世界に対してよいこと」とは、SDGsの17項目の目標に当てはまるようなことです。
※持続可能な開発目標(SDGs)とは、国連が推進している、すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真。貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指している「世界に対してよいこと」を具体的な行動にしています。
例えば、今私たちがプーケットで進めていることの一つが、経済的な理由などで学校に行くことのできない子どもたちを支援するために、物品を配る活動です。
1セット100ドルの物品パッケージの中身は、5キロの白米、32個の卵、1パックのマスク、鉛筆、消しゴムや定規、英語の教科書など。SDGs1-4の「貧困」「飢餓」「保健」「教育」などの目標に当てはまります。
日本企業でもSDGsに力を入れているところは多いと思いますが、その一環で仮に3万ドルの寄付をいただいたとすると、このパッケージを300個、子どもたちに届けることができます。
ここまでは一般的な寄付活動と何ら変わりはないですが、ここからがWeb3.0のすごいところ。このパッケージを配る行動をすること自体がSDGsに貢献しているので、その行動が自動的に判別され、スマホにSDG1、SDG2、SDG3、SDG4といったNFTが送付されます。このNFTは前回も説明した通り、誰が、いつ、何をしたという記録がすべて反映され、ネット上で一般公開されます。
さて、SDG1という「貧困をなくそう」という行動をした人のスマホに振り込まれた「SDG1のNFT」にはどんな価値があると思いますか?
もちろん世界に貢献したという意義もありますが、このNFTを購入して換金してくれる人や企業が世界にはたくさんあります。
実際に国連はこのような活動に2030年までに200~300兆円の予算を投じると明言をしています。
この仕組みがあれば、世界人口17億人の人たちを雇用し、「世界をよくする」という「職」に就いてもらい、銀行口座がなくてもスマホに「給料」を送金することが可能になるのです。
ゲームで遊ぶだけで収益が得られる時代に
2022年4月には、このNFTを換金し、恩恵を受け取れるスマホアプリ「Blade Wallet(ブレードウォレット)」をローンチしました。
Blade WalletはWeb3.0の価値を表す仮想通貨やNFTを購入、受領、換金などができるモバイルやウェブに対応しているアプリです。
少し前に、フィリピンでは、子どもから大人まで、NFTゲームをすることでポイントを稼ぎ、フィリピンの最低賃金を上回る収入を得ることも可能になったと話題になりました。
モバイル端末を持っている人がゲームで遊ぶことで、仮想通貨を稼げるようになれば、それによって必要な食べ物や教育を得られるようになる。これも、世界をよりよくするSDGsにもつながります。
おかげさまでローンチ1カ月足らずで4万人もの人にダウンロードされ、すでにたくさんの人たちの「行動の現金化」に貢献しています。
Blade Walletの活用方法は簡単です。例えば、スマホでSlime Worldというゲームをダウンロードすると、そのゲーム内にはBLADEというボタンがあります。このボタンを押すことでゲーム内で稼いだポイントを仮想通貨に変換し、換金することが可能になるのです(Play Storeなどの国設定で遊べないこともあります)。

つまり、あなたの時間をゲーム活動に変換し、ゲーム活動をゲーム内ポイントに変換し、Bladeがそのゲーム内ポイントをゲーム外でも使用、換金できる仮想通貨に変換してくれるのです。
サミさんは、既存のゲームを「NFT化」する「BLADEボタン」を広げる活動をしているのだとか。
Web2.0のモバイルゲームは日本と韓国の市場が多く、10億人以上のプレーヤーの可能性があります。アメリカの市場も同じくらいの規模です。
モバイルゲームをNFTゲームにするBLADEボタンを、日本や韓国、アメリカのゲーム会社に提供すれば、今後さらに広がっていくと考えています。
今後、NFTは生活に根付いたものになっていく
少しずつ私たちに身近になってくるであろう、NFT。「今はよくわからないかもしれませんが、今後必ず主流になっていきますので、ぜひ少し触ってみてください」とサミさん。
インターネットが急速に普及したことと同様に、NFTやWeb3.0の世界も今後生活に密着したものになっていくはずです。世界的に注目され、ビジネスに活用されはじめている分野ですので、ぜひ一度試してみてください。
便利さや楽しさが実感できれば、その価値も理解できるようになるでしょうし、ビジネスの可能性も感じられると思います。
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Source: Blade Wallet, Slime World/Image: GettyImages