投資で失敗したくない──誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。

未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えします。

最近ニュースなどでよく見かける「NFT(エヌエフティー)」という言葉。「言葉は聞いたことがあるけど、いまいちよくわからない…」という人も多いでしょう。投資を考えるうえで今後大きなカギになりそうなNFTについて、今私たちが知っておくべきことは何か?

ブロックチェーン技術で初期のころから活躍してきた“お金の科学者”にお話を聞きました。今回は前編です。

▼後編はこちら

ゲームでNFTや仮想通貨を稼げる時代に? 投資と社会貢献を両立する仕組みとは | ライフハッカー[日本版]

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ミアン・サミ

ミアン・サミ

「お金の科学者」として活躍する国際人。1980年、東京・品川で生まれる。両親はパキスタン人。日興シティグループ証券、イギリス系のヘッジファンド、ドイツ証券などでディーラーとして活躍。著書に『毎月5000円で自動的にお金が増える方法』(かんき出版)、『教養としての投資入門』(朝日新書)など。現在はタイ・プーケット在住。Blade Web3 Foundationの創設者であり、ブロックチェーン技術等を活かした複数の企業の経営者でもある。

Twitterの元CEOの初ツイートが3億円超で落札

2021年3月、Twitterの元CEOであるジャック・ドーシー氏の初ツイートのNFTが、オークションで約3億円超で落札され(売り上げは全額寄付したとツイート)、話題になりました。

同様に、デジタルアート作家のマイク・ヴィンケルマンのNFT作品は約75億円で落札されました。日本でも、人気漫画のカラープリントや人気アイドルのトレーディングカードなどのNFTが高額で取引されるなど、市場が活発化してきています。

実態を持たないデジタル資産であるNFTがなぜそのような高値で取引されるのか? 不思議に思う人は少なくないでしょう。

「NFT」とは、「Non-Fungible Token」の略称。Fungible(ファンジブル)とは「代替・交換可能な」という意味があるため、NFTは「非代替性トークン」と呼ばれています。唯一無二、他と交換することができない世界に一つしかないデジタル資産ということです。

Token(トークン)とは、ブロックチェーン等の技術を活用して発行された仮想通貨のこと。今では誰でも簡単にあらゆるデータを「NFT化」することができます。写真、動画、文字、著作権や.walletや.cryptoのようなドメイン名まで「NFT化」できるようになりました。

「そう言われても、よくわからない…」という人も多いはず。ブロックチェーン技術を生かしたさまざまなビジネスで活躍中のミアン・サミさんは「『所有権』と考えるとわかりやすい」と話します。

例えば、あなたが戸建てやマンションなどの不動産を買ったとして、それを「自分のもの」と所有権を他社に証明できるのは、“登記簿”があるからですよね。登記簿は現在だけでなく、過去の所有者の情報もさかのぼることができます。

それと同じように、NFTは「誰のものか」という所有権を第三者に証明できる、デジタル署名が刻まれた資産ということなのです。

日本の登記簿は国が管理していますが、NFTの場合はブロックチェーンに参加しているコンピューターが付与したデジタル署名によって管理され、所有権を第三者に対して証明できる、とサミさんは続けます。

「このデジタル資産(データ)は私のもの!」と他者に証明できるようになったことで、公益(著作権なし)だったものが私益(著作権あり)になり、デジタル資産(データ)に価値をつけることもできるようになります。

今では、実世界で取引されている土地や建物と同様に、インターネットの世界でしか存在しない土地や建物の所有権を証明するNFTも自由に取引できるようになっています。

他にも、例えばこれまでゲームの世界で得たお金やアイテムはそのゲーム内でしか使えなかったし、取り引きできないものでした。しかし、ゲーム内のアイテムを「NFT化」することでそのゲーム外でも第三者に対してアイテムの所有権を証明できるようになります。

つまり、ゲーム外でもそのアイテムが取引できるようになるので、アイテムを買ってくれるかもしれない人が増え、価値が上がったりするようになるのです。

NFTの価値は「コミュニティーの大きさ」で決まる

そんなことあるの? 結局リアルな世界で実在はしないものでしょう?

そんな風に、まだ半信半疑の人もいるかもしれません。

しかし、一見大した価値のないと思われるものに信じられない高値がつく、ということ自体はこれまでも普通に見てきたはず、とサミさんは続けます。

例えば子どものころ、お菓子についているシールやトレーディングカードに希少価値がついて、本来の価格の何倍も高値で取引されたりしましたよね。

これは、ただの紙やプラスチックに過ぎないものに、多くの人が高い価値を感じ、欲しいと思ったから付加価値がついた。

これと同様に、NFTの価値もその作品に対するファンの多さ、ひいてはコミュニティーの大きさや強さで決まるのです。

それでもなお「リアルな資産じゃない」と思う人もいるかもしれませんが、今や時代は消費できたり使用できたりするものの付加価値は、社会的欲求や承認欲求を満たす「リアル以外の資産」に移行してきています。特に先進国ではこの流れが鮮明、とサミさんは話します。

リアルとデジタルの垣根がどんどん薄いものになりつつある中、リアルかデジタルか、は些末な違いになっていく可能性があります。

NFTの価値はファンの数やコミュニティーの大きさで決まると言いましたが、これはSNSのように「いいね!」の数やフォロワーが多ければ多いほど、そのアカウントの「価値」が上がることと同じような現象です。

しかし、これまでの「WEB2.0」のSNSでは、FacebookやTwitterなど、特定の企業が無料で参加する人の個人情報を第三者に売却して、荒稼ぎするようなシステムでした。

一方、「Web3.0」時代になると、SNS上でシェアした写真やコンテンツをブロックチェーン等の技術を用いて「NFT化」し、個人が利益を上げることもできるようになります。

資産の一点集中などが生まれにくく、より公平に多くの人が機会を得ることができるようになるでしょう。私は、今後世界全体が中央集権型の一極集中から各コミュニティーや個人に権限や価値が戻っていく、そんな流れを予想しています。

NFTは所有権が移り変わる経緯が明確で、インターネット上に公開されているので、例えば転売される度にその資産を元々作った人に転売益のいくらかが永続的に還元されるような仕組みにすることができるそうです。

Web2.0のインターネットでは情報、写真、動画や他のコンテンツがいつでも簡単に無料で手に入るという利便性がある一方、そのコンテンツを元々作ったクリエイターが搾取される副作用もありました。

また、無料コンテンツがあふれることによって資金や影響力のある企業や個人のコンテンツばかりが目立つようになり、「デジタル格差」が広がってしまう面もあります。

Web3.0では価値を提供した人に価値が自動的に還元される仕組みをNFTのデータに書き込むことができるので、より公平な経済活動が行われると期待されています。

インターネット同様、試してみることで理解は深まる

なんとなく実態がぼんやりと見えてきたような、「NFT」の概念。「理解しにくい場合は、実際に試してみることが一番手っ取り早いです」とサミさん。

昔、インターネットが出てきたとき「これは便利だ」といっても、使いはじめるまではその価値を理解しづらかったと思います。

実際に使い始めてみると、わざわざ図書館に行ったり、書店にいったりして本を買わなくても、インターネット上で本や記事を読めるようになりました。要件を手紙に書いて送るよりも、ネット上で文字を打って送るメールのほうが圧倒的に早いですよね。

それと同じで、“機能性”としての価値を感じるようになると、人は対価を支払うようになります。NFTも、それを持っていることで価値を感じるという“所有欲”が刺激され、コレクションしたくなるようなものがどんどん出てきています。

例えば、アイドルのトレーディングカードやゲーム上でのサッカー選手のキャラクターアイテムなど、ファン心理や所有欲などの気持ちが刺激され、満たされるような存在がNFTとして続々と市場に出てきています。

急速に市場が拡大する「NFTへの投資」に関する話題も見かけますが、サミさんはどのように考えているのでしょうか。

NFTを投資として考えるのはまだ時期尚早だと感じます。NFTに関係するどのコミュニティーが今後広がるかというのは予想しづらいので、値上がり益を狙って得るのはまだ難しいでしょう。

それよりも、ファンとしてそのコミュニティーが好き、コミュニティーの一部になりたいという気持ちから、NFTを買って参加するほうがいいと思います。

ぜひ、自分の価値観に合ったNFTを見つけて、楽しんでいただけたらと思います。

さらに、NFTは楽しむという要素だけでなく、大きな社会貢献にもつながるそう。「世界に目を向けてみると、銀行口座を持っていない人など、経済的に除外されている人がたくさんいますが、その人々にとっても大きな恩恵をもたらしてくれます」とサミさん。

後編では、その話を詳しくお聞きします!

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Image: GettyImages