コロナ禍の影響で、「人と会って話をする」ことが難しくなってしまった結果、ラジオから聞こえてくる人の声に気持ちが救われることが増えたーー。
ラジオDJ、ナレーターとして活躍する『なぜか聴きたくなる人の話し方』(秀島史香 著、朝日新聞出版)の著者は、そう指摘しています。たしかに最近は、「ラジオを聴く人が増えた」というような報道を目にすることも少なくありません。
しかし、そもそも「声だけ」で、なぜ心がほっとするのでしょうか? 「なぜか聴きたくなる人の話し方」とはどういうものなのでしょうか? こうした疑問について、著者はこの機会に考えなおしたのだそうです。それがわかれば、普段の会話もぐっと楽になるはずだから。
ラジオを愛する一人のリスナーとして、そしてその現場に身を置くDJとして、「この人の『さて……』の間が絶妙すぎる!」など、ちょっと引かれるくらいのマニアックさでその心地よさを分解していきました。
すると、それはどのような「素材」や「下ごしらえ」や「工夫」でできているのか、ひとつひとつが見えてきたのです。(「はじめに」より)
そして、気づいたものを片っぱしから生放送の現場で試し、トライ&エラーを重ね、その結果をまとめたのが本書。つまり紹介されているのはプロの現場で生まれた方法ですが、決して難しいものではなく、誰にでもすぐ試せるものばかりです。
きょうは第3章「ずっと話していたくなる人って?」のなかから、「まずは『一緒にいて疲れない人』に注目してみたいと思います。
ラジオはなぜ「聞いているだけでいい」のか
感情がたかぶっていたりすると、次々とことばがあふれ出し、相手が話している途中であるにもかかわらず「わかる! 私もこの間ね」というように、勢いよく自分の話にすり替えてしまったりすることがあるものです。
しかしそうなると当然ながら、相手は「私が話していたのに」とモヤモヤを募らせてしまうはず。そればかりか、気持ちがフッと離れてしまうこともあり得るでしょう。なにを話しても自分の話にすり替えられてしまうと、会話の「聞く」と「話す」のバランスが保てなくなり、楽しいはずだった会話が疲れるものになってしまうわけです。
一方、出演者だけが一方的に話をしているラジオの場合は、「聞いているだけ」なのに不思議と疲れないもの。それは、なぜなのでしょうか? 著者によれば、日常生活ではあまりないこの状況は、DJの話し方がキモになっているのだとか。
長時間心地よく聞いていられるのは、聞き手に向けて、徹底的なおもてなし、つまり「聞きやすさ」を心がけているから。言い換えれば、ラジオ番組ならではのメリハリ、「聞き流せる」余白が意図的につくられているからです。(111ページより)
ゆったりとしたトークが中心の番組、音楽番組、芸人さんがしゃべりまくる番組、ニュース番組などさまざまありますが、程度の差こそあれ、どのように「余白」をつくるかについてはしっかり工夫されているというのです。(110ページより)
話には集中しやすいサイズがある
とはいえ、聞き流される前提で話してしまっていいのでしょうか? この問いに対して著者は、「常に集中して聞いていないと内容がわからなくなってしまう」というのでは聞き手にやさしくないのだと主張しています。
また、聞いて疲れない番組は、「途中参加さん」もしっかりケアしているもの。たとえばDJがいたるところで「きょうのテーマは◯◯で、先ほどこんなメールをご紹介したのですが、こんな反響があって」というように、これまで話した情報や話題の交通整理をしているわけです。
途中から聞き始めた人が楽しめないものは、最初から最後まで聞いている人にもやさしくないもの。なぜならオンエア中ずっと、集中することを求めてしまうからです。でも、1秒たりとも聞き逃せないというような番組では、毎日聞く気にはなれません。
ちなみにラジオの生ワイド番組の多くは、だいたい3時間を目安に構成されているそう。そのなかに、ひとつの話題を深く掘り下げるコーナーや、気楽なフリートークの時間、メール紹介や交通情報、天気予報など、聞いている側が意識していなくても、ふっと気を抜いて休憩できる時間と、ぐっと身を乗り出して聞きたくなるような時間が用意されているわけです。
集中力のスイッチがオンになったりオフになったりすることで、「長時間耳を傾けている」という意識が薄れ、聞きやすい一口サイズの話が代わる代わるやってくる感覚になります。(113ページより)
番組中、DJがずっと話しているように思えたとしても、実はひとりで話す部分に関しては1テーマで3分程度。そのため途中で聞き逃してしまったとしても話を理解しやすく、話題もリズムよく変わっていくため飽きることなく楽しめるのです。(112ページより)
相手にパスできる「会話の余白」をつくるコツ
したがって実際の会話でも、相手に気持ちよく聞いて話してもらうために「余白」を意識してほしいと著者はいいます。相手があいづちや質問、コメントができるような数秒の「息継ぎタイム」=「会話の余白」をつくるべきだということ。
ひとつの文章を話し終えたら、相手の目をチラッと、でも、よーく見てください。それは「あなたの番よ」という小さな“パス”となります。こうすることで、相手は「ほんとに!?」「なるほど」といった小さな言葉をはさみやすくなります。
そこで「あなたは?」と話を振ってみる。それは、一本のマイクを相手に「はい、どうぞ」と渡すようなイメージです。(113ページより)
難しそうに思われるかもしれませんが、まずは意識していつもより相手の表情を捉えつつ、「間」をつくりながら話すだけでいいようです。たとえば自分が話し終えたあと、相手に向かって小さくうなずいたり、沈黙を恐れずに相手がことばを発するのを笑顔で待ってもOK。
そうしてつくった余白のあとに「◯◯さんにもこういう体験あります?」「◯◯さんならどうする?」などと話を向けてみる。すると、わかりやすくバトンを受け取った相手は、「私の番だ」と話を始めてくれるわけです。(113ページより)
がんばらなくてもすぐに実践できる簡単でシンプルな方法から、プロがさりげなく使っている隠し味まで幅広い内容。そのため、日々小さく試し、取り入れることで、確実に自分のものになっていくはずです。人から「なぜか聞きたくなる人だな」と思ってもらえるようになるため、参考にしてみてはいかがでしょうか?
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Source: 朝日新聞出版