タイトルからもわかるとおり、『12歳から始めるあがらない技術』(鳥谷朝代 著、秀和システム)は小学生の子どもでも読める「あがり対策」の本。ただし、あがり症は年齢に関係なく多くの人の悩みでもあるはず。ましてや大人と子どもとで対処法が異なるわけでもないだけに、家族で読める一冊だといえます。
興味深いのは、このようなタイトルにした理由です。根底にあるのは、中学1年生、まさに12歳のときにあがり症になったという著者自身の経験。中学・高校と授業に出られず、誰にも悩みを打ち明けられず、大学進学もあきらめて苦しい思春期を送ったというのです。
しかし、社会に出てから話し方講座と出会い、17年間のあがり症を克服。2004年には「あがり症・話しベタさんのためのスピーチ塾®」を開校して独自の「あがり改善法」を確立し、多くの人々に指導しているというのですから驚きです。
あがり症状を自覚するのは、おおむね中学〜高校生です。
思春期であり、自我が芽生える時期と一致します。
授業でまったく挙手できない、発言できない、高校受験の面接が心配で仕方ない。でもできるだけ薬は飲ませたくない……と、悲痛な思いでお子さんを連れて来校される保護者様も少なくありません。
お気持ち、とてもよくわかります。
なぜなら、私自身も、執筆時、12歳の子どもの母親だからです。
(「はじめに あがり、緊張になやんでいるみんなへ」より)
つまり、子どもに向けた柔らかな口調で書かれた本書は、自身のあがり症克服体験と、母親との立場を前提として書かれたものなのです。本書のなかから、きょうはそのなかから、第2章「おどろくほど簡単にあがらなくなる」をクローズアップしてみたいと思います。
あがり症ほど話が長い…自分のターンは3分まで
人前で話すのが上手な人とは、短い時間でいいたいことを、しっかり言語化できる人。著者はそう断言しています。
つまり話が上手だからといって、いつまでも話が続けられるわけではないということ。そして重要なポイントは、あがり症の人は話が長くなってしまう傾向にあるという点です。意外な気もしますが、なぜそんなことになってしまうのでしょうか?
それは、あがっちゃうと頭の中がパニックになって、話すことが整理できなくなっちゃうからです。
話しているうちに、頭の中が真っ白になって、自分が何を話しているかわからなくなり、話のゴールを見失って、しどろもどろになり、話が長くなってしまうのです。(66ページより)
しかし話が長いと、聞いている側も集中できなくなり、話が頭のなかに入ってこなくなったりするもの。「話が長い!」と思われたらアウトだということで、話す時間は1分〜3分がベストだそうです(もちろん、時間が決められている場合は従う必要がありますが)。
当然ながら、人前で話すときに使うときは、自分の時間のみならず、聞いている人たちの時間も使うことになります。たとえば30人の前で3分話す予定だったのに5分話してしまったとしたら2分オーバーで、30人×2分=60分。
ひとりひとりの時間は少なくても、全員の時間を合わせれば大きな時間になるわけです。したがって、「聞いている人の貴重な時間をいただいている」のだと意識することが重要なのだと著者はいうのです。
話がなが〜くならないコツは、あらかじめ「シメの言葉」を決めておくことです。
緊張してくると、最後、どうやって話を終わらせようかが、わからなくなってきます。でも、最後のシメの言葉を決めておくと、ちょっとくらい話が横道にそれても、またもどってくることができます。(68ページより)
しかも、「これからもみんなと協力していきたいと思います。よろしくお願いします!」など、簡単なことばでOK。シメのことばには「これで話は終わりです」とはっきり伝える役割もあるため、利用価値は大きいのです。(66ページより)
話すスピードを、ちょっとだけ落とす
あがっているときは、「早く終わらせたい」と思うあまり、だんだん早口になってしまうもの。しかし早口になると余計に焦り、もっとあがってしまうという悪循環に陥ってしまいがちです。
けれども逆に考えれば、話すスピードを落とせば、あがりをコントロールできるということになるはず。「緊張して早口になっているなあ」と感じたら、ちょっとスローダウンしてみればいいということです。
目安としては、ふだんの1.5倍くらいの時間をかけて話すようにしましょう。
きっと、自分としてはゆっくり話しているつもりでも、ふだんのクセってかなり根強いもの。実際には、あまりゆっくりになっていないことが多いです。
自分の話すスピードを確認するのに、いちばんいい方法は、録画・録音してみることです。自分の感覚ではなくて、分や秒という世界共通の公平な方法で、正確に時間が確認できます。
どのくらいゆっくりがよいかというと、1分間に300文字くらいが理想です。
話すことのプロであるテレビのアナウンサーも、これくらいのスピードで練習をしています。(74ページより)
実際に1分間300文字くらいで話してみると、とてもゆっくりに感じるかもしれません。しかしそれは、普段のなにげない会話が早口だからかも。けれども、普段の会話と、大勢の人の前での発表は別ものです。
ふだんの会話であれば、「なにをいっているかわからない」と思われたとしても、「え?」と聞き返されたときにもう一度話せばわかってもらえるでしょう。しかし、人前で発表しているときはそうはいきません。
その状況で話を続けると、聞いている人は話の内容がわからないまま聞き続けることになります。すると結果的に、好意的に聞いてもらえなくなる可能性も出てくるでしょう。だから人前では、「みんなが聞き取りやすい話し方」をすることが重要なのです。
とくに注意したいのは、話の終わり、語尾です。(中略)
語尾がていねいでゆっくりだと、それだけで、とても聞きとりやすく、上手な話し方に聞こえてきます。(76ページより)
さらには、話している自分も落ち着いてくるというメリットもあるようです。(74ページより)
あまり注目されないことかもしれませんが、子どもがあがり症で悩んでいる一方、親自身も同じ悩みを抱えているというケースも少なくないはず。だからこそ本書を活用すれば、親子ともども悩みを解決できるかもしれません。
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Source: 秀和システム